春庭Annex カフェらパンセソバージュ~~~~~~~~~春庭の日常茶飯事典

今日のいろいろ
ことばのYa!ちまた
ことばの知恵の輪
春庭ブックスタンド
春庭@アート散歩

ぽかぽか春庭「平成若者語」

2012-07-14 00:00:01 | 日本語教育
2012/07/14
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>未来日本語訳(1)平成ギャル語

 7月7日の春庭「明治の語彙(2)」で、永井荷風の「書かでもの記」から引用しました。
 「身をせめて深く懺悔(ざんげ)するといふにもあらず、唯臆面(おくめん)もなく身の耻とすべきことどもみだりに書きしるして、或時は閲歴を語ると号し、或時は思出をつづるなんぞと称(とな)へて文を売り酒沽(か)ふ道に馴れしより、われ既にわが身の上の事としいへば、古き日記のきれはしと共に、尺八吹きける十六、七のむかしより、近くは三味線けいこに築地(つきじ)へ通ひしことまでも、何のかのと歯の浮くやうな小理窟つけて物になしたるほどなれば、今となりてはほとほと書くべきことも尽き果てたり

 標準語(近代口語)言文一致後の文章語によって、春庭が稚拙ながら現代文章語訳を試みますれば、以下のような意味になります。
 「自分自身の身の上をせめて懺悔(ざんげ)するというほどのことでもなく、おくめんもなく身の恥とすべきことなどもやたらに書き散らして、ある時は来し方の履歴を語ると言い、ある時には過ぎた日々の思い出を書く、などと言って文章を金に換え、酒を買う生き方に慣れてしまって以来、私は、すでに自分の身の上のことを古い日記の書き残し、尺八を習って吹いていた十六歳十七歳の昔のことから、最近は三味線のけいこに築地へ通っていることまで、何でもかんでも、歯の浮くような小理屈をつけて、もっともらしい文に仕立て上げてきたのだけれど、今となっては、もう書くべき事も尽き果てました」

 この文をさらに、「未来口語訳」として、以下のごとく戯れの文にしました。
 「つうか、うちらのボディ、なにげにイクスキューズしちゃうってゆーか、はずいのパネェけど、やっぱ、テキトー書いて、キャリアっぽいこととかさぁ、チューボーんときのこととか?ウリやっちゃてクスリとかって買うのになれたかんね。(略)つうか、めんどい。もう、書くことねーし。」

 この「ギャル語訳」に、以下のようなコメントをいただきました。(byナタリー 2012-07-07 17:54:22 )
>まずは、未来口語翻訳がなされていることに驚きました。
 次には、その言葉が「口語」であると言うことを恐れました
 これが口語にはならないと信じたいですね。

 春庭の回答コメントは以下の通り
ナタリーさん (春庭) 2012-07-08 14:46:09
 この「未来口語訳」は、春庭が「現在、女子高校生(JK)や大学生がしゃべっている会話」をアレンジした自作の翻訳です。
 大学生に言わせると、「先生のギャル語は古い」ってことになり、現実のギャル語会話はもっとすんごいことになっているんじゃないかと想像しています。

 一般的な文章を今流行の話し方に変換する遊びは、橋本治の『桃尻語訳 枕草子』以来、何度となくさまざまなバージョンが出ています。

 今回芥川賞候補になった舞城王太郎の『阿修羅ガール』も、イマドキの女子高生の語り口を文体に採用して話題になりました。

 冒頭は、
「減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心。返せ。」
 「気持ちよくねえよ。いくねえよ。声なんか出ねえよ。出てもおめえに聞かせる声なんてねぇんだよ。入れて欲しくねぇんだよ。おめえのチビチンポなんて入れて欲しくもなんともねぇんだよ」と、続きます。

 いーですねぇ、このはっちゃけぶり。
 とは言え、阿修羅ガールは2003年の作ですから、10年前の女子高校生です。2012年のJK口語がどのようになっているか、最新JK口語文学を読んでみたいものです。

 さて、ナタリーさんが、
>これが口語にはならないと信じたいですね。

と、おっしゃる気持ちはわかりますが、私は、すでに口語になっているしゃべり方を採用したのであって、50年後には、これが通常のしゃべり方になっているだろうと思います。

 現在の私たちのしゃべり方は、「江戸期、山の手口語」に各種とりまぜた「近代言文一致口語」によってしゃべることになっていますが、平安時代の清少納言に言わせれば、どんでもない低レベルの日本語であり、「こんなしゃべり方をするなんて、世も末」と、怒りまくるにちがいない。

 近代文章語(今、私が読み書きしている日本語)は、あと50年は、文章世界では「書き言葉」として命脈を保つことでしょう。そして、50年たつうちには、新たな「言文一致」運動がはじまり、100年後には、上記の「ギャル語文章」が「正しく美しい日本語」とされるのです。

 では、阿修羅ガール語を、もうちょっと紹介します。三島由紀夫賞を受けた、舞城の出世作です。春庭の「いいかげんなギャル語訳」とちがって、ちゃんと文学賞を受けたギャル語ですので。

<『阿修羅ガール』より>
 私の素早い応戦にもマキが怯んだ様子はちっともなかったが、剣道とテニスで鍛えた私のムチムチの右足のスーパーキックがわりと効いたらしくて「いってーなこのビッチ~」とか言って足をさすってて、私はすかさず「うっせーなおめーに何の関係があんだよ!」と言いながら私はマキの頭を上からぐいと押さえ込んで体重乗せて屈ませてそこに右の膝を思い切り上げてうつぶせたマキの顔にガツン!と当てた。》

細くて背が高くてモデル体型で歩き方もカッコ良くてなんかいろんな事務所からスカウトされるのがウザくて原宿とか青山とか歩きたくない美人のマキは鼻血を流してトイレの入口で足を開いて体育座りしていてもなんだか映画の一シーンみたいにハマってる。》

私は黙った携帯を取って着信残ってたの消してからトートん中入れて、ブラつけてTシャツ替えてジーンズ穿いて髪まとめてクリップで留めて眼鏡かけて前髪下ろし眉毛隠してリップだけ塗ってトート持って外に出た。》

いってーなこのビッチ~」「うっせーな、おめーに何の関係があんだよ」という部分が10年前の女子高校生口語であります。

 のちほど、2012年最新版の女子高校生口語を紹介します。

口語 (ナタリー) 2012-07-08 17:10:25
「阿修羅ガール」は読んだんです。ちゃんと読めました。
「仲間内言葉」そんな理解だったのです。
あの言葉で「あの年代のあの年ごろ」を活写したものと。

私は「しゃべり言葉」=「口語」ではないと思っていました。
「口語」と言う言葉の使い方が間違っていました。
「これが普通の話し言葉にならないと信じたい」
です。これでよろしいでしょうか。
~~~~~~~~~~~~

 確認をしておくと、「口語」とは、言語学ではspoken language(音を媒介とする言語)を言います。明治の言文一致運動では、文語体(文語文)に対して、当時の日本語の話し言葉を文章語にしようという苦心があり、この文体を口語体と呼びました。夏目漱石らによって、「明治口語体=近代文章語」が確立したのち、口語(しゃべり言葉)はさらに変化をとげ、現代の若者ことば、若者同士の会話表現は、教科書や新聞雑誌に載る文章表現とはかけ離れてきています。

 では、いよいよ2012年板ギャル語を紹介。

<つづく>
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする