大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 6月15日 金魚

2013-06-15 18:05:39 | B,日々の恐怖





     日々の恐怖 6月15日 金魚





 先日、勤め先に向けて歩いてたら、前をあけてゆるく着てたコートの首筋のところに上からなにかが落ちてきて、そのまま暴れだしたから、すわでかい虫かってあわててコート脱いだら赤白の金魚だった。
鳥が咥えてきたのかと思ったけど、無傷だし空に鳥も飛んでないし。
 なすすべなく、コンビニのビニール袋に丁度持ってた水を入れて勤め先まで持ってったら、妙にタイミング良く、太い円筒型のガラス花瓶がご進物で届いていて、どうしようねって話してた所だった。
 なんとなく勤め先で飼うみたいな話になって、店長が偶然置きっぱなしにしてあった釣りセットの中の酸素の出る石を花瓶に入れて応急セッティングしてるんだけど、すべての絶妙なタイミングの良さになんだか不可解さを感じてます。

















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日々の恐怖 6月14日 ドッペル君

2013-06-14 17:46:36 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 6月14日 ドッペル君






 就職してから一人暮らしで、実家には年に2~3回顔出すくらい。
実家までは車で1時間くらい、そんなに離れてるわけじゃない。
その実家の両親から先日電話が掛かってきた。
 その日は父と母と2人で某観光地に出かけてたらしいのだけど、そこで女と一緒に歩いてる俺を見かけたと言う。
両親は、実家にいたときからまったく彼女なんて出来なかった俺にとうとう女が出来たと勘違いしたらしく、その時は邪魔をしないようにと話しかけなかったそうだ。
 だが、当日俺は仕事だったし彼女なんて未だに出来ていない。
ましてや、その観光地にも行ってない。
いくら年に数回しか会わないと言っても、二人そろって自分の息子を見間違えるだろうか?
電話口でも両親は、俺が照れ隠しで嘘を言っていると思ったらしく納得させるのに苦労した。

 それで、以前にもこんなことがあったのを思い出した。
それは自分がまだ中学の頃だったと思う。
 学校の行事か何かで校外の施設に行った帰り、現地解散で俺は一人で電車に乗って家に帰る途中の出来事。
同じくらいの年齢の子供数人に突然話しかけられた。
「おい、久しぶりだな。」
見たいな感じだったと思う。
 話の内容から多分相手は俺を誰か別人と勘違いしてるんだろうなと思って、俺は人違いです、と言ったんだけど、相手はみんな嘘だろって感じで俺が冗談を言ってると思ったらしい。
結局そのときも、じゃあ親戚とか兄弟とかじゃないのかと疑われて、本当に他人ですと説明するのに苦労した覚えがある。
 よく世界には自分と同じ顔をした人物が3人くらいはいるって言うけど、俺の場合確実にそのうちの一人が日本に、しかもそう遠くない場所にいるみたいだ。
もし鉢合わせてしまったらどうなるんだろう。


















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日々の恐怖 6月12日 ナルニア

2013-06-12 19:12:09 | B,日々の恐怖





   日々の恐怖 6月12日 ナルニア





 東京郊外に住むMさんのお話です。
5才と2才の子供いますが、家の中でかくれんぼしてていなくなったことがあります。
どこをどう探しても二人ともいなくて旦那と青くなっていたら、押入れから出てきました。
時間にして15分くらいだったと思います。
何度も探したところなはずなのに、と思い上の子に、

「 どこに行ってたの?」

と聞いたら、

「 押入れの奥に道があって、下の子ちゃんが行っちゃったから追いかけたの。
にわとりのいるおうちにあがって、お饅頭食べてきた。」

と言いました。
 私達はその話を聞いてびっくりしてしまい、
 
「 押入れなのに道はないでしょ?
誰かに会った?」

など詳しく聞きだそうとしたら、責められたと思った子供は知らないと逃げてしまいました。
戻ってきてくれて本当に良かったけど、どこに行ってたんだろうと今でも気になります。


 後日、聞き出せたことだけ書いてみます。

・「どんな道だった?」→「草の道と公園のコルクの道」
 近所の公園に、廃材の木のカスを固めて作った道がある。

・「誰かいた?」→「つるつるのおじいちゃん」
 のっぺらぼうでもハゲでも服のことでもなくて謎。

・「どんなおうち?」→「ねずみのすもうのおじいちゃんち」
 うちにある絵本。
 挿し絵にある家は、かやぶき。

・「どんな饅頭?」→「私の好きなやつ」
 薄皮饅頭です。
 売ってるのより大きかったらしい。

以上で逃げられました。
 足も手も汚れてはいませんでしたが、用意したおやつはおなかいっぱいだと二人とも食べませんでした。
空想豊かすぎなんだということにしてます。
















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日々の恐怖 6月11日 悪霊

2013-06-11 18:30:43 | B,日々の恐怖







     日々の恐怖 6月11日 悪霊







 学生時代、毎日のように友人と夜遊びをしては真夜中に帰宅することが多かった。
暮れも押し迫ったある冬のことだ。
忘年会と称して毎晩飲み歩いていた私は、泥酔寸前で友人と帰路についた。
その友人とは帰る方向が同じなので、乗る電車も一緒だった。
 二人でホームのベンチに寄りかかって最終電車を待っていると、不意に友人がキョロキョロ辺りを見回した。
その様子があんまり不安そうなので、私もつられて周囲を見渡した。
 ホームには私たちと同様に酔っ払ったサラリーマンが一人いるだけで、向かいのホームにも誰もいない。
蛍光灯の白々とした電気の下で、駅員が鞄を下げて早足に歩いて行った。
 特に変わった様子もないので、もう一度友人を見た。
だが友人は相変わらずソワソワしている。
酔いも吹き飛んでしまった顔付きで、何かに怯えているようだった。
訳を尋ねると、友人は私の耳元でそっとこう言った。

