大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 5月16日 佇む人

2013-05-16 18:14:20 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 5月16日 佇む人






 ある地方の村で起こった話をしよう。
その村は、山中に這うように細長く民家が点在する、いわゆる寒村だ。
人口は少ない。
当然、子供も少ない。
 村に住む少数の小学生たちは、山道を4Kmも下った小学校まで毎日歩いて登校していた。
小学校までの道のりは、彼等にとってさほど苦痛ではなかった。
年上の子供が年下の子の面倒をよく見ながら、他愛のない会話に盛り上がりコロコロ笑いながら日々の登下校を繰り返す。
自動車のすれ違うのも難しいほど細い道を彼等は毎日歩いていた。
 ある冬の初め、子供たちはひとりの男に出会った。
男は釣り人のような格好をしていたが、釣竿は持っていなかった。
この地域は山が深く、道路のすぐ下は美しい渓谷、道の反対側は山肌を削り取ったという状態で土砂崩れ防止の補強をしていない場所もある。
子供たちが釣り人に出会ったのは、そんな所だった。
 帽子を目深にかぶった釣り人は、どんな人相なのか判然としない。
ただ、口元の皺の具合から、かなり年配であることは判った。
 釣り人は、登校のために山道を降りてくる子供たちをジッと見つめていた。
別に何をするでもなく、子供たちが通り過ぎるのを道の際に立って眺めていた。
 子供たちは見慣れない男を不審に思いながら、男から視線をそらせて前を通り過ぎた。
その時だ。
子供たちに聞えるか聞えないかの低い声で釣り人が言った。

「 帰りは、ゆっくり遊んできなさい。」

 子供たちはびっくりして釣り人を見たが、振り向くとどこにも釣り人の姿がない。
道路の右側は高い崖、左側は深い渓谷。
釣り人が隠れられる場所はない。
 子供たちはゾッして山道を駆け下り、学校までなんとかたどり着いた。
幾人かの子供が先生にその話をしたが、誰も信じてはくれなかったという。
とにかく、帰りは気をつけなさい、そう窘められた。
 その日は午前中で授業が終わる予定だった。
村に帰る子供たちは全員が校庭で待ち合わせをし、揃ったところで一緒に下校する。
家までの帰路は遠い。
 いつもなら全員揃ったところですぐに下校するのだが、その日は勝手が違っていた。
子供たちが口々に言ったのだ。

「 あのおじさん、帰りはゆっくり遊んできなさいって言ってたよね。」

 あの不思議な釣り人の言葉が頭からついて離れなかった。
そこで子供たちは、一時間だけ校庭で遊んで帰ることにした。
 そうして子供たちは、その日、全員が家に帰れなくなった。
村に続く唯一の山道が土砂崩れを起こしたのだ。
それはちょうど、あの釣り人と出会った場所だった。
もし校庭で遊んでいなければ、子供たちがその場所を通りかかる頃に土砂が崩れ全員無事でいなかったかもしれない。
 土砂崩れの知らせを聞いた親たちは、帰ってこない我が子を心配して学校やら麓の親戚やらに電話をした。
そして子供たちが全員学校で遊んでいて無事であることが判明した。
 土砂は一日で取り除かれ道路はすぐに復興したが、その一週間後、近くの渓谷で死後数ヶ月と思われる腐乱した遺体が発見された。
渓流釣りに来て、ひと知れず事故死した釣り人だった。

 実は、これは私の母が子供時代に体験した話だ。
数ヶ月も前に死んだ釣り人が命を救ってくれたのだと彼女は言う。
誰にも見つけられず谷底で死に、静かに腐りゆく釣り人の魂は、登下校の度に聞える子供たちの楽しげな声に助けられたのかもしれない。















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日々の恐怖 5月15日 電話ボックス

2013-05-15 19:34:09 | B,日々の恐怖







    日々の恐怖 5月15日 電話ボックス







 これは、青木ヶ原樹海を深夜にドライブしていた時体験したときの話です。
その日、私は友達と二人で夕食を食べ、そのままドライブを楽しんでいた。
私たちの車が青木ヶ原樹海にさしかかったのは、深夜2時を過ぎていたと思う。
 樹海の中を貫く国道は、時折、トラックとすれ違うぐらいで、車の通りはほとんどなかった。
鬱蒼と茂る樹海の木立に左右を挟まれた国道は、街灯も無く、本当の暗闇。
 山梨県側に向って、真っ暗な樹海の道路をしばらく走ったときだ。
突然、車の調子が悪くなった。
アクセルをふかしても、スピードが上がらない。バッテリー系統も弱くなり、車が止まりそうになったのだ。
 こんな真夜中に、樹海の真ん中で故障してしまうと思うと、普通ではいられなかった。
緑の青々とした樹海は、昼間はとても気持ちが良い。
だが、いったん日が暮れると、本当に不可解な何かが潜んでいるように感じられる。
 車が完全に止まってしまう前に、私たちは車を路肩に停めた。
かろうじて回っているエンジンの音を聞き、友達は、このままエンジンを切らないほうがいいと言った。
エンジンを切ってしまうと、かからなくなってまうかもしれない、と言うのだ。
 季節は晩秋だった。
夜の青木ヶ原樹海は深々と冷えてくる。万が一助けが来なかった場合に備え、せめてエアコンだけでも使えるようにしておいた方が得策だった。
 とにかく、助けを求めるために電話をかけなくてはならない。
当時は携帯電話がやっと普及し始めたばかりだった。
樹海の中は電波の状態が悪く、携帯で電話をかけるのが難しかった。
 仕方がないので、私は公衆電話を探しに、友達を車に残したまま夜道を歩き始めた。
友達は、エンジンが完全に止まらないよう、定期的にアクセルをふかす役目だ。
 樹海の道は幾度も通っているので、確かこの近くに、観光施設があるのを私は知っていた。
観光施設の駐車場には、電話ボックスがあったはずだった。

 10分ほど歩くと、電話ボックスの明かりが見えた。
こんな時間だから、勿論、観光施設には誰もいないし、電気も消えている。
樹海の暗闇の中で、電話ボックスの電気だけが白々と灯されていた。
 その明かりを頼りに足早に歩き、電話ボックスに着いた時だ。
私は一瞬、足が止まった。
電話ボックスの中に、小学生ぐらいの女の子が、下を向いてうずくまっているのだ。
 深夜2時過ぎの暗闇の樹海に、女の子がいる。
どう考えても不気味だった。
 だが、その女の子は妙に現実味があって、幽霊や亡霊のようには見えなかった。
それに、その電話ボックスで車の故障を知らせなくてはならない。
 私は、少し警戒しながら女の子に声をかけた。
すると女の子は、うずくまったまま私を見上げた。
デニムのミニスカートに、黄色いサンダルを履いている女の子の顔には、大きなアザがあった。
右目の下あたりに、殴られたような青アザがあったのだ。

“ 何かの事件に巻き込まれたんじゃないか?”

