日々の恐怖 12月2日 夜間せん妄(1)
病院に勤める看護婦のHさんと話をする機会がありました。
私は病院に勤めています。
これは、その病院に就職してまだ2~3年くらいの時の話です。
その病院は増築を繰り返しており、古い建物と新しい建物が繋がってできていました。
その中でも私は一番古い建物の病棟に配属されていました。
その病院には様々な方が入院されてきましたが、やはり多いのは高齢者です。
転んで骨を折ったとか、脳梗塞になったなど理由は多様ですが、ほぼ高齢者でベッドが埋まっている状態でした。
突然ですが,夜間せん妄って知っていますか?
夜間せん妄は簡単に言うと、夜に意識がもうろうとして幻覚や錯覚がみられる状態のことです。
多くは認知症の高齢者にでる症状で、人によりその状態も様々です。
体調次第で一時的に症状が出てしまう方もいます。
私の勤める病院に入院しているのは体調の悪い高齢者です。
もちろん認知症の方も大勢いるわけです。
そうなると、必然的に夜間せん妄の方がでてきます。
「 お~い、お~い、誰か~・・・・。」
誰が呼んでいるか分かっていても、薄暗い廊下に響く声はちょっと怖いです。
だいたいこういう場合に、幻覚が見えているとその方も怖いのでしょう。
よく、
「 誰かそこにいる。」
とか、
「 あの黒いのは何?」
とか、自分が見たものを訴えてきます。
“ これは幻覚を見てるんだ!”
ということがわかっていても、
「 ほら、そこにいる。」
とか言われるとめちゃくちゃ怖いです。
実際は全く何も見えないのに、人間の脳って不思議です。
ある時など、ふらふらと病室からでてきたおばあちゃんに、
「 どうしたの?」
と尋ねてみると、
「 窓ガラスに、たくさん生首がいたのよ~。」
と、淡々と報告されました。
ぼんやりした状態でも、テンションは普段と変わりません。
普通そんなもの見たらもっと慌てるでしょうに。
これでその窓ガラスの向こうには墓地が・・・、とかオチがあれば本物でしょうが、残念ながらあるのはまったく普通の民家です。
びびりながらも一緒に窓ガラスを確認して、そのおばあちゃんも見間違いと納得されていました。
こういったケースなら、
“ この人、幻覚見ちゃったんだな。”
と思うところなのですが、ある病室に入院する方の幻覚症状は少し違ったのです。
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