「 何かがいる気がしないか?」
「 ・・・・・?」

私は彼の言葉の意味が理解できなかった。
 泥酔した見知らぬサラリーマンはベンチに寝転がってピクリともしないし、駅員はどこかに行ってしまったし、他に危害を加えられそうな人間も見当たらない。
すると彼はまた続けた。

「 悪霊みたいなのがいる気がするんだ。」

その言葉に私は度肝を抜かれた。
 悪霊が云々、なんてことに驚いたのではない。
幽霊だの心霊だの、神様や悪魔だの、そういう類の話なんてまったく信じていないタイプの彼の口から、そんな台詞が出たことにびっくりしたのだ。
 間もなく最終電車がホームに入ってきたので、私たちは立ち上がって電車に乗り込もうとした。
私が先に電車に乗り、隣にいるはずであろう友人を見ると彼はまだ電車のドアの向こう側、つまりホームに突っ立ったままでいる。
その顔は目を見開いて口を半開きにして、とてつもなく恐ろしいものを目の当たりにしたような顔付きだった。
 私は思わず自分の背後を振り返った。
彼の視線の先は、私の背後に注がれているように見えたからだ。
 ところが、振り返っても別段なにもない。
がらんとした電車の車内は静かで、吊り広告が風で揺れているぐらいだった。
ホッとして友人の方を見たとき、プシューッという音と共にドアが閉まった。
友人を駅のホームに残したまま、電車は走り出してしまった。

 その後どうしたのかよく覚えていない。
友人のことを心配したのもつかの間で、酔っ払っていた私は何事もなくアパートに帰り着き、次の日の昼過ぎまで眠っていた。
 こういう話の結末は、友人がそのまま行方不明になったとか定番だが、残念ながら彼は生きている。
三日後の大学の講義に、彼はバンダナを頭に巻いてきちんと出席していた。
 いつもの彼らしくない服装が気になって、私は講義の後で声をかけた。
あの晩、電車に乗らなかった理由も聞きたかった。
 学生のひけた教室に二人だけになると、彼はやつれた表情でバンダナをはずしてみせた。
彼の後頭部は、直径3㎝はあると思われる円形脱毛症になっていた。
 私は笑うにも笑えなかった。
憔悴した彼の風体は、冗談では済まされない何かが起こったことを無言で知らせていたからだ。
 あの時、彼は一緒に電車に乗りたかったのだという。
だが、ドアの前まで来ると足が動かない。
声も出ない。全身が凍り付いてしまったように、身じろぎ一つできない状態になってしまったらしい。
 電車が見えなくなると金縛り状態が解け、動けるようになった。
とにかく、こんな場所で夜明かしする訳にはいかないので、タクシーを拾って帰宅しようと地下通路への階段を下りようとした。
ところが、その地下通路の先に何かがいるような気がしてならない。
 そのまま階段を下りたら、あの世に連れて行かれるような気がして降りられないのだ。
友人は泥酔客を装って、真冬のホームで朝まで過ごした。
寒さだけではなく、生まれて初めて体験する言葉にできない恐怖で一睡もできなかったという。
 あまりの怖さに、ここ二日で円形脱毛症になってしまった友人。
 
「 あの晩、あそこには絶対、悪霊がいた。」

彼はきっぱりそう断言した。
















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日々の恐怖 6月10日 ラッパ

2013-06-10 18:35:30 | B,日々の恐怖








     日々の恐怖 6月10日 ラッパ







 小学生の頃、恥ずかしながら肥満児でした。
そんな私の身を案じてくれたのか、林業関係の仕事をしている父が休みの日によく山へハイキングに連れていってくれました。
 ある日、9時頃から登山をすることになり、母がこしらえた弁当を持って山道に入り付近で車を停めて頂上を目指しました。
その山は緩やかだと聞いていましたが、肥満児であったためか徐々に休みがちになり、父が予定していた頂上到着時間を超えてしまいました。
 休む度に俯き、父に対して申し訳ない気持ちと自身に対して情けない気持ちで歩いていると、父が首を傾げながら、

「 おかしいなぁ・・・。」

とつぶやくように言いました。

「 どうしたの?」

と聞き返すと、山に携わる者としてなのか言いづらそうに、

「 どういう訳か見当をつけていた道に出くわさない。
何故か景色がかわらない。」

と言いました。
 登り始めて4時間程たっていました。
不安な空気が漂う中、お昼をとうに過ぎているのでとりあえず弁当を食べて、もと来た道を戻っている時に、左側の山肌とは反対の林から、

“ パ~フゥ~、パ~フゥ~。”

という笛のような音がかすかに一定の間隔で聞こえてきました。
 父に、

「 この音なに?」

と聞きましたが、父には何も聞こえないようでした。

「 いや、向こうの方から聞こえる。」

と指差すと父は、

「 あ、川か・・・・。」

と近くに川が流れているのを思い出したようでした。
 そして、川に出ればどうにかなると横道に逸れて歩き、川に出くわすと下流の方に沿って続く凹凸がある砂利道があり、やがて車の音がする舗装道に出ました。
舗装道に出るまでずっと笛のような音は進む先から聞こえていて、父には聞こえていなかったようだけれど、行き先を案内している感じでした。
 なんだかんだで家に着きその事を話すと、

「 それは、こんな音だったかい?」

と祖母が押し入れから古めかしい布袋を出してきて、中から金色の円錐型の笛を取り出して吹いてくれました。

“ パ~フゥ~、パ~フゥ~。”

それは山で聞いたものと同じでした。

「 あ、それだ・・・。」

その笛は豆腐屋をしていた祖母の父の物でした。
 曽祖父は鮎釣りと山歩きが好きな人で、

「 もしかしたら、“こっちだぞ”と教えてくれたのかもわかんねぇなぁ・・・。」

と、祖母は懐かしそうに言いました。















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日々の恐怖 6月9日 骨壺

2013-06-09 18:20:11 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 6月9日 骨壺






