5月4日のこと。
メルキュールの部屋から、UMSが見えた。UMSとは、マレー語スペルで、Universiti Malaysia Sabahの頭文字だ。UMSのボルネオ海洋研究所には、一般にも公開している水族館がある。ボルネオ海域の生物をメインに紹介したもので、たぶん、ジンベェもマンタもハンマーもいないと思う。普通種ばかりで、小さな水族館のようだけれど、UMSはすぐそこだし、せっかくだから行ってみなきゃ。
ホテルのレセプションで、「UMSの水族館に行きたいんだけど、歩いて行ける?」とたずねたら、「タクシーよ!」と二人のお姉さんが口をそろえて言った。「それにきょうは日曜だから、明日にした方がいいわ。お役所は土日は休むものなの。役所ってのは、いい仕事よねぇー。」と片方のお姉さんが言う。そりゃあんた、ツーリズムは土日祝日がかきいれどきでんがな、とつっこんでやった。サバ観光局、UMSいずれのサイトを見ても、水曜と国民の祝日が定休となっていても、日曜休みとはどこにも書いていない。それでも、きっと地元の人々の言うことに従った方が無難にちがいない。翌日、KKに移動がてら寄ることにした。
KKの空港から1Borneoに来るとき、UMS入り口と1Borneoは目と鼻の先に感じられた。だから、キャンパスを適当に散歩しながら、水族館を探そう、くらいに思っていたが、そんなもんじゃなかった。タクシーでキャンパスに入っても、まだまだ続く車道。しかもキャンパス内は起伏も多いし、大型のスクールバスも何台もとまっている。日本の大学とは大違いだ。とにかくでかい・・・。キャンパス内の移動に車がいるとは!なんでもUMSは1週10キロあるらしい。それに、東南アジアで一番美しい大学といえるのもうなずける、とてもキレイなキャンパスだ。私が今大学生だったならば、ここに留学してマリンバイオロジーでも学びたいところだ。
学内に入ってから水族館までの距離の方が、メルキュールからUMSの入り口の距離よりも、はるかに遠かった。水族館の中に入ると、そこはシパダンの水中ジオラマになっていた。見上げると、上方にダイバーがおり、バラクーダの群れ、マンタ、ハンマーヘッドもいる。このジオラマは水族館の目玉のようだが、申し訳ないけれど、しょぼいと思う。でも、角度によって見え方も違うし、シパダンを実に簡潔に表現していると思う。
水族館の中は、このシパダンジオラマをはさんで、左右2つの展示室にわかれている。右手には水槽、左手には、クジラの骨の標本が見えた。まず、右手にすすんでみる。
予想通りとても小さな水族館のようだ。奥のほうの水槽は、階段を何段か上がったところにあるが、おそらくあれでつきあたりだろう。そして、館内には誰もいないことに気がついた。遠くから、ネコが鳴くような声がしてくるだけだ。そういえば、WEBに入場はマレーシア人RM5、外国人RM10と書いてあったけど、いったいどこで払うんだろう、と思いながらもどんどんすすむ。
まず、最初の水槽にはロブスター。写真じゃよくみえない。
次は、四角いシーグラスの水槽。近寄ると、奥のほうにいた黄色いシーホースさんと、エビさんが寄ってきた。この2匹、私が左にいけば左、右にいけば右についてきてくれるので、愛着をおぼえてしまった。好奇心が強いのか。それとも自分たちのテリトリーに近づくな、と言いに来ているのか。もしくは、餌の時間をまっているのか。エビさんというのは、すごく視力が弱いときいているが。見えてるのかな。奥の方には、白いシーホースさんがいたが、こちらは無愛想だった。シーホースさんたちにも性格があるもんだ。
お次は、あんまりきれいではないサンゴの水槽。ギチベラが一匹いるが、サンゴともどもパッとしない色彩。カクレクマノミが出てきたが、すぐに隠れられた。
さらに奥にすすむと、階段の手前からいきなりネコが現れた。さわると痒くなったりしそうなので、かまわないでおこう。
