大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 7月4日 提灯

2013-07-04 18:05:01 | B,日々の恐怖






       日々の恐怖 7月4日 提灯






 Nさんが、今はもう亡くなりましたが神主をしていた爺様から聞いたお話です。
戦時中、“戦争に行った息子が無事に帰って来るように”と、Aさんのお母さんが毎晩お百度参りをしていました。
事情と心境を知った爺様一家は“せめて少しでもお手伝いを”という事で、夜は境内の明かりを絶やさないようにしていました。 (当時、提灯を使ってた)
 家族の願いも空しく、Aさんはどっかのジャングル系の戦場に行かされたと連絡が入りました。
Aさんの安否も分からなくなるぐらい戦況は悪化し、周りの人も“もうだめかも知れない”と思い始めた頃です。
 ろうそくを足しに行った爺様が見ると、提灯が何故か一個無くなっていました。
縁起が悪いってことで、お母さんには提灯のことは内緒にしておきました。
 その晩もお母さんのお百度参りが始まり、途中一時間程経った頃、彼女もやっと提灯の数が少ないことに気が付きました。
しかし、お百度参りを終えたお母さんが、見ると提灯はもとの数に戻っています。
 それで、お母さんは爺様に声をかけました。

「 神主さん、提灯、足してくれたんですね。
ありがとうございます。」

爺様が見たら、無くなっていた提灯が戻っていた。

“ エッ・・・?”

と爺様も思ったそうだが、その晩は内緒のままで終わり、時が経ち終戦となりました。
そして、Aさんは無事に帰国した。
その後、息子を連れてお母さんがお礼にやって来た。

「 神主さん、聞いて下さい。
この子がこんな事を言うんです。」

 ジャングルに送られたAさんの部隊は、朝も昼もずっと追われていた。
上官も仲間もみんな途中で亡くなり、Aさんはジャングルに逃げ込み、遭難した。
食べ物もなく、茂った樹で空も見えないから、星も見えず月明りも届かない真っ暗闇。
敵がそこにいても何も見えないような闇の中、Aさんは民家の明かりを見つけた。

「 殺されるかも知れないけど、行ってみよう。」

 Aさんは、明かりに向かって歩きだした。
真っ暗闇で足元も何も見えず、何度も転んで滑って、それでもどんどん歩いた。
 あれからかなり歩いたのに、Aさんと明かりの距離は全く縮まらない。
Aさんが転ぶと止まるし、歩きだすと明かりも進む。
やっと“おかしいぞ”と気が付いた時、明かりがフッと消えた。
 慌てて明かりが見えてた方向に駆け寄り、場所を確認しようと顔を上げると、現地の山村の集落が見えた。

「 片言英語みたいなので助けを求めたら、そこの人たちが助けてくれたんです。」

敵国の兵隊なのに水や食料と服を与え、手当てまでしてくれた。
後から聞くと、その集落の近くの集落(1キロ程の距離)では、日本兵は殺されていたという。
 数日後、村に兵士がやって来て、Aさんは捕虜として連れて行かれてしまったが、ひどい扱いは受けなかった。
そして、終戦後、無事に帰国した。

 Aさんが見てた明かりは、バスケットボールぐらいの大きさの丸い物だったそうです。
日本とジャングルで時差はあるだろうけど、Aさんが明かりを見つけたぐらいの頃、境内の提灯が無くなっていた。
 お母さんが提灯の数に気が付いたぐらいの頃、Aさんはあの村にたどり着いていた。

“ 神さんが提灯を貸して下さったんだ。”

と親子は思い、爺様に報告とお礼にやって来たのだと言う。
 爺様は、

“ あれはきっとお母さんの悲願を聞いて、提灯が安全な道を知らせに行ってたんだね。”

と言っていた。
そして、その提灯は結構新しい物だったのに、戻って来た時にはボロボロに傷んでいたそうです。
















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