 今から3年半ほど前に、仕事で老人ホームの設計を依頼された。
その当時、俺は東京のT市に住んでいた。
依頼の場所は、俺の住むT市の隣M市だった。
ちょうどその時は、H市の病院の増改築工事の設計の仕事をしており、掛け持ちでやる仕事としては、立地的に現場から現場への移動、そして自宅から向かうにも楽な場所であったため、快くOKの返事を出した。
 そして、打ち合わせのために俺は呼ばれ、初めてその現場に向かうことになった。
自宅から車で約15分程で付くだろうと思い、車でO環状を走り、10分程走り指定された脇道へと逸れ、坂道を上ると正面にM斎場があり、M斎場の脇の私有地を抜け、現場らしき場所にたどり着いた。


 今考えるとえると、もの凄い立地条件だ。
斎場からわずか300m程の場所に老人ホームなんて、あまり気分の良い物ではない。
近くには葬儀屋まであるし、それ以外はなにもありはしない。
 それから何事もなく打ち合わせも終わり、俺は関係者の見送りをすませ、最後にその場所から立ち去ろうとすると、一人の爺さんが、老人ホームの建つ方向を眺めていた。

“ 散歩でもしてるのか?”

気になった俺は、その爺さんに話しかけてみた。

「 お散歩ですか?」。

すると爺さんはいやいやと首を振り、逆に俺に話しかけてきた。

「 ここには何が建つのですか?」

そう聞かれた俺は看板を指さし、

「 老人ホームが建つんですよ。」

と答えた。
爺さんは、

「 ほー、こんな静かでいい場所に建てるんですか。
私も出来たら、こんな場所で余生を過ごしたいですね。」

そう聞いた俺は、半分嫌味もはいっているのだろうなと思いながら答えた。

「 場所的には縁起がよくないかもしれませんね。」

爺さんは笑っていた。
 病院の現場に向かう事もあり、俺はそれではと言いながら車を発進させ、後ろを何度も気にしながら病院へと急いだ。


 それからしばらくして、基礎打ちのための掘削に立ち会う事になり、俺は現場に向かった。
俺の到着を待っていたのか、掘削のためのユンボ2台のオペレーターが俺のほうに向かってきた。
 一人はよく一緒に現場で仕事をしているために、笑いながら、

「 またよろしくお願いします。」

そう挨拶してきた。
もう一人は今回が初めてのため、緊張した面もちで、

「 よろしくお願いします。」

と挨拶した。
一通りの打ち合わせを終えて掘削を開始した。
 掘削を初めてから、3時間ほど経っただろうか。
顔見知りのオペレーターのユンボが動きを止めた。
Iくんは、自分が掘削したばかりの場所へと降りていった。

“ どうしたんだろう?”

俺はそう思い、ユンボのほうに向かった。
 その時、掘削で地盤が緩んだのか、ユンボのキャタピラ部分が崩れだしてしまった。
その衝撃で、固定していたはずのユンボのヘッドの部分が、I君に直撃してしまった。
あわてた俺は、もう一人のオペレーターに大声で、

「 ユンボのヘッドを引き上げてくれ。」

そう告げて、俺もI君のいる場所へと降りていった。
 幸いな事に、I君は腕を強打しただけですんだ。
俺は、何でいきなり下に降りて行ったのかを聞いた。
するとI君は、

「 自分がヘッドを向けた場所に、お爺さんが居たんです。
危ないと思ってユンボを止めたら誰もいなくて、気になって、そこを確認しようと思って下に降りたらユンボが傾いちゃって・・・。」

 すいませんと言いながらも痛みをこらえているようなので、俺は現場代理人にI君を病院に連れていく事を告げ、病院に向かった。
 治療も終え、骨にも異常がなかった事から、俺とI君は現場に戻ることにした。
夕方現場に戻ると、作業が中断していた。
どうしたのかと思い、代理人に事情を聞くと、

「 いやーさっきI君が怪我した場所を掘ったら、妙な物が出てきてしまって・・。」

そう言って指をさした。
 指さされた場所を見ると、古びた壺のような物があった。
何なの?代理人に聞くと、

「 骨なんすよ、骨壺ですね。」

俺ははっとして、

「 他には何も出てない?」

と聞いた。
 工事現場で致命的な事は、その場所から遺跡がでてしまう事なのだ。
代理人は、

「 取りあえずあれだけですんで・・・・。」

それを聞き俺は安心した。
 骨壺の状態からかなり古そうであり、殺人などはないだろう。
不謹慎だけど工事現場では、出来るだけささいな事はもみ消す事になってしまう。
遺跡や事件にかかわると、どうしても工事日程がくるってしまう。
それは関係者としては避けたいのである。
 現場責任者を呼び相談した結果、骨壺を少し移動して埋葬する事になった。
掘削場所から10m程離した場所に穴を掘り、骨壺をきれいにしてから埋葬した。
当然線香やお花もそえて。

 それから工事はトントン拍子で進み、1階部分が完成した。
しかし1階部分が完成してから、この現場では妙な事が起こり始めた。
ある場所に限り、事故が多発しだしてきた。
 死亡事故にまでは発展しないが、指の切断、脚立からの転落による骨折、転倒した弾みで鉄筋に肩をぶつけて貫通、落下物による頭部裂傷、一歩間違えば死亡事故に・・・。
1ヶ月の間に、その手の事故が11件も起きてしまい、関係者の間で、

「 あの骨のせいなのだろうか・・・・。」

と言う話が出始めた。
俺もその可能性はあるのだろうなと思わざるえなかった。
 会議で、現場の休日に、お祓いをしてもらうことになった。
お祓いの当日、外部から見えないようにブルーシートを使い、その場所をぐるりと囲みお祓いは行われた。
これで事故が無くなってくれればいいのだがと思った。
 事故は減った、でも無くなる事はなかった。

“ どうしてこの場所だけ起こるのか?
この施設が完成したらどうなるのか?
完成すると、ここは風呂場になる。
老人の転倒、洒落にならん。”

