日々の恐怖 12月3日 夜間せん妄(2)
その病室に入院する方々は、病名も性別もバラバラです。
確かに高齢者であることに変わりはないのですが、認知症ではない方も同じ幻覚の話をするのです。
その幻覚とは、ふと気が付くと女性がドア付近に立っているというものでした。
「 はっきりとは見えなかったが、あれは誰か?
夜に誰かきたのか?」
と、その病室の方によく聞かれました。
これだけ同じ目撃証言があると、これは幻覚ではなく本物ではないかと思ってしまいます。
そこで先輩職員になぜその病室だけ同じような目撃証言があるのか聞いてみたのですが、原因ははっきりしませんでした。
「 この病院古いし、どの部屋でも亡くなってる人いるし。
原因なんてわかんない。」
と、怖いことをさらっと言われてしまいました。
ところがその後、他の先輩に聞いてみると、
「 その女の人、確かにたまに見るわ。」
との衝撃発言が返ってきました。
私は思わず、
「 やっぱり、あれは本物ですか!?
てか、見えてたんですか!?
教えてくださいよ!」
と詰め寄ってしまいましたが、その先輩職員曰く、
「 何かするわけでもないし、仕事には差し支えないでしょ!」
とベテランならではの頼もしい返答がかえってきました。
それからしばらくは夜の病棟を歩くときが怖くて仕方ありませんでしたが、結局私が見ることはありませんでした。
そのうち、確かに仕事に支障はないことを理解して、慣れって怖いなと思ったものです。
その後病院の建物があまりに古いので、建て直して新しくなりました。
すると、入院している方からその女の人の話はぱったりと聞かなくなりました。
ふと会話のネタで先輩職員に、
「 そういえば、あの女の人の話聞かなくなりましたね。」
と言うと
「 確かにね。
まぁ、今度は病室にはいないからじゃない。」
とのお答えでした。
場所は教えてくれませんでしたが、どうやら今はあまり目立たない場所にいらっしゃるようです。
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