幽霊だの亡霊だの思う前に、リアルにそう考えた。
 一体何があったのかと訊ねると、少女はこう答えた。

「 お母さんが帰ってこない。」

少女の母親は、娘を駐車場に残したまま、樹海の中に入ったきり戻ってこない、と言うのだ。
私はゾッとした。
自殺、という二文字が頭に浮かんだ。
 少女は両膝を抱え、また下を向いてしまった。
その姿があまりにも哀れで、そのまま放っておけなくなった。
 私はとりあえず、少女の座り込んでいる電話ボックスに入って、同級生がやっている自動車整備工場に電話をかけた。
真夜中だったから中々出てくれなかったが、しつこく何十回も鳴らすうちに、奥さんらしい女の人が眠そうな声で電話に出てくれた。
 私は車の故障を告げ、ついでに、警察に電話をしてくれるよう頼んだ。
奥さんは、そこで待っててください、と言って電話を切った。
私が受話器を置いた瞬間だ。
ふと視線を移すと、少女が電話ボックスの中にいない。
 いつの間に外に出たのか、少女は電話ボックスの前をフラフラと横切って、真っ暗な樹海の方へ歩いていく。
私は慌てた。
母親とはぐれ、真夜中の樹海に取り残された恐怖で、頭がおかしくなってしまったんじゃないかと心配になった。
 急いで少女を追いかけたが、意外とその足は速く、どんどん樹海の暗がりの方へ向って行く。
いくら呼び止めても、少女は立ち止まろうとしない。
それどころか、何かに引き寄せられるように樹海の木立の中へ入って行くのだ。
 暗闇に目が慣れてきたこともあり、私は駆け足で少女を追った。
樹海は溶岩大地にできた森だ。
未整備の場所には大小様々な穴がぽっかり口をあけている。
こんな真夜中にそこに落ちたら、怪我どころでは済まない。
 樹海に入りかけた少女の腕を、私がやっと掴もうとした時だ。
私の二の腕を、後ろから強く引っ張る者がいた。
私はギョッとして振り返った。
 私の腕を引っ張ったのは、車に残っているはずの友達だった。
暗がりでも、その友達の顔つきが異常なのが判った。

「 何やってんだ!!」

友達は声を荒げた。
 私は驚いたが、それより、樹海に入ってしまった少女の方が気になった。
友達の手を振り払い、私が樹海の中に目を凝らすと、少女の姿はどこにも無かった。

「 女の子が樹海に入って行った。
母親を探しに行ったのかもしれない。」

 私の言葉に、友達は不可解な顔つきをしたが、とりあえず、私を電話ボックスの明かりの近くまで引っ張って行った。
 その時の私は、とにかく狼狽していた。
目の前で、小さな女の子が真夜中の樹海に入って行ったのだ。
これが落ち着いていられようか。
少女がどうなるかは歴然としている。
 だが、友達はもっと狼狽していた。
私が電話をかけに行ったきり、二時間以上も戻ってこないので心配していた、というのだ。
 私は ハッ、と我に帰った。
私が車を離れてから、せいぜい30分程度しか経っていないはずだ。
二時間以上経っているとは、どういうことだろう?
電話ボックスにいた少女のことも気になるが、とにかく、外部に連絡した方がいい、友達が冷静に意見した。
 私が同級生の整備工場にすでに電話したこと、そこの奥さんが、その場所で待っているように指示したことを伝えると、友達は眉をひそめた。
整備工場の奥さんは出産の為に実家に帰っていて、その家に女の人は誰も居ないはずだ、というのだ。
 私たちは気味が悪くなって、もう一度、整備工場に電話した。
電話に出たのは同級生だった。
彼は、すぐにこちらに来てくれると答えた。
 電話を切る前に、私たちは、さっき電話した時に対応してくれた女の人について訊ねてみた。
同級生は私たちの言葉が理解できない様子だった。
今夜、電話が鳴ったのは一度きりだし、自分以外の人間は家に居ない、というのだ。
 私たちは電話ボックスを出ると、わき目もふらず車を目指して走った。
とてもじゃないが、そんな場所にいられなかったからだ。
最初の電話に出たのが誰だったのか、あの少女が何者でどうなったのか、未だに謎のままだ。




















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日々の恐怖 5月14日 時計

2013-05-14 18:04:57 | B,日々の恐怖







     日々の恐怖 5月14日 時計






 親しい友人が結婚して新居を建てた。
御自慢はリビングにコーディネイトした家具。
コンコルドのファーストクラス用の皮張りソファーが二脚、イタリアから直輸入したライト、奥さんの嫁入り道具のピアノ、それから新婚旅行先のアンティークショップでみつけた古時計。
 彼の御自慢の中で一番気に入っているのはその時計だった。
オーク素材で作られた時計は立体的な馬の彫り物が全体を覆っていて、見るからに高級そうだ。
 店屋の主人の話では、130年位前に作られた物で、最近まである貴族の別荘で使われていたものだという。
 少しばかり傷があり、時間を知らせる鐘が鳴らないので安くする、と言われ、彼は60万円もはたいてその時計を買った。
 彼の新居に招かれた時のこと、新婚家庭の自慢話を聞きながら夜の10時も過ぎた頃、不意に友人がソワソワし始めた。
どうしたのかと訪ねると、奥さんが風呂に入っていることを確認した後、変なことを言った。