そんな事を考えつつ、数日が過ぎたある日、I君から会社に電話があった。
俺に話があるらしい。
嫌な予感がする。


 病院の現場事務所で待ち合わせる事にして、I君を待っていると、時間通りに来てくれた。
結構深刻そうな顔をしている。

「 どうした?」

俺はI君の顔を見ながら聞いてみた。
するとI君は、

「 あの事故からへんなんですよ。」

そう言って話しはじめた。

「 事故の直後は、こんな夢は見なかったんですが、ここんとこ毎晩同じ夢なんですよ。」

おお何か面白そうだ。
俺はそう思い続きを聞いた。

「夢で、あのお爺さんがでて来るんですよ。
それが、工事途中のあの現場に居るんです。」

居るかもな。
そう考えながらも話を聞いてると、とんでもない事を言いだした。

「 現場であのお爺さんが、Mさんの背中にしがみついてるんですよ。」

それを聞いて、俺は思わず叫んでしまった。

「 何で俺なの?ねえ何でよ?」

たじろぎながらI君は、

「 いや、俺にもまったく分からないんですよ。」

そりゃそうだ。原因がわかれば、俺の所にも来ないだろうしな。
だからといって、そんな事言われても困る。

「 どうしてもMさんの事が気になって、今日訪ねて見たんですけどね。」

それからI君は、現場で線香をあげたいから、つき合ってもらたいと俺に頼んできた。
 そんな話をされた後に、断れるほど俺は強くはない。
今から向かえば、6時過ぎには現場には行けるだろうから、すぐ向かう事にした。
現場に向かう車の中で、I君が見たと言う爺さんの話を聞いてみた。

「 なあ、I君が見たっていう爺さんなんだけどさ、どんな感じの人なの?」

するとI君は、夢で何度も見ている事から詳細に話してくれた。
髪の形、年齢層、着ている物、冷や汗ものだった。
俺が最初に話をした爺さんだ。
 現場に着くまでの間、他の話で紛らわせる事にした。
そして現場に着き、I君は埋葬場所に向かった。
俺のほうはどうしても気になり、外装の完成した風呂場に向かった。

“ 骨壺を移動した事がいけなかったのかな。”

そう思いながら風呂場を見渡した。
 しばらくすると、外からI君の声がした。

「 Mさん終わりました、帰りましょう。」

それを聞いて俺は、「おー」と返事をして、外に向かおうとした。
その時、突然足が動かなくなった。
どう説明していいのか、こんな感じは初めてだった。
 しだいに腰まで重くなってきて、とうとうその場に倒れ込んでしまい、焦りながら何度も立ち上がろうとした。
腰のほうに目を向けても、何も見えない。
すると、カタンと音がした。
 音のするほうを見ると、立てかけてあったスライダー(多段ばしご)が、俺の背中に向かって倒れてきた。
直撃はしたものの、背中だったため、たいしたダメージはなかった。
 スライダーの倒れる音に気が付いて、I君が来てくれた。

「 大丈夫ですかっ!」

そう言いながら、I君は俺を助け起こしてくれた。
ただおかしかったのがI君で、俺を助け起こした後に、どうしたんですか、とは聞かずに、

「 Mさんも線香あげたほうがいいですよ。」

と言ってきた。
気にはなったが、I君の言うとうりに俺も線香をあげることにした。
 線香をあげたあと、俺とI君は現場を後にすることにした。
その帰りの車中で、I君がいきなり俺に謝り始めた。

「 すいません、俺のせいで怪我させて・・・・。」
「 気にしないでいいよ。」

俺は笑いながらI君に言った。
するとI君は、

「 さっき本当は、Mさんの背中にお爺さんが乗ってたんです。」

それを聞いたとき俺は思わず急ブレーキをかけてしまった。
 ビビった。
近くのコンビニに車を止めて、俺はI君に聞いてみた。

「 俺と爺さんは何か関係あるの?」

するとI君は、

「 自分でもわからないんです。
ただMさんは、あの現場には近寄らないほうがいいような気がします。」

そう言われて俺は素直に、完成するまで建物内に入る事はしなかった。


 老人ホームは完成した。
大きな現場ではなかったが、それでも事故の件数は俺が担当したなかでは一番多かった。
29件の内、28件が風呂場だった。
余談だけど、骨壺の件は現場関係者しか知らない。
もう誰も、あの場所に骨壺が埋まっている事など知らない。


















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日々の恐怖 6月8日 オロク

2013-06-08 17:18:10 | B,日々の恐怖







      日々の恐怖 6月8日 オロク






 昔、山仲間が体験した話です。
北海道の大雪山を厳冬期、単独で登山していた時の話だそうです。

 その日は、早朝からとても天気がよく、登山には絶好の日だったそうです。
しかし、そこは冬の山の天気です。
みるみるうちに雲行きが怪しくなり、ついには激しい吹雪になってきました。
引き返すにしてはもうかなり深いところまで来ており、逆に危険すぎる。
避難小屋まであと少しの所まで来ているはずだが、このホワイトアウトの状態では自分の位置すらつかめない。
ビバーグか?
実際それも覚悟していたのだそうです。
 しかし山に関しては経験豊富な男でしたので、この寒いときのビバーグはしんどいなー 、などと呑気に考えていると、少しだけ天気が回復してきました。
周りの展望も少し開けてきて、あとは目標物が見えれば何とかなりそうです。
うっすらと山々が見え始め自分の位置を迅速且つ正確につかむと、

