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「繁華街の曲がり角に来ると、霧が消え去り大聖堂が目に入った。
巨大な聖堂。
大ピラミッド以降人間の手で打ち建てられた最高の頂きが、くっきりと浮かび上がった」。
文豪ヴィクトル・ユゴーが初めてストラスブール大聖堂に出会った時の、驚きを書き記した言葉だ。
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尖塔も含めて1439年にすべてが完成したこの大聖堂は、ヨーロッパにある幾つものゴシック式大聖堂の中でも特別の存在感を誇っている。
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その原因の1つは、142mという尖塔の圧倒的な高さ。完成以来19世紀にドイツ・ケルン大聖堂が157mの塔を建てるまで何世紀にもわたって、キリスト教世界で最も高い塔として君臨し続けた。
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第2点目は、その材質。アルザスのヴォージュ山脈から産出される砂岩を使った建築は、赤黒く重厚で、奥深い色彩のモザイクを作り出した。
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色彩は降りかかる光によって劇的に変化する。通常は一般的な聖堂と比べてかなり黒っぽい感じだ。
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それが、夕方の陽光を受けると、ほんのりと赤く染まってゆく。
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また、夜のライティングによって、見事にゴールドの衣をまとってしまう。
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そんな過程を見つめる中で、人々が「バラ色の聖堂」と呼ぶようになったのも、うなずけることだ。
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非対称の形もまた、特異性を際立たせる要素の1つだ。もともとは南北の2塔を建設するという設計だったが、地盤が弱いことが判明、資金問題も発生して結局北塔1塔だけになったという。
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ロケーションはパリやシャルトル、ランスなどのフランスの大聖堂がどれも十分な広場を持ち、他の建築と離れて独立した形で建っているが、ストラスブールの場合は真ん前に旧市街の街並みが続く。従って正面から建物全体を眺めることが困難だ。
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そのため、旧市街から大聖堂を見上げると、街並みの家々が押しつぶされそうなほどの近接感を与える。
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そうした様々な要素が重なり合って、大聖堂は見上げる人々に畏敬の念を引き起こさせずにはおかない存在になっている。
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ユゴー以外にも何人もの著名人がこの大聖堂を訪れ、感嘆の言葉を連ねた。詩人にして彫刻家カミーユ・クローデルの兄でもあるポール・クローデルは「アルプスの娘のごとき、大いなるバラ色の天使」と讃えた。
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また、ストラスブールに住んだ経験を持つゲーテは「荘厳なる神の木」と表現し、自らの著書「ドイツの建築について」の中で「ドイツ文化の特性を備えた建築物」と絶賛した。
大聖堂近くに宿をとったストラスブール滞在中の3日間は、毎日大聖堂を見上げてその壮大さに見惚れる時間だった。