 仕事の都合上、彼が帰宅するのはいつも10時を過ぎていた。
奥さんも仕事を持っているので、夕食の支度だけして先に寝てしまう。
彼が帰ってもリビングには誰もいない。
だが、ひとりでテレビを見ながら夕食を食べていると、いつも誰かの視線を感じるのだという。
 休日にひとりでいてもそんな感じはしない。
それに、リビング以外の部屋でもそんな経験はない。
夜遅くに帰宅して、ひとりでリビングにいる時に限ってそんな感じがするのだ。
 奥さんは何も言わないので、特に異変を感じてはいないのだろう。
怖がりな彼女にこんなことを言うと嫌がるので今まで黙っていた。
そして私に、この部屋について何か感じないか?と訊くのだ。
 私は霊能力者ではない。
それに、幽霊だとかお化けだとかいう存在もできることなら信じたくない。
別段、その部屋にいてもへんな感じはなかった。
そうか・・・、彼は少し残念そうに肩を落としたが、また別の話題で盛り上がり、その日は楽しく過ごした。

 一週間後、同窓会の誘いが例の友人からあった。
彼が電話をくれたのは夜の10時半を過ぎていた。
彼とは20分くらい話しをしただろうか。
電話越しに11時を知らせる時計の音がボーン、ボーン、かすかに聞こえた。

「 アレ、時計を直したんだ。」

私が言うと、友人は、

「 直してないけど・・・。」

と答えた。

「 今聞こえた時計の音は、あの馬のアンティーク時計だろ?」

そう訊いたが、時計なんて鳴ってない、と言う。
 アンティーク時計、夜半に帰宅した彼をいつも見つめている視線は、あの時計なんじゃないだろうか。
















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日々の恐怖 5月13日 現物

2013-05-13 19:25:06 | B,日々の恐怖







     日々の恐怖 5月13日 現物







 友人Hが住んでいるアパートの話です。
長い期間に渡り散発的に発生している事なので、箇条書きでまとめてみました。


1)深夜にザワザワと話し声が聞こえる。
疲れて寝ている時などは、「どうしたの?」と女の声で囁かれた事もあるそうな。

⇒ Hは幻聴だと言い張っている。


2)深夜にトイレの水が勝手に流れる。
何事かと確認に行ったHは、頭を何かに触られたらしいです。

⇒ 私自身もこのトイレに入った事がありますが、異常なまでの閉塞感、圧迫感があって、二度と入ろうとは思いませんでした。
Hはこの件を、トイレの不調と気のせいだと片付けております。


3)風呂場の排水溝周りに、長い髪の毛が散乱する事がある。

⇒ 当時Hは坊主頭で、部屋には女性が出入りする事もありませんでした。
これに関しては、Hも頭を捻っています。


4)アパートの近所の住人は、Hの部屋には女の人がずっと住んでいると思っていたそうです。

⇒ 3)の件から何年か後に発覚した話です。
Hも丁度髪を伸ばしていた時期で、自分を女と見間違えたんだろうと言っておりました。
ですが正直な話、H本人は、どう見ても女と見間違えるには無理のある見た目です。

他にも細かな話が結構あるんですが、書ききれないので省きます。

 先日Hと話していてこの話題になったのですが、

「 現物(幽霊)を見た訳じゃないので気にしない。
あんま怖い事いうと住めなくなるからやめれ。」

と笑っておりました。
私と他の友人たちは、絶対部屋に何か憑いてると噂しております。



















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日々の恐怖 5月12日 人形

2013-05-12 18:22:16 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 5月12日 人形






 俺の実家は小さい寺をやってて、親父が憑き物祓いや人形供養してるのを何度も見てたが、今までで1番怖かったのが赤ちゃんの人形です。
ミルクとか飲ませるような結構デカイ人形(わかるかな?)。
 当時10歳くらいだった俺は、夜トイレに起きると、人形部屋(供養する人形や、供養前の人形を集めた部屋)から、ミャーミャー猫のような鳴き声が聞こえたので、部屋に入って電気をつけた。
そしたら、ダンボールにガムテープぐるぐる巻きにした箱があって、中からミャーミャー鳴き声とガリガリひっかいてるような音が聞こえ、中に猫がいる!と思った俺は、ガムテープをはがしてダンボールのふたをひらいた。
 途端に鳴き声が止まり、中を見ると、中にいたのは猫じゃなくて赤ちゃんの人形だった。
普通寝かせると目をつぶるタイプの人形なんだけど、目をパッチリ開けて俺の顔を見ていた。
 俺は怖くなって逃げようとしたが、数歩後ずさったとこで腰を抜かし恐怖で動けなくなった。
ただひたすら箱を見ていると、箱がカタカタ揺れて人形の手が出てきて、箱のフチを掴んだのが見えた。
 出てくる!って直感的に思った俺は、目を瞑って叫びまくった。
そしたら親父が来て人形を抱き上げ、人形に向かって「もう寝なさい」と言い、今度は木箱を持ってきて、中に入れ蓋を閉めた。
 その後、親父に「何をしてたんだ!」と酷く怒られて、「箱の中から猫の鳴き声がした」と説明すると、溜め息をついて、「今度から何かあったら、まず自分に言いなさい」と言われた。
 その人形は、その日の夕方に近所のおばさんが持ってきて、まだ親父も中の人形を見ていなかったそうだ。
 そして次の日に、その人形は燃やす事になった。
寺に持ってきた人形でも、無害な物は人形部屋で供養しているのだけど、動いたり声を出したりするのは危険だから、燃やす事にしていたらしい。
 木箱に入っていた人形を元のダンボール箱に戻し、お経を唱えながら親父が火をつけた途端に、中から昨日のミャーミャー言う声が激しく聞こえてきた。
それに構わず親父はお経を唱えた。
 燃やした人形を出すと、原型を止めていない黒いプラスチックの塊になっていた。
その塊は小箱に入れて、無縁仏の墓に埋葬した。
その後何も無く、今では都内で独り暮らしをしているが、夜中に猫の声が聞こえると、ビクッとしてしまう自分がいる。


