「 よし!行ける!」

避難小屋に行くことを決断しました。
 行程2時間、回復した天気も一瞬でまたもとの猛吹雪となり、雪に埋まった避難小屋を発見できるか、不安が胸を過ります。
しかしそんな不安をよそに意外と簡単に見つけることができました。
と言うのも先行者がいたらしく、入り口部分の雪がよけてあったのです。
 彼は深く安堵し、避難小屋の中に入ると先行者は二人のパーティーらしく奥のほうで早々とシュラフに潜り込み寝息を立てて寝ています。
気を使いながら静かに夕食を済ませると、彼も寝ることにしました。
 何時間か経ったころか、それとも数分か、ぼそぼそ話す声で目が覚めました。
先行者の話し声のようです。耳を澄ませば男女の声が聞こえます。
 この厳冬期に女の人は珍しいと思ったのだそうです。
今後の行程のこと、明日の天気のことを話しているらしく時折押し殺した笑い声も聞こえてきて、なんだか楽しそうです。
 明日の朝目が覚めたら話しかけてみよう。
目標が一緒だったら同行してもいい。
そんな事を考えながら深い眠りに落ちていきました。

 次の日の朝、彼は物々しい雰囲気の中目覚めました。
10人ほどの男達が避難小屋の中にどやどやと入ってきたのです。
彼が目を覚まし体を起こすと、その場が凍りついたそうです。

「 あっ、あんた生きている人か!?」

何のことか分からずポカンとしていると、

「 ほれ、あそこの二人。」

一人が先行者をあごで示すと、

「 あれオロクだ。」 

つまり遭難死した人だったのです。
 事の顛末を聞くと、救助の要請がこの二人から無線により入ったのが3日前で、折り悪く悪天候のためヘリも飛ばすことができずようやく陸路で遭難現場にたどり着いたのが2日前、無線で励ましたのも空しく、発見したときはすでに凍り付いていたそうです。
遺体を収容し麓に降ろそうとしたのだが天候が急変し、二重遭難を恐れ一時避難小屋に遺体を安置し、救助隊は引き上げ今日改めて収容し下山する。
そんな話だった。
 彼は、事の事態が掴めずにいた。
だとすれば、昨日避難小屋に着いたとき聞こえてきた安らかな寝息は?
昨夜の楽しげな話し声は?
厳冬期には幻覚や幻聴も珍しくない。
あれは、やはりそれ?
しかし確かめなければならないことがあった。

「 あのオロクは男女のカップルですか?」

救助隊の一人は無言で深く頷き、新婚旅行だったんだと沈んだ表情で答えたのだそうです。
 救助隊の中に彼の事を知っている人がいたらしく(彼は、ちょっと名の知れたアルピニストです)

「 あんただったら心配はないけど、今日は日が悪いからさっさと下山した方が良いですよ。」

と助言してくれたらしい。
 しかし、彼は予定の全工程をこなし無事下山しました。
この話をしてくれたとき、彼は最後にこう言っていました。

「 いやー、あん時は流石に気味が悪くてサー、山下りようかとも思ったんだけどサー、でもあの夜聞こえてきた話し声がサ、とても幸せそうに聞こえたワケ、だから山はいいなー、そんなことを思ったんだヨ。」

 そんな彼も、数年前アルプスの山に抱かれ姿を消しました。
たぶん彼も永遠に、山はいいなーと感じているに違いありません
そう思うと気が晴れるような気がします。
















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日々の恐怖 6月7日 風音

2013-06-07 19:18:15 | B,日々の恐怖








     日々の恐怖 6月7日 風音








 ふと気が付くと、街にはずいぶん沢山の個人病院ができた。
内科、小児科、整形外科、脳神経外科、眼科、耳鼻科、アレルギー科、専門的に別れた開業医が増えたものだとしみじみ感じる。
そんな個人病院の看板を見ながら、ある医者のことを思い出した。

 私の子供時代には個人病院はほんのわずかで、地域の人たちは必ずかかりつけの先生というのを持っていた。
鼻風邪ぐらいでは病院なんかに行かないのが当たり前だったあの頃は、医者の数もそう多くなかったし、医者を出すほど財力のある家庭も少なかったのだろう。
 子供時代、周囲の村を含めた一帯には総合病院なども無く、現在で言う開業医の個人病院が二つ三つあるくらいで、誰もが生まれるから死ぬまで同じかかりつけの先生の世話になる。
 自家用車の保有台数も少なく、交通の不便な田舎では、患者は中々病院まで足を運べない。
そこで医者たちは診療所で診察する以外に、当然のように往診を日常としていた。

 私の家が家族ぐるみでお世話になっていた病院の先生は、その地域の開業医の中でも特に名医とうわさが高く、大勢の患者さんを抱えていた。
村々に三か所ほど診療所を持ち、曜日ごと時間ごとに移動して診療してくれる。
 それでも診療所に行かれない患者は、村の入り口の集会所などに赤い旗を掲げる。
旗には自分の家の名前を書いておく。
そうすると診療所に来た先生が名前を確認して、診てほしい患者の家まで直接出向いてくれるのだ。
 その先生は本当に腕の良い医者だったのだろう、大抵の病気は問診と聴診器と触診で見抜いてしまう。
無駄に血を採ったり、難しい検査機器などにかけたりしない。
 自分の所ではどうにも対処できない難しい病気の場合は、都会の大きな病院を紹介してくれる。
専門は内科だったらしいが、眼病、お産、婦人病、外科処置、耳鼻咽喉と、虫歯の以外のおよそ需要の高い訴えにはほとんど対応してくれる上に症状も良くなるのだ。
 私の家の曾おじいさんが危篤状態になった時、先生は真夜中だというのに電話一本でとんできてくれた。
永らく診ていた患者の一大事には、真夜中だろうが台風だろうが、きちんと立ち会うというのが先生の信条で、そんな先生の人柄を曾おじいさんは尊敬し信頼していた。
薬なんかもらわなくても、先生に診てもらうだけで元気になる、それが曾おじいさんの口癖だった。
 そんな曾おじいさんが突然危篤状態になり、息も絶え絶えに布団に横たわっている時、先生は大きな医者鞄をひとつかかえて真夜中の往診をしてくれた。
当時、まだ小さな子供だった私はとっくに眠っていたのだが、家の中がにわかに騒がしくなり、それが何やら不吉な騒がしさであることを感じ取って、大人たちが激しく出入りしている曾おじいさんの部屋をそっと覗いた。
 部屋には横になった曾おじいさんの傍らに家の者が二人ほど正座していて、先生は曾おじいさんの脈をとり聴診器をあてたりした。
しばらくそうやって診察した後、先生は返答も返せない状態の患者に、