ところがネコは足元にすりすりしてくる。とりあえず、どんなにまとわりつこうが、相手にせず、ずっと無視を決め込むことにした。それに私はクールでシャープなネコのみがすきで、やたらなれなれしいネコは好みじゃない。しかし、ネコはしつこさを増すばかりなので、さっさと上の水槽へ移ろうと、階段めざして急ぎ足ですすむ。それなのに、ネコはなお足元にからみつくので、ふりきろうと駆け足で階段をのぼったら、足裏に何かやわらかい感触がした。その刹那、ネコが「ギャー」と叫んだ。私もギャーと叫んだ。ネコの足を思い切りふんづけてしまったのだ。「おー、ごめんよ。だから着いてきちゃだめだよ。」加減なしに踏んだわけなのだが、ネコは絶叫ぶりと、数秒だけ痛そうに前足を気にしたわりには、またこりずにまとわりつきはじめた「また踏まれたいのかい?」
階段をあがると、右手にレモラの水槽があった。レモラというのは、私が嫌いな数少ない魚類のひとつだ。頭のすいつくコバンを生理的に受けつけない。
気をとりなおして、一番大きな水槽にゆくと、巨大なグルーパーがいた。ハタ科にはちがいないが、クエか、タマカイか、コッドか、ハタ界に明るくないので識別できない。
そして、ナポレオンが奥をのそーっと泳いでいた。少し移動すると、ナポレオンがこんどは寄ってきた。上方からはハコフグなんかも寄ってきた。
とくに面白みはない水槽だが、ダイビングを始めた頃は、GBRのジャイアントポテトコッドに囲まれたいとか、ナポレオンフィッシュが見たいとか、ずいぶん控えめなウィッシュ・リストだったな、とふと初心を思い出した。
続いて、左手には、もうひとつ、ハタ科の水槽があった。マダラハタだろうか。近づくとみんないっせいに寄ってくる。その間もネコがうざい。
私が水槽に近づくと、水槽のふちにネコがぴょん、と乗っかった。すると、ハタたち、それまでのっそりしてたのに、蜘蛛の子を散らしたように上方へ去った。ネコは危険だと、本能でわかるんだ。そして、ネコが下りると、みんなまた、のっそり戻ってきた。
これがラストの水槽で、生き物が入った水槽は8個しかなかった。そしてこんな小さな建物の中でも、ネコのなわばりは決まっているらしく、シーグラスの水槽に戻った頃には、ネコの姿は見えなり、また奥のほうからみゃおみゃおという声だけが聞こえてきていた。
もう一度、いちばんなごめたシーグラスの水槽へ戻り、別の位置から覗き込むと、砂の上にカブトガニの幼生みたいのがいるのに気づいた。小さくてかわいい。そしてまたもエビさんが、やってきてくれた。かわいい子達だ。
水族館には、マングローブ・ウォークのがあるのだが、そちらには出れなくなっていたので、ふたたびシパダン深海ジオラマを通り、左手の展示室に移ると、そちらは標本の間で生命感がまったくない、白骨ワールド。
まず入り口にクジラの骨。これがおそらく水族館的には第一の目玉なのだろう。Cuvier’s Beaked Whale、アカボウクジラという種らしい。
あとは、さまざまなサンゴの標本が展示してあった。みんな真っ白なので、目には楽しくない。やはり水中で生きてカラフルな状態でないと。
こちらはマブールで採集されたサンゴ。
奥にカメの標本があったが、みんな目玉がないので、近くでみるとこわい。作り物の目玉、入れましょうよ。
こうして最後まで貸切のまま、30分たらずで外に出た。立ち止まらなければ、ものの10分もかからない大きさだ。外に出て、「ここって、お金はどこで払うんざんしょ。」と聞くと、タクシードライバーが「そこ。」と指をさしたところが、受付。いかにも入場券売り場といった窓があいて、10リンギット差し出すと、「フリー!」といわれた。「トゥリマカシ」と帰ってきた。
ボルネオのジンベエについてとか、興味深い記述もあったが、たいしてうんちくが深まることもなく水族館をあとにした。でも、多くの魚がこちらに近づいてきてくれるし、魚市場見学と同じで、魚類とかかわる時間ってのは、ダイバーにとっては少なからず、楽しいもんだ。