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日々の恐怖 5月11日 バケモン

2013-05-11 17:14:14 | B,日々の恐怖






    日々の恐怖 5月11日 バケモン






 30年以上前のWさんの爺さんの話です。
爺さんは近所の山で野鳥の写真を撮るのが趣味だった。
 ある日、山から戻った爺さんを見て皆驚いた。
背中に大きな切り傷があり血まみれ、全身擦り傷だらけで服はぼろぼろ、右手の小指が折れており変な方向に曲がっていた。
どうしたのか、と尋ねると、

「 それがよう、山でよう、バケモンと一戦交えてきたんだよ。
危なくやられるとこだった。」

という。
どうせ、崖から落ちた言い訳だろう、と家族全員呆れたが一応話を聞いてみた。

 爺さんはいつものように山奥に入り野鳥を探していた。
切り株に腰掛け弁当を食べ始めると、背後に気配を感じた。
振り向く前に何かで背中をバッサリ切られ、ものすごい力で押し倒されたという。
 それはフーッと深く息をしている。
茶色の毛むくじゃらで頭が大きく角はない。
爪がとがっており前足で威嚇しながら二本足で立つ見たこともない獣だった。
爺さんは逃げ切れないと判断し応戦した。
 山用のナイフを持っており、それを武器に取っ組み合ったが形勢不利だった。
なんでも、獣の体に何か所かナイフを突き立てるも相手はなかなかひるまず、鋭利な爪で次々と傷を受け爺さんは半ば死を覚悟したそうだ。
 すると、どこからあらわれたのか男がいつの間にか獣の背後におり、両手で振り上げた石で獣の鼻先を殴りつけた。
 獣はあわてて逃げて行ったという。
男は非常に汚らしい格好で頭髪は薄いがひげの濃い、そして異様に手の長い男だった。
男は助けてやったんだから礼をしろ、と開口一番爺さんに言った。
 特に酒とたばこと味噌がほしいと言う。
爺さんは了解しボロボロの体でふもとに戻り、有り金はたいて買い物をすると男のもとに戻った。
 男はお礼の品に喜ぶと、

「 また何か困ったことがあったら、手土産を持ってここに来い。」

と告げると早足で去って行ったという。

 家族は誰もそれを信じていなかった。
ただ、崖から落ちた爺さんを助けた人ぐらいは、いるかも知れないと思った。
その後、爺さんはろくに傷の手当をしなかったため傷口から化膿し、炎症にかかり救急車で運ばれる羽目になった。
病院でも同じ話をしたが、やはり誰も信じてくれなかったとか。
 ただ、俺は信じていた。
一人っ子だった俺はじいちゃんっ子で、よく遊んでもらっていた。
母に禁止されていたが、俺はこっそり爺さんに山にも連れて行ってもらっていた。
 爺さんは山に行くたびにお土産と称してワンカップの酒を持って行き、例の切り株に置いていた。

「 あのヤローも多分バケモンだろ。
でも恩人だからな、義理を通さないとな。
それにな、こうしてここに置いておくと、次来たときにはなくなってんだよ。
あいつも、俺やお前の親父とおんなじで、酒飲みなんだよな。」

と語っていた。
 あの獣について聞くと、

「 あん時はやられたが、もう大丈夫だよ。
あいつの急所は、鼻だってことはわかってるからな。
次に見たら、ぶっちめて俺たちで新聞屋に売ってやろう。」

と言う。
しかし、爺さんは死ぬまでに、二度とあの獣や男には会うことはなかったようだ。
 爺さんは遺言状を残していた。
爺さんの死後それを開封すると、遺産や身辺整理などの本題以外に、俺に名指しであの山についての頼みごとが記されていた。
 それは、

“ 山にありったけの土産を持って行き、あの切り株に置いてこい。
そして俺が死んだということ、俺の家族を守ってくれということを伝えろ。”

という内容だった。
 皆呆れたが、まあ遺言を無下にするのも・・・、ということで俺が代表していくことになった。
 俺は友人数人に手伝ってもらい、たくさんの酒とたばこと味噌を持って行った。
爺さんの遺言通り、手紙を添えた土産を置いて俺は山を下りた。
 山はそれから何年も経った後、開発されてゴルフ場やリゾート施設が建った。
観光地向けの自然はきれいに残されているが、実態はゴミだらけの汚い山になってしまった。
 熱心にリゾート誘致していた地元は喜んでいる。
でも、爺さんが見たら嘆くと思う。
あの切り株があった辺りも、もう跡形もない。
男はどうしているのだろうか、たまに思い出す。



















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日々の恐怖 5月10日 携帯

2013-05-10 19:19:41 | B,日々の恐怖








    日々の恐怖 5月10日 携帯







 Nさんが大学生の頃だ。
一人暮らしのアパート、ロフトで寝ていると携帯が鳴った。
見たことのない電話番号だった。
 Nさんは寝ぼけながら通話ボタンを押した。
ガラスをひっかくような高音だった。

「 きぃぃぃぃ、もも、もしもしぃ、もーしもーしぃ・・・。」

映画やアニメに出てくる機械が話す音、それをさらにキーを高くした声だったという。
Nさんは一瞬で“あ、これアカンヤツや”と思ったそうだ。
 携帯電話を耳から離しても、キーンと耳障りな音は続いていた。
この世のものとは思えなかったという。
Nさんはそのまま電話を切った。
時計を見ると、深夜三時ピッタリの着信だった。

 翌日も電話は深夜三時にかかってきた。
Nさんは出なかった。
さらに、翌日も電話がかかってきた。
Nさんは就寝時、携帯の電源を切るようにしたという。

「 不思議に思わない? 俺なら誰かつきとめようとするけど・・。」
「 かけなおしても、ロクなことにならんもん。」

 不気味な電話がかかってきて一週間後の深夜、Nさんは唐突に目が覚めた。
虫の知らせだったのかもしれない。
瞼を開けた瞬間、音をたててロフトの天窓が降ってきた。
 七十センチ四方はある枠と、はめられたガラスが頭上に落ちてきた。
間一髪でNさんは頭を動かしたが、枠の角が痛烈に頬を直撃した。
あと数センチずれていれば、目の奥まで突き刺さる恐れはあったそうだ。
 結局、あの電話はなんだったのか、今でもわからないとNさんは言う。

