日々の恐怖 12月27日 負けたわ
主婦Aさんの話です。
まだ私が結婚する前、実家で祖父母も一緒に暮らしてたんだけど、祖父が脳梗塞で倒れて入院した。
祖母もそのころ具合良くなくて、日替わりで自分の病院と祖父のお見舞いに行ったりしてた。
もともと仲の良い夫婦ではなかったけど、
「 あんな、モノも言われへん寝たきりなってしまいよって!」
とか言ってしまう祖母のこと、昔から嫌いだった。
口答えするとさらに上から返されて、悔し泣きしたこともある。
そんな祖母だったけど、ガンが進行して祖父とは別の病院に入院した。
調子の良いときは外出許可もらって叔母さんらと祖父のお見舞い行くんだけど、やっぱり文句ばっかりだった。
私がたまに祖母のお見舞い行って、藤色の手袋ステキねと誉めると、
「 貴婦人に、よう似合うやろ。」
と不敵な笑みで答えるぐらい元気だったけど、そのうちカーテンレール指差して、
「 もう梅の花が咲きよるな。」
とか軽くボケだした。
体の方もベッドから降りれないくらいになってたから、
「 お父さん、まだくたばってへんか・・・。」
と、長らく見舞えてない祖父のことを心配したり、少しずつ弱気なところも見せるようになっていた。
そして祖父がとうとう亡くなってしまって、祖母にどう伝えようかと親戚一同で話し合った結果、今は祖母には言わない方がいいと決めた。
なので祖父のお通夜・お葬式の時も、悟られないように着替えたり工夫して交代で病院へ行った。
そんな折、母がお見舞いに行くと、
「 お父さん病室かわったんか?
昨日行ったらおらんかったんや。」
「 え?外出られへんやん・・・。」
「 いや、見舞い行ったがな。
お父さんのベッド、2階上がったとこの部屋の入って右やろ?
知らん人に変わっとったわ。
でも、奥のあのオッサンはおったなぁ。
やっぱり部屋かわったんやな。」
母は、なぜ寝たきりの祖母がそんなことを、と驚いてそれ以上聞けなかった。
でもまぁ、あり得ない話ではないなとも思った。
母は実父が息を引き取ったであろう時間に突然大量の涙が溢れてきたり、虫の知らせレベルの経験はしている。
私もちょうどその頃金縛りに悩まされてた時期だったので、そんなこともあるんだな~と二人で変に納得してた。
ある日私は、夜中にまた金縛りにあった。
さすがに3日ほど続いていたので恐怖よりも苛立ちの方が勝ち、
“ 毎晩睡眠の邪魔するな!今日はこの勢いで目を開けて見てやる!誰や!”
と思った瞬間、横から私の顔と肩を物凄い力で押してくる。
今までの金縛りとは何か違う。
“ 痛い!誰や!”
と動かない腕を必死で伸ばした先に触れたのは、手だった。
手袋をつけた、女性の手だった。
“ おばあちゃん・・・・!?”
その瞬間いっそう強い力で押され、苦しいと思った時に体が軽くなり金縛りが解けた。
翌日、祖母のお見舞いから帰った母にその話をしようとしたら、母の方が、
「 今日、また変なこと言うてたで~。
“仏壇の前に置いてある白い箱なんや?”って。」
それは祖父の遺骨だった。
お葬式の後から置いてある。
「 うん、昨晩おばあちゃん来てたで。
なんか知らんけど、負けたわ。」
「 あんた会ったん?
で、何に負けたん?」
「 わからん。」
その後少しして祖母は息を引き取ったが、亡くなる直前、意識が朦朧とする中で祖父が亡くなってることを聞かされ、一瞬驚いた表情を見せた後に涙を流しながら、静かに頷いていた。
なぜ、私に最後にケンカ売ったのかはまったく意味がわからんけど、祖母は安らかな顔で旅立っていった。
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