メルキュールの部屋から、UMSが見えた。UMSとは、マレー語スペルで、Universiti Malaysia Sabahの頭文字だ。UMSのボルネオ海洋研究所には、一般にも公開している水族館がある。ボルネオ海域の生物をメインに紹介したもので、たぶん、ジンベェもマンタもハンマーもいないと思う。普通種ばかりで、小さな水族館のようだけれど、UMSはすぐそこだし、せっかくだから行ってみなきゃ。
ホテルのレセプションで、「UMSの水族館に行きたいんだけど、歩いて行ける?」とたずねたら、「タクシーよ!」と二人のお姉さんが口をそろえて言った。「それにきょうは日曜だから、明日にした方がいいわ。お役所は土日は休むものなの。役所ってのは、いい仕事よねぇー。」と片方のお姉さんが言う。そりゃあんた、ツーリズムは土日祝日がかきいれどきでんがな、とつっこんでやった。サバ観光局、UMSいずれのサイトを見ても、水曜と国民の祝日が定休となっていても、日曜休みとはどこにも書いていない。それでも、きっと地元の人々の言うことに従った方が無難にちがいない。翌日、KKに移動がてら寄ることにした。
KKの空港から1Borneoに来るとき、UMS入り口と1Borneoは目と鼻の先に感じられた。だから、キャンパスを適当に散歩しながら、水族館を探そう、くらいに思っていたが、そんなもんじゃなかった。タクシーでキャンパスに入っても、まだまだ続く車道。しかもキャンパス内は起伏も多いし、大型のスクールバスも何台もとまっている。日本の大学とは大違いだ。とにかくでかい・・・。キャンパス内の移動に車がいるとは!なんでもUMSは1週10キロあるらしい。それに、東南アジアで一番美しい大学といえるのもうなずける、とてもキレイなキャンパスだ。私が今大学生だったならば、ここに留学してマリンバイオロジーでも学びたいところだ。
学内に入ってから水族館までの距離の方が、メルキュールからUMSの入り口の距離よりも、はるかに遠かった。水族館の中に入ると、そこはシパダンの水中ジオラマになっていた。見上げると、上方にダイバーがおり、バラクーダの群れ、マンタ、ハンマーヘッドもいる。このジオラマは水族館の目玉のようだが、申し訳ないけれど、しょぼいと思う。でも、角度によって見え方も違うし、シパダンを実に簡潔に表現していると思う。
水族館の中は、このシパダンジオラマをはさんで、左右2つの展示室にわかれている。右手には水槽、左手には、クジラの骨の標本が見えた。まず、右手にすすんでみる。
予想通りとても小さな水族館のようだ。奥のほうの水槽は、階段を何段か上がったところにあるが、おそらくあれでつきあたりだろう。そして、館内には誰もいないことに気がついた。遠くから、ネコが鳴くような声がしてくるだけだ。そういえば、WEBに入場はマレーシア人RM5、外国人RM10と書いてあったけど、いったいどこで払うんだろう、と思いながらもどんどんすすむ。
まず、最初の水槽にはロブスター。写真じゃよくみえない。
次は、四角いシーグラスの水槽。近寄ると、奥のほうにいた黄色いシーホースさんと、エビさんが寄ってきた。この2匹、私が左にいけば左、右にいけば右についてきてくれるので、愛着をおぼえてしまった。好奇心が強いのか。それとも自分たちのテリトリーに近づくな、と言いに来ているのか。もしくは、餌の時間をまっているのか。エビさんというのは、すごく視力が弱いときいているが。見えてるのかな。奥の方には、白いシーホースさんがいたが、こちらは無愛想だった。シーホースさんたちにも性格があるもんだ。
お次は、あんまりきれいではないサンゴの水槽。ギチベラが一匹いるが、サンゴともどもパッとしない色彩。カクレクマノミが出てきたが、すぐに隠れられた。
さらに奥にすすむと、階段の手前からいきなりネコが現れた。さわると痒くなったりしそうなので、かまわないでおこう。