「 それ以来は?」
「 十年はなかったんやけど・・・。」

つい三日前から、非通知で深夜に電話がかかってくるそうだ。

「 勘弁してやって感じやな。」

さほど困った様子も見受けられない、飄々とした態度でNさんはため息をついた。

















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日々の恐怖 5月9日 証拠

2013-05-09 19:01:32 | B,日々の恐怖







      日々の恐怖 5月9日 証拠







 Yさんはレンタルビデオ店で働くフリーターだった。
その晩も日付が変わるまで働いた後だった。
仕事中に取り置きしておいた新作ビデオが楽しみだった。
 コンビニで軽い夕食を買い、家までの八分ほどの夜道を歩く。
角を曲がると二十メートルほど前に一人の男がYさんと同じ方向に歩いていた。
ひょこ、ひょこと体を揺らしていた。
Yさんの歩くスピードが早いせいか、距離は近づいていった。
 禿げ頭の下には巨大な体躯。
いつか夢で見た赤鬼のようだったという。
異様なルックスとぶつぶつと繰り出される独り言から、Yさんはアブナイ人だと思った。

“ 一気に追い抜こう。”

そう決めて足に力を入れると、

「 えう?」

男は振り向いた。

「 いま、ばかにした?」

Yさんも振り向いたが背後には誰もいなかった。
男の視線は明らかにこちらを貫いていた。

「 ひとをぉ、ばかにぃ、してはぁーいけませんっ!」

ゲリラ豪雨に似た突然の激昂だった。
 狼狽したYさんは、後ずさりながら必死に手を振り、

「 してません。」

と答えると、

「 では、しょうこをみせてください!」

と迫られた。
真っ赤に染まった顔が近い。
呼気は放置した炊飯器の匂いがした。
 男の手の届く範囲であることを理解し、足がすくんだ。

「 そんなのはありませんし、私何も喋ってませんし・・。」

とYさんが答えると、彼は首を傾げ骨董品を眺めるようにYさんを観察した。

「 しょうこないの? ばかにしたしょうこ?」

緊張に耐えられなくなったYさんが、

「 ないですっ!」

と叫ぶと男はしょんぼりした様子で言った。

「 そっかぁ、ないのかぁ、それはざんねんんんん。」

男が俯いた隙をうかがい、Yさんは逃げようとしたという。
 身を翻して全力疾走しようとした時、足首を捻った。
予期していなかった痛みに、顔をしかめる。
腕をつき、転びはしなかったものの手のひらを擦りむいた。

「 あぁー、あぶないですようぉ、ほらぁ、おてて。」

差し出された手を、握ることに躊躇をした。

「 あ、ばかにするぅ?」

Yさんは擦りむいていない方の手で、男の手を握った。
 痛みは即座にやってきた。
男の力は加減を知らなかった。
握られた骨がメキメキと軋んだ。
振り払おうと思えないくらいの力強さだった。
小指側の骨がゴキっと音をたてて折れた。
一瞬の痺れのあと、意識する間もなく絶叫していた。
涙が噴水のように自然にあふれ落ちた。

「 しぃいいぃい。」

朦朧とする意識の中、男が赤ん坊にするように人差し指を口にあてた。
瞳は白濁しているように見えた。
グローブくらいある両手で顔を覆い、広げた。

「 いないいないばぁ。」

Yさんは意識を失った。

「 気づいたのは早朝でした。
警察官に起こされて。
すぐに病院に運ばれました。
被害届も出したんですけど・・・・。」

あまりに特徴的な男だったのに、未だ逮捕までにはいっていないという。

「 一時は歪な形だったの・・・。」

とYさんは大事そうに手を撫でた。




















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日々の恐怖 5月8日 出会い

2013-05-08 18:54:00 | B,日々の恐怖






      日々の恐怖 5月8日 出会い






 前世の話で、笑えると言うか、へええええっ~と思った我が姉の話です。
一生独身貴族を貫くと決めていた姉が結婚した。
しかもかなりの遠距離恋愛。
親も「嫁いでくれるなら喜んで!」と深くなれ初めを聞いていなかったが、結婚式でいざそれが発表されたらどよめいていた。

相手・・・・甲信越地方在住 
姉・・・・・北部九州在住


・出会い
相手の住む県に姉が旅行に行き、タクシー乗り場でちょこっと話したらしい。
当然お互い名前も知らず、そのまま別れる。


・二度目
羽田空港・手荷物を預ける時に、姉の次に並んだのが相手だった。
「すごい偶然ですね」と言い合ったものの、そのまま別れる。


・三度目
四国旅行中の姉。ローカル線で移動中、相手がひょっこり乗ってきた。
出張中だったらしく、そこでようやく自己紹介。


・四度目
南部九州に出張していた姉、ホテルのロビーでばったり。
その晩は食事を一緒にし、メアド交換をした。


 こんな「ばったり」を数回くり返しておつきあいをはじめたらしい。
しかもお互い「ストーカーか?」と訝しんで声をかけなかったこともあるらしいので、実際はもっと回数をふんでいると思われる。


 自称霊感があると言っている叔母によると、姉と相手は前世で夫婦だったそうで、前世で所縁のあったふたりの守護霊さんたちが必死になって「ばったり」を演出していたらしい。

「 名前ぐらい聞け~!」
「 そこで、もっと会話を発展させろォ~~!」

と、かなり悶々としてたそう。
 私が、「なんで分かるの?」と聞いたら、結婚式、姉と相手が座っているその後ろで、手を取り合って大号泣してたんだって。
叔母はそのとき、「後ろのひとも大変よねえ・・・・。」としみじみしていました。