「 大丈夫だ おじいさん、まだお迎えじゃないよ、また明日来るから。」

そう挨拶して席を立った。
 大人たちは丁寧にお礼を言うと、深々とお辞儀をしながら先生を見送った。
そんなやり取りをこっそり眺めていた兄弟たちは大人に叱られないうちに布団へ戻ったのだが、私は曾おじいさんの様子がとにかく気になって大人たちの目を忍んで曾おじいさんの部屋へ戻り、その様態を恐々眺めた。
 おじいさんの干からびた皮膚は土気色で、呼吸をする胸の上下も弱々しく、そのクセ、喉に笛でもひっかかっているんじゃないかと思うくらい、息をするたびヒューヒューしていた。
子供心に、明日の朝には曾おじいさんは死んでいるんじゃないかと想像するなり、なんだか無性に恐ろしくなって、逃げるように自分の布団に潜り込んだ。
病院の先生は“まだお迎えじゃない。大丈夫”なんて気軽に言っていたが、それは間違いじゃないか?・・・・そんなことを考えているうち眠りについたのだろう、目が覚めるとすでに朝になっていて、いつも通り台所で食事の用意をする音が聞こえた。
 朝食の支度をしている母たちは、普段と全く変わらない様子だった。
台所には、この家から死人が出たという慌ただしさや、ザワザワした感じは微塵もなかった。
実際、曾おじいさんはその日の夕食には家族と同じ席について、一緒に夕飯を食べることができた。
 しばらくの間、先生は毎日往診にきてくれて、診察をしたり、ときには一時間ばかり世間話をして帰ることもあった。
先生と世間話をするのが曾おじいさんにとって何より楽しみらしく、話をした日は特に元気だった。
 おじいさんの様態が安定し始めると毎日の往診が一日おきになり、次は三日おき、一週間おき、十日おき、といった具合に往診の間隔が長くなってきて、それは曾おじいさんの健康と比例し三か月もすると畑仕事もできるまでに回復した。

 それから一年ばかり過ぎた頃だ。
風邪をひいて熱を出した私を診に、先生がしばらくぶりに往診に来た。
注射を打って薬を出してくれた先生は、ちゃんと寝てるんだぞと、私の頭をひと撫ですると、ついでに曾おじさんの診察をすると言って部屋を出て行った。
 注射が効いたのか、苦い薬が効いたのか、その日の晩にはすっかり熱も下がった私は、腹が減って目が覚め、夕飯の支度をしているであろう母親を探しに布団を離れ台所の入り口で思わず足を止めた。
 台所には母親と祖母以外に、滅多なことでは顔も出さない親戚のおばさんたちが数人いて、祭りの御馳走を作る時に使う大鍋で沢山の料理を作っている。
明日は祭りの日かそれとも正月?
ぼんやりした頭でそんなことを考えていると、母親に見つかって布団へ連れ戻された。
 その夜、寝床で静かにおかゆを食べていると先生の声がした。
何を言っているのかよく聞こえないが、それはやけに落ち着いて、その落着きとは逆に家の中は突拍子もなくざわついてきた。
廊下をパタパタと小走りしていた親戚のおばさんが、和尚さんには明日の朝早くに知らせればいいと、誰かに喋っているのが印象に残った。
 朝になって初めて知ったのだが、昨晩、曾おじいさんが亡くなっていた。
おばさんたちは葬式の準備のためにやって来たのだった。

 大人になってから聞いた話だが、あの病院の先生には尋常では考えられない不思議な部分があって、それは人の死を正確に言い当てることだったという。
私の診察をした後、何気なく曾おじいさんの診察をした先生は家族に告げたのだそうだ。

「 葬式の準備をした方がいい。」

とても死ぬような様子ではなかったので、その言葉に家族は困惑したが、先生の言うことなら間違いないと親戚の者たちを密かに呼び集めたらしい。
 そしてその晩、曾おじいさんは前触れもなく亡くなった。
コタツに座ってお茶を飲みながら家族と話をしていたおじいさんは、お茶のおかわりを淹れに家族が台所へ立って戻ってみると、すでに息をしていなかった。
まるで電池の切れた人形のように、唐突にあの世へ旅立ってしまったのだ。
 あの先生が医者として死を正確に見極められたのか、それとも計り知れない能力によって嗅ぎ分けたのかは誰にも判断しがたい。
ただ、どんなに臨終間際に見える人間でも、先生が大丈夫だと言えば絶対に死ななかったという。
逆に、どんなに元気そうに見えても、先生が色々支度をした方がいいと家族に告げる場合は、確実に葬式が出たという。
 なんでも、あの先生には風の音が聞こえたらしい。
聴診器を患者にあてると、死の近い人間には風が吹き抜けるような音がすると言い、それはもしかしたら魂が肉体から離れる時の音かもしれない、と生前語ったということだ。



















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日々の恐怖 6月6日 ガチャコン

2013-06-06 18:01:22 | B,日々の恐怖






   日々の恐怖 6月6日 ガチャコン






 特別に怖い話ではないけれど、自分が実際経験したことです。
8月5日はお盆前の墓地組合全員でのお墓掃除でした。
早朝から組合員27人で墓地の草取りや古い墓標の焼却をしました。
 作業は一時間ほどで終わり、組合長の挨拶の後、解散となりました。
自分は役員なので墓標を燃やしたたき火が消えるまで自分の家の墓を掃除しながら一人で居残りとなりました。
 自分の家のお墓の草取りをして、墓からはちょっと離れた場所にある井戸ポンプで「ガチャコン・ガチャコン」とバケツに水を汲んでお墓まで運んで墓石を洗いました。
一度洗った墓石をきれいな水で流すためにもう一度井戸に行って「ガチャコン・ガチャコン」と水を汲みました。
 バケツを手に提げて10メートルくらい家のお墓のほうに向かって歩いたとき、ふいに後ろから「ガチャコン・ガチャコン・ガチャコン」と井戸ポンプの音が聞こえるのです。
あれっまだ誰か残っていたのかな、と井戸を振り返ると誰もいません。
ただ雑木林からセミの鳴き声だけが聞こえるだけです。
 でも、自分は空耳ではなく、はっきりと手汲みポンプの音を聞いたのです。
きっとこのお墓に眠っている親しかった近所のジィサンやバァサンたちが自分をからかったのだろうと思いました。
















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日々の恐怖 6月5日 記憶

2013-06-05 19:06:26 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 6月5日 記憶






 高校生の時に家を立て直したのですが、それまでは平屋で土間がある様な家でした。
自分は小さい頃、その家で葬儀をやった記憶があります。
玄関の上がり端の横の座敷と奥座敷を仕切るふすまを取り外して、奥座敷の床の間に祭壇を組んで葬儀をやりました。
誰の葬儀だったのかまでは覚えていません。
 しかし、中学生ぐらいの時おかしな事に気付いたのです。
私の家では、私が生まれてから誰一人として亡くなっていないのです。
 何の話題だったか、家族で私の曾祖父母の話になり、二人とも私が生まれる以前に亡くなっている事を知ったのです。
当時祖母は健在でしたし、祖父は父が子供の頃に亡くなっていると聞かされていたので、私の記憶と食い違います。
 そして、祖母にその事を話すと驚いた様に教えてくれました。
実は私の曾祖母は私が生まれる一ヶ月前になくなっていたのです。
その曾祖母の葬儀が、自宅で床の間に祭壇を組んで行われていたのです。
 曾祖母は私が生まれるのを、それは楽しみにしていたそうです。
祖母は『お腹の中から見てたんだねぇ……。』と言っていました。
一緒にお腹に入っていた双子の姉も『そう、そんな記憶があるんだけどさあ……。』と何となく記憶がある様でした。










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日々の恐怖 6月4日 クローゼット

2013-06-04 19:33:11 | B,日々の恐怖





     日々の恐怖 6月4日 クローゼット





 学生の頃のことですが、仲の良かった子のアパートに初めて泊まりに行った時です。
夜になって二人でビールを飲みながらテレビを見ていました。
 私の右側の壁にはウォークインクローゼットがあり、正面のテレビを見ていると右目の視界にクローゼットの扉がうつるのですが、どうもさっきからチラチラと何かが動いているような気がするんです。
気になるなぁ、と思い右側を見てみると、観音開きになっているクローゼットの扉が少し開いてるんです。
 友人は、

「 ワンルームで狭いからついついクローゼットに物を詰め込んでしまう。
衣装ケースとか掃除機とかで中は満タン。
で、扉が閉まりきらなくて時々自然に開いてしまう。」

というようなことを、その時は言っていました。
 それから数分後、友人が新しいビールを取りにキッチンへ。
部屋に一人になった私はなにげに自分の右側のクローゼットのほうを見ました。
するとキィ~っと扉が開いて、中から青白い手が這うようにして出てきたんです。
 その時まで私は霊体験など一度もなく、どちらかというと信じていなかったのですが、あまりの光景に目をそらすこともできずに固まっていると、キッチンのほうから両手にビールを持った友人が部屋に戻ってきて、なんと足で扉をバンッと蹴って閉めました。
そして、

「 見た?」

と。
 友人が言うには、このアパートに越してきた初日から、あの手は見えていたそうです。そして、その手はウォークインクローゼットの外へ出ようと這っているようなのですが、なぜか一度も出てきたことがないそうで。

「 何かの事情で、外に出られないんだわね。」

と友人が暢気に語るので、

「 なんで引っ越さないの!」

と私が訊ねると、お金がないの一言・・・。
 友人はお家の事情で当時すでに自活しており、奨学金で学校に通い、生活費のためにバイト三昧の毎日を送っていた頑張り屋でした。
私は、

「 私も半分出すから引っ越そうよ。」

と提案したのですが、

「 う~ん、でもココ家賃安いし・・・。」

 その後、いろいろとその手について友人は語り始めたのですが、クローゼットの中は満タンというのは嘘で、中は空っぽだそうです。
そりゃあ気持ち悪くて荷物なんか入れられないよね、と私は思ったのですが、彼女が掃除機だとかの物をクローゼットにしまうと、翌朝になるとクローゼットの扉の前に荷物が全部出されているそうです。
 友人は、

「 ただでさえ狭いワンルームなのに・・・、迷惑だわね。」

初めての恐怖体験でしたが、手よりも友人の暢気さのほうが怖かったです。
 私は怖くて二度と泊まりに行けませんでしたので、彼女が私の家に遊びによく来てくれました。
会うたびに「手は?」と私は聞いてしまうのですが、彼女は「元気だよ」と。
結局、彼女は家賃の安さが魅力ということで、そのアパートに卒業まで住んでいました。













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日々の恐怖 6月3日 ただいま

2013-06-03 18:16:09 | B,日々の恐怖





    日々の恐怖 6月3日 ただいま





 Aちゃんが住んでいた家の玄関はガラスの格子戸で、腰掛けて靴を脱ぐ上り框、そのすぐ後ろにもすりガラスの引き戸が嵌っていた。
だから、Aちゃんのお父さんが、

「 ただいま。」

と帰ってきて靴を脱ぐと、その影がすりガラス越しに見える。
 お母さんは廊下に顔を出してその大きなシルエットに、

「 お帰りなさーい。」

と声をかけるのがいつもの光景だった。
 だけどAちゃんが6年生のとき、お父さんは家で突然倒れて、そのまま運ばれた先の病院で亡くなってしまった。
前ぶれもなく伴侶を失ったお母さんの悲しみようは深かった。
 玄関のコート掛けには、倒れる前日、会社から帰ってきたお父さんがハンガーにかけた背広がそのままになっていた。
いや、お母さんがそのままにしていたのだ。
まるで、そうしていればひょっこりお父さんが帰ってくるとでもいうように。

