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日々の恐怖 12月18日 顔を薙ぐ

2015-12-18 18:22:25 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 12月18日 顔を薙ぐ



 自衛隊に勤務していたKさんから話を聞きました。
これは、何年か前、Kさんが当時所属していた中隊の先輩から聞いた話です。
 まもなく昭和の時代も終わろうとする夏のことです。
先輩は、輸送班に臨時勤務中で、休日の広報業務支援のため、土曜の夜に一人営内で残留していた。
翌日は早朝からの運転業務のため、酒も飲まず早い時間からベッドに入っていた。
 しかし、そうそう早く眠れるはずも無く、もやもやと時間ばかりが過ぎていった。
ふと気が付くと、部屋の片隅にゆらゆらと揺らぐ空間がある。

“ 何だ?”

と目を凝らすと次第に揺らぎは消え、あとには女の姿があった。
 クリーム色に青と緑の格子柄のパフスリーブのワンピースに、つば広の麦藁帽子をかぶった若い女だった。
 不思議と、先輩は、

「 なぜ女が?」

とは思わなかったという。
 やがて女は次第に先輩のベッドに近づいて来た、近づくほどに腰をかがめながら。

「 最後には、ほとんど四つん這いだったな。」

それでも、なぜか女の顔だけは霞んだ様にはっきりとは見えない。
 やがて、女はベッドの縁に手を掛け、覗き込むように顔を近づけたという。

「 その瞬間までは、不思議と恐怖感は無かったんだ、これっぽっちも。」

しかし、突然に女の顔がはっきりと見え始めた様な気がした。

「 これは見ちゃダメだ、そう思ったよ。」

先輩は、全力で半身を起こし、左の拳で女の顔のあたりを薙いだそうだ。

“ ぐしゃり。”

という、なんとも言い様の無い感触を最後に先輩の意識は途切れた。
 翌朝、目を覚ました先輩に残されたのは、尋常でない寝汗で濡れたベッドと、左拳全体の青痣があった。
 そして、先輩は途切れ途切れに言った。

「 まあな、寝ぼけて暴れてどっか殴ったのかもな。
でも、痣の酷さのわりに全然痛くなかったし。」

「 今思うと、あの女、なんだか悲しそうな、寂しそうな、そんな感じもしたなあ・・。」

「 話、聞いてやっても良かったのかな?」

「 殴ったりして、悪かったのかな?」

「 でも、そうしてたら、俺、どうなってたろう?」

「 なあ、お前なら、どうしてた?」










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