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日々の恐怖 5月7日 イボ

2013-05-07 19:14:54 | B,日々の恐怖







     日々の恐怖 5月7日 イボ






 母方の伯父が昔してくれた話です。
イボの花ってのがあるらしい。
体に出来たイボに、花が咲くみたいにパカって裂け目ができることを言うそうだ。
 昔は、急にできたイボに花が咲いたら近くの人間に不幸があるといわれていたらしい。
聞いたことがないから、伯父のいた所独特の風説かもしれない。
 で、伯父が小学校の頃右手の二の腕に急に大きなイボが出来た。
そしてすぐにそれが真ん中から十文字に割れた。
それを見て彼の祖母がイボの花の話をしたところ、伯父はバカらしいと鼻で笑った。
その3日後、祖母が心不全で死んだ。
 伯父は驚いて両親に話したがもちろん取り合ってくれなかった。
ばあさんはもともと心臓が弱かったし、しょうがないと。
それから1年ばかりなにもなく過ぎて、伯父もイボの花を偶然だと思うようになっていたころに、伯父の言う一生忘れられないことが起きた。

 8月の暑い日、伯父が朝起きると腕と言わず顔と言わず、全身にイボが吹いていた。
痛みは無かったが、顔や胸のゴワゴワした嫌な手触りに伯父は驚いて両親に泣きついた。
両親も驚いたが、取りあえず近所の町医者に来てもらうと何かのかぶれだろうという。
 結局塗り薬をもらって伯父はそのまま自分の部屋に寝かしつけられた。
学校も当然休まなければならなかった。
両親は共働きだったので、まあ大丈夫だろうと伯父は一人で家に残された。
僕の母もまだ生まれていなかった頃だ。
 伯父は布団のなかで物凄い恐怖感に襲われたという。
もし、イボに花が咲いたら。
全部に花が咲いたら。
そう思った瞬間、目の前が真っ白になったそうだ。
錯覚ではない。
その後に凄い音がして屋根が崩れてきた。
あ、これか、と一瞬に思ったらしい。
 そこからの記憶がないと言うが、伯父は瓦礫から助け出されたとき火傷と擦り傷で全身血まみれだったそうだ。
イボに赤い花が咲いて。

 1945年8月6日広島でのことである。
その伯父も9年前に死んだ。
生前よくみせてもらった背中や腹にはかすかに無数の痣が残っていた。














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日々の恐怖 5月6日 運がない人

2013-05-06 19:09:30 | B,日々の恐怖






      日々の恐怖 5月6日 運がない人






 Nさんの話です。
大きな台風が村を直撃し、山林に大きな被害が出た。
Nさんの所有山林も例外ではなく、樹齢150年近いヒノキのほとんどが倒れてしまった。
先祖代々手入れをしてきた山が全滅してしまい、すっかり意気消沈したNさんは、それっきり山に入る気にもなれず、昼間から飲んだくれている事が多くなった。
 それから半年以上の月日が経ち、周囲の山もだいぶ後片付けが済んでくると、さすがのNさんも、山をこのまま放っておくのはマズイと思いはじめた。
なにより世間体が悪い。
それに、倒木とはいえ樹齢150年のヒノキだ。
売れば、後片付けの代金を差っ引いても、手許に幾らかの金が残るかも知れない。

 そんなある日、Nさんは「ちょっと山を見てくる」と言い残して家を出た。
それが、ちょっとのはずが、夜になっても帰ってこない。
嫁は、どうせ、どこかで飲んだくれてクダを巻いているんだろうと、のんびり構えていたが、翌日の昼になってもNさんは戻ってこない。
さすがに心配になって方々に電話を掛けたが、昨夜はどこにも顔を出していない様子。
そこで、嫁と近所の男数人とで連れ立って山に向かうことになった。
 件の山に近い林道端に、Nさんの軽トラックが乗り捨ててあった。
歩道をしばらく歩くと、やがて視界が開けてきた。
あたり一面に、大きな木が根こそぎ倒れていた。
 150年ものあいだ成長を続けたヒノキの根っこは、大人の背丈よりも遥かに高く、奇怪な姿を地上に晒している。
それぞれが土を抱えたままひっくり返っているので、そこかしこにクレーターのような穴が空いていた。
 そんな荒れ果てた光景の中で、一本の巨木が天を衝くように立っていた。
良く見ると、昨日からの強い風に吹かれて、ぐらり、ぐらり、と揺れている。
ちょっと奇妙な動きに、男達が恐る恐る近寄ってみると、揺れるたびに、根っこが地面から浮き上がっているのが分かった。
 その浮き上がった根っこには手拭いが引っ掛かっていて、それを掴もうとするかのように、白い手が根っこの隙間から伸びていた。
数人がかりで揺れる木をワイヤーで引っ張って、ようやく根っこの下からNさんの遺体を回収することができた。
その頃には皆、Nさんの身に何が起こったのかは何となく見当がついていた。

 木は倒れたまま放っておくと、葉から水分が蒸発して乾燥が進む。
これを利用して木を乾かすのは、葉枯らしと言って、山では普通に用いられる手法だ。
 木は乾くと軽くなるが、その割合は幹の先端へ行くほど大きくなる。
すると、根こそぎ倒れたまま放ったらかしにされたヒノキは、次第に重心が根っこの方へ移っていくことになる。
そうやって半年が過ぎるうちに、大きなヒノキは、再び立ち上がるかどうかの瀬戸際にあったのだろう。
 そこへ昨日、Nさんがやって来た。
現地で倒れ木々を見て回っていたNさんは、持っていた手拭いを強い風にさらわれ、それは、微妙なバランスを保っていたヒノキの根っこに引っ掛かる。
Nさんは、引っ掛かった手拭いを取ろうとして背丈よりも高い根っこに登り・・・。

「 あの人、とことん運がなかったのね。」

葬儀の席でNさんの元嫁は、周囲にそう漏らしたそうだ。
現在は、Nさんの遺体を見つけた時に側にいた男の嫁になっている。
本当に、とことん運がないNさんだ。

















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日々の恐怖 5月5日 エアガン

2013-05-05 19:25:36 | B,日々の恐怖







      日々の恐怖 5月5日 エアガン






 今から数年前、高校3年の夏休みに体験したことです。
当時、俺は高3の6月頃に推薦入試で大学が決まり、夏休み前に野球部を引退し夏休みは何して遊ぼうか考えてた。
クラスのみんなとは基本仲良いけど野球部のヤツとしかつるんでなかった。

 終業式の日、教室に入ると部活してないアルバイト馬鹿のAが、車の免許取って今日車で学校に来たとみんなに自慢してた。
車の免許は20歳にならないと取れないと思ってた俺はテラ興奮。
Aとは一度も遊んだことないし、一緒に帰った事もなかったけど乗せてくれとせがんだ。
 Aは乗せてと言い寄ってくるヤツに帰る方面を聞き、たまたま俺の住む難波付近で用事があるらしく難波近辺のヤツなら送るとのことだった。
俺含めB、C(野球部じゃない)の3人が乗れることに。

 学校終わってA・俺・B・Cの4人みんなそれぞれが初めて帰るメンバーで会話はかなりぎこちなかった。
が、車でテンションが最高潮に沸き今日から夏休みという事もあって、テンションが訳のわからない事になって初絡みだけどこのまま今から遊ぼうかってなった。
 それだったらとAが、今から俺の用事に付き合ってと言い出した。
聞くとAはかなりのガンマニアでモデルガンやらを売ってる店に行くんだとのこと。
知らない世界と言うか面白そうだから着いてくことに。

 予想通り日本橋に着いて、想定外のスケールのモデルガンやらエアガンを置いてるお店に着いた。
と言うのも無茶苦茶な量の銃があってその上に客も、迷彩服のヤツ、やたらムキムキなヤツ、皮パンのお兄さん、ファッションの一部として銃を腰につけてるヤツとかいたからだった。
 それ見てB、Cと興奮してると遊びで無性にエアガンやりたくなった。
Aはと言うとパンチの効いた客と談笑し、やったらごついエアガンを購入。
店出たら言うまでもなく、みんなでA家に帰りエアガン用意してそっからエアガンで毎日遊んだ。
Aの地元の友達3人ともエアガンから遊ぶようになり、楽しいことを毎日してた。


 夏休み最終日の日曜日、俺らは刑事モノドラマに出てきそうな港でエアガンやろうってなった。
場所は南港っていう地名のとこ。
 ただ俺らはガンショップの店員から、その南港の良い感じスポットは大きな網で囲われてて中に入れないから遊べないと言うのを聞いていた。
それを覚悟で網を切る様に工具を持って行ったんだが、そのスポットの門と言うか、扉の鍵が開いていた。
 むっちゃラッキーじゃんとまたここでテンション上がり、チーム組んでいざ撃ち合いスタート(この時は相手の位置とか分かるサバゲッチュっていうTV番組で採用されてたサバイバルガン&防具を使用)。
これがハラハラ、ドキドキで最高に盛り上がった。
 始まって30分たったぐらいでいきなり門の方から“ウ~ウ~”っとパトカーのサイレン音。
しかも半端じゃない数。
と、同時に、

「 お前らは包囲されている、武器を捨て直ちに出てこい!!」(大阪弁)

と言う、夢でも見てんじゃないかと思う声が爆音のスピーカー音で聞こえて来た。
 頭ん中が訳わからなくなって、とりあえず何かあったら集まると約束した場所へダッシュ(網の中)。

「 どうするよ俺?大学の推薦取り消しだ、懲役は何年?」

とか、もう1人喋りながら足ガクブル。
そしたら、みんなも足ガクブルしながら集まって来た。
 アワアワってなってるとAがガンマニアの血か、はたまた生まれついての血なのか、

「 俺が囮になって出て行く。
やから、お前らはその隙に逃げろ。」

と言い出した。
 囮も何も出口1つしかないからそんなんしても意味ねーよって言いたい所だけど、このテンパるもテンパった状況下じゃそういう思考もなく、"ただ逃げたい"という1点の考えしかなくても俺らは、

「 Aやめろ!」

と本気で止めた。
 そしたらこの発言が、またAの何かに火を点けたのか、出口に向かい猛然とダッシュ。
待ち受ける武装警官に突っ込んでいった。
そしたら、

「 コゥラァアアア!押さえろォ~!」

っと聞こえた。
 そん時初めて、“逃げよう、イヤどこに!?出口1つしかねーよ”、って思考ができ、もう諦めて、震えながらみんなで自首。
 銀行強盗とかの時の盾みたいなの持って武装した警官みたいなのが、ウワっとたくさんいて事の重大さに気づいた。
警察も子供が出てきたからなのか、“あれっ・・・?”て感じだった。
 パトカー乗せられて、まぁそっから署で、1人ずつ個室に入れられ刑事に鬼のように怒られた。
何でも南港の夜はかなり危ないらしく、麻薬の密売とか危ないヤツがいてるから気をつけろとのことだった。
 で、刑事が、

「 最初お前の仲間は最初から開いてた言うけど、門はどうやって開けた?」

っていうことを聞いてきた。
初めから開いてたと言ってもなかなか信じてもらえなかった。
 明け方に取り調べ終わって、また南港行って犯行現場で指さして写真撮られて、始末書みたいなの書いて親も来てまた凄い怒られた。
結局、不法侵入予備みたいなので軽くしてもらい、学校にも内緒にしてくれた。


 で、1週間後ぐらいに指紋とるからまた署に来いと言われ7人で行った。
指紋とか一通りして帰れると思ったら、みんな担当の刑事さんに呼ばれた。
聞くと、お前らが侵入した網の所は防犯カメラついてて今からその映像見せると言ってきた。
映像始まってしばらくしたら夏なのにジャケット着た、おそらくスーツ、の男が鍵開けて網の中に入ってきた。
そしたら、次にまた大きなフランスパンみたいな長細い包みを持った小さいおやじが来た。
 で、それを夏ジャケットに渡す。
と、途端に影に隠れる2人。
しばらくして俺ら登場。
 この時点で“・・・?!!”ってなった。
そんで俺らがエアガン持ち出してワイワイ喋ってるのを影からじーっと見てる。
そしたら、夏ジャケットが俺らの方に向かって懐から銃らしき物(てか100%銃)を、スッと出して構えてバーンって撃つふりをしてスッと扉から出て行った。
映像はそれで終わった。
 刑事さんは、