ところがネコは足元にすりすりしてくる。とりあえず、どんなにまとわりつこうが、相手にせず、ずっと無視を決め込むことにした。それに私はクールでシャープなネコのみがすきで、やたらなれなれしいネコは好みじゃない。しかし、ネコはしつこさを増すばかりなので、さっさと上の水槽へ移ろうと、階段めざして急ぎ足ですすむ。それなのに、ネコはなお足元にからみつくので、ふりきろうと駆け足で階段をのぼったら、足裏に何かやわらかい感触がした。その刹那、ネコが「ギャー」と叫んだ。私もギャーと叫んだ。ネコの足を思い切りふんづけてしまったのだ。「おー、ごめんよ。だから着いてきちゃだめだよ。」加減なしに踏んだわけなのだが、ネコは絶叫ぶりと、数秒だけ痛そうに前足を気にしたわりには、またこりずにまとわりつきはじめた「また踏まれたいのかい?」
階段をあがると、右手にレモラの水槽があった。レモラというのは、私が嫌いな数少ない魚類のひとつだ。頭のすいつくコバンを生理的に受けつけない。
気をとりなおして、一番大きな水槽にゆくと、巨大なグルーパーがいた。ハタ科にはちがいないが、クエか、タマカイか、コッドか、ハタ界に明るくないので識別できない。
そして、ナポレオンが奥をのそーっと泳いでいた。少し移動すると、ナポレオンがこんどは寄ってきた。上方からはハコフグなんかも寄ってきた。
とくに面白みはない水槽だが、ダイビングを始めた頃は、GBRのジャイアントポテトコッドに囲まれたいとか、ナポレオンフィッシュが見たいとか、ずいぶん控えめなウィッシュ・リストだったな、とふと初心を思い出した。
続いて、左手には、もうひとつ、ハタ科の水槽があった。マダラハタだろうか。近づくとみんないっせいに寄ってくる。その間もネコがうざい。
私が水槽に近づくと、水槽のふちにネコがぴょん、と乗っかった。すると、ハタたち、それまでのっそりしてたのに、蜘蛛の子を散らしたように上方へ去った。ネコは危険だと、本能でわかるんだ。そして、ネコが下りると、みんなまた、のっそり戻ってきた。
これがラストの水槽で、生き物が入った水槽は8個しかなかった。そしてこんな小さな建物の中でも、ネコのなわばりは決まっているらしく、シーグラスの水槽に戻った頃には、ネコの姿は見えなり、また奥のほうからみゃおみゃおという声だけが聞こえてきていた。
もう一度、いちばんなごめたシーグラスの水槽へ戻り、別の位置から覗き込むと、砂の上にカブトガニの幼生みたいのがいるのに気づいた。小さくてかわいい。そしてまたもエビさんが、やってきてくれた。かわいい子達だ。
水族館には、マングローブ・ウォークのがあるのだが、そちらには出れなくなっていたので、ふたたびシパダン深海ジオラマを通り、左手の展示室に移ると、そちらは標本の間で生命感がまったくない、白骨ワールド。
まず入り口にクジラの骨。これがおそらく水族館的には第一の目玉なのだろう。Cuvier’s Beaked Whale、アカボウクジラという種らしい。
あとは、さまざまなサンゴの標本が展示してあった。みんな真っ白なので、目には楽しくない。やはり水中で生きてカラフルな状態でないと。
こちらはマブールで採集されたサンゴ。
奥にカメの標本があったが、みんな目玉がないので、近くでみるとこわい。作り物の目玉、入れましょうよ。
こうして最後まで貸切のまま、30分たらずで外に出た。立ち止まらなければ、ものの10分もかからない大きさだ。外に出て、「ここって、お金はどこで払うんざんしょ。」と聞くと、タクシードライバーが「そこ。」と指をさしたところが、受付。いかにも入場券売り場といった窓があいて、10リンギット差し出すと、「フリー!」といわれた。「トゥリマカシ」と帰ってきた。
ボルネオのジンベエについてとか、興味深い記述もあったが、たいしてうんちくが深まることもなく水族館をあとにした。でも、多くの魚がこちらに近づいてきてくれるし、魚市場見学と同じで、魚類とかかわる時間ってのは、ダイバーにとっては少なからず、楽しいもんだ。