 Aちゃんにも、その気持ちはよくわかった。
だけど、三ヶ月ほど経ったある夕方、背広を見ているうちにちょっとイタズラしてやろうという気持ちが湧いてきた。
 いつまでも泣いてちゃダメだよお母さん、お父さんだって浮かばれないよ、という思いもあったのだろう。
お父さんの背広をそっと羽織って、格子戸をわざと大きな音をさせて開ける。
すぐさま上り框に腰掛けて靴を脱ぐ仕草。
 背広はブカブカだったけれど、夕陽に照らされてすりガラスに映った影は、お父さんのように大きく見えているはず。

「 はーい、どちら様で・・・。」 

お母さんが息を呑む気配がした。

「 あなた・・、なの?」

その瞬間、Aちゃんの胸に後悔の念が押し寄せた。
その声はお母さんではなく、夫に呼びかける妻のものだったから。
 ちょっとからかうつもりだったのに、心の底からお父さんが帰ってきたと思っている。

“ ごめん、お母さん、ほんとはアタシだよ!”

あわててそう言ったつもりだった。
でも、口から出た言葉は違った。

「 ただいま。」

Aちゃんの耳に太い男の声が聞こえた。


















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日々の恐怖 6月2日 壁声

2013-06-02 18:43:44 | B,日々の恐怖





    日々の恐怖 6月2日 壁声





 Kさんが大学に入学したばかりの頃の話だ。
仕送りの額も少ないので、彼は住居を安普請のアパートにするしかなかったそうだ。
今ではインターネットでは悪名の高い、あの会社の賃貸住宅だ。
隣人がテレビで何を見ているか、それがわかるほど壁は薄かったという。
 なるべく静かに過ごすように心がけていたが、できたばかりの友人が泊まりに行きたいと言えば断ることはできない。
 酒を飲みながら馬鹿話をしていると、隣人はすぐに苦情にやってきた。
Kさんは友人の手前、

「 いちいち細けぇなぁ、ちょっとガツンと言ってやるよ。」

そう強ぶってドアを開けた。
 極端に細い眉をハの字に曲げる、胸元にタトゥーを入れた(しかも見せびらかすように、素肌に甚平姿だった)二十代後半の男が立っていた。
低い声で一つ、

「 うるせぇよ。」

いっぺんに酔いが冷めたKさんは平謝りをしたという。
友人には、ヤクザがいた、と説明したそうだ。
 以来、Kさんは一層静かに生活することを心がけた。

「 それが怖い話・・?
まぁ、確かに怖いけど・・・。」

私が内心気を落としながら聞くと、Kさんは首を振った。

「 これからです。」

学生生活も慣れ始めた頃、深夜に隣から怒鳴り声が聞こえた。

「 なんだよ、てめぇ、やんのかよ、おい、こら。
テメーなんだよ、なに見てんだよ。」

ケンカが始まった。
Kさんはそう確信し、半分不安半分期待で耳をすませた。

「 なんだよ、おい、ふざけんなよテメー・・・。」

男の声しか聞こえなかった。

“ 電話でケンカしているのだろうか?”  

Kさんの考えを、男の声はさえぎった。

「 あ、ちょっとやめ、やめて。
近づかない。
こないで。
やだ、ちょっと、髪、いや爪、ひっかかないで・・・。」

押し殺した悲鳴のような、恐怖に怯えた低い声だった。
それが止むと、震えた声で不明瞭なお経が始まった。

「 なむあみだー、なむあみだー。」

ところどころ、男の嗚咽が混じっていたという。
 十分ほど続いたそれは、しゃっくりのような音を最後に止まった。
二日後には、隣室は空き部屋になっていた。

「 たぶん、なにかいたんでしょうね。
その後に入ってきた人も、すぐに引っ越していきましたから・・。」

Kさん自身は壁一枚を隔てることにより、怖い思いはしなかったそうだ。

「 あんだけ薄い壁でも大事なんですね。
なにか知らないですけど、そんなのは律儀にその部屋だけでした。」

 Kさんは今では家賃八万の新築、鉄筋コンクリートのアパートに住んでいる。
もう安いアパートには住めないそうだ。


















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日々の恐怖 6月1日 花

2013-06-01 17:45:35 | B,日々の恐怖





    日々の恐怖 6月1日 花





 よく通る道に花が手向けられている電信柱があり、通る度に供えられた花の種類が変わっていたので、よほど大切な人を亡くしたんだろうなと気になって見ていた。
 ある時、その電信柱の前を通ったらその花が荒らされていた。
次の日通ると花は綺麗に新しくなっている。
その日の夕方に通るとまた花が荒らされていた。
その後荒らされる→新しい花→また荒らされるというのが暫く続いた。
 猫や鳥にやられたのかな・・・?、と思いつつ通り過ぎていたが、ある日偶然にもその花を荒らしている最中の人を発見。
 俺はとっさに車を降り、

「 何してるんですか!」

と咎めた。
すると、こちらを向いた40~50代位の女性に女性が、

「 ○○ちゃんを返して~。」

と号泣。
 虚をつかれ、うろたえながら彼女を宥めつつ話を聞くと、彼女は娘さんをここで亡くしたと。
 娘さんは歩いていて、車に突っ込まれた。
運転していた男性も、この電信柱にぶつかった衝撃で亡くなった。
 この花は加害者の男性の家族が供えている。
その花を見る度に娘を思い出してしまい、いたたまれなくなって花を荒らすようになってしまった。
と、言った感じでした。

「 もうこんな事はしませんから・・・。」

と泣きながらふらふら帰っていく彼女を見て、やるせない気持ちになり暫くそこに立ち尽くしてしまいました。











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