「 こいつらが鍵を何故持ってるのか、そもそも何者かわからないし、あの袋の長細いのが何なのかわからない。
銃みたいなのも本物かわからない、ただ南港はこんな所だ。」

と言われた。
 それ以来、エアガンはやってない。
ただ当時はこの映像のヤツらに暗殺されるんじゃないかとか、精神的に不安になり洒落じゃ済まなかった。


















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日々の恐怖 5月4日 紫煙

2013-05-04 16:54:24 | B,日々の恐怖








      日々の恐怖 5月4日 紫煙








 Tさんが高校生のときに、友人数名と共に体験した話です。
高校2年のとき実家を建て替えることになり、解体作業が予定されていた。
そこで思い出作りも兼ねて、荷物の少なくなった実家で近しい友人やその兄たち数人が集まることになった。
 当日は、鏡とガラスケースに入った人形などが残された弟の部屋で取り止めのない話に盛り上がっていたが、いつからか怪談話へと話題が移っていった。
 当時、住んでいた町では、箪笥の中から老婆の遺体が発見されるという事件があり、それを揶揄してタンス婆さんという造語が子供達の間で話されていた。
例に洩れず、ある友人がこのタンス婆さんの話をしはじめた。
 彼の事実と創作とが混じったタンス婆さんの話をしばらく聞いているうちに、私を含めた幾人かが、ある異変に気付いた。
ある異変とは、参加した友人の兄二人のタバコの紫煙が、話者の頭上に徐々に集まり始めている現象だった。
 すでに異変に気づいている者達は、目配せして喫煙を中止、その煙の存在を確認しあっているのみだったのだが、徐々にそれが人の形になっていくのが分かった。
そして、人型の紫煙はみるみるうちに、話者に後ろから抱きついている格好となった。
しかし、話者とその左右に座している友人は紫煙の塊に全く気づいていなかった。
 意を決して兄二人が、煙が集まって人の形にみえる、と指摘した。
それでパニックになり、煙の塊自体はもう霧散して消えていたけれど、一同散り散りに逃げ帰ってしまった。
 後日、弟が自室で妙なものを見たと言ってきた。
なんでも、残りの荷物を片していると、ふと鏡が気になったので覗いてみた。
すると、鏡の中に写り込んだ人形のガラスケースに、老婆らしきものが見えたという。
気のせいだと言っておいたが、紫煙の塊を見た手前、疑念は残った。
その後、特に悪いことは起こっていないので、一応、気のせいで済ますことにした。

















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しづめばこ 5月3日 P257

2013-05-03 21:19:42 | C,しづめばこ
しづめばこ 5月3日 P257 、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
下記のリンクに入ってください。(FC2小説)

小説“しづめばこ”



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日々の恐怖 5月3日 登山

2013-05-03 19:08:28 | B,日々の恐怖








     日々の恐怖 5月3日 登山








 昔、Kさんが上海に留学中のとき、同じく留学中の韓国人の子から聞いた話です。
双方が、慣れない中国語で話したものを日本語に直して書くため、多少誤差はあると思います。

 その日、その韓国人の友人の女の子Aは、友達とみんなで一緒に登山をする計画をたてていた。
メンバーは女がAと残り4人、男が5人、という5:5の計10人で向かった。
その男5人の中にAの彼氏が一人いて、それ以外の関係はただの友達なのか、他のカップルがいたのかはわからない。
 登山を開始しようとした時、Aは体調不良のため参加を見送ることに決めた。
仕方がないので残りの9人は登山を開始したそうだ。
 Aは結構長い時間待っていたようだが、一向に戻らないメンバーと彼氏を次第に心配し始めた。
それで、体調もそのころ既に戻っていたAは一人で登山を開始した。
 その山は韓国の中でもそこまで高い山ではないようで、暫く一人で登ると丁度山の中腹あたりで下山するメンバーに出くわした。
しかし、そこにいたのは女だけで男5人の様子が見当たらない。
 Aは女友達を発見したことに安堵しつつも、彼氏のことが気になった。

A「 男たちはどこにいるの?」

と聞くと、どうやら山頂にまだいるらしく、景色などを楽しんでいるようだった。
Aはそれを聞いて安心したが、一応一人で山頂まで登ってみることに決め、そこで女友達と別れた。
 暫く一人で登り続け山頂についた。
女友達の言った通り、そこには男5人がいた。
しかし、様子が変だった。
全員青ざめていて景色を楽しんでいたり、下山しようという雰囲気がない。
 Aは何かあったのだと思い、彼氏に尋ねた。
すると驚いたことに、山頂手前で女メンバー4人とはぐれたというのだ。
この山ははぐれたり遭難すると死亡する人も多いようで、その女友達も死んだかもしれないと言う。
 何を言っているんだ、さっき途中で女の子たちとすれ違ったばかり、とAは男たちと彼氏にそれを伝えたが、男らの考えは変わらない。

「 ありえない、こっちに何の連絡もなしに勝手に下山するなんて。
助かってたとしても、山頂まで探しに来た俺達と何らか連絡をとるはずだ。
まして、お前と会ったなら何かしら伝言するはずだろ?」

Aは彼氏や男友達の話を聞いてく内に、確かに色々と不信な点も多いと感じた。

“ さっきすれ違った女友達は・・・。”

妙な胸さわぎを覚えAは危険を承知ながらも急いで一人で戻った。
麓につくまでに女友達と会うこともなく、やはり麓にもいない。
 泣きそうになりながらも、先に下山した女メンバー4人の情報を探し求めた。
そして、ようやくたどり着いた民家のテレビからニュースが流れていた。
それは丁度自分が今まさにいるこの山のニュースであった。
 そこで報道されていたのは、

“ 山で女性4名男性5名の遭難死体を同一箇所で発見した。”

というニュースであり、そこにはAの友達と彼氏を含めた9人の名前が表示されていた。


















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