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ぽかぽか春庭「It それが見えたらおわり」

2018-05-24 00:00:01 | エッセイ、コラム


20180524
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>死ぬ前、死んだあと(3)Itそれが見えたら終わり

 今年になってから夫の飯田橋ギンレイ映画パスポートを使っていませんでした。パスポート貸してやるとき以外、妻に大きな顔ができない夫のために、「映画券を夫から借りてあげる思いやり」を発揮して4月29日日曜日、映画パスポート借りました。(おかえしにクッキーをあげました)

「It」はスティーヴン・キング原作小説の傑作ホラーだというので、ホラーはこわくてみることができない春庭としてはパスの予定でしたが、映画小僧まっき~さんからのおすすめにより観覧。
 
 以下ネタバレ含む感想です。
 『It それが見えたら終わり』は、S・キング原作(1986出版)のリメイク映画化(テレビドラマとして、前後編で制作され、全体では3時間)。
 2017年公開の映画、日本公開は2017年9月。半年過ぎてギンレイにかかりました。
 原作は、少年部分と大人部分が交互に出てくる構成らしいですが、映画は、少年部分が第1章、大人部分が第2章となります。大人部分の映画化は、2019年9月にアメリカから公開されるそうです。

 絶対怖いという予防線を張りながらだったので、ピエロのペニーワイズの見かけはこわかったけれど、それ以外のシーンは「スタンドバイミー」のホラー版と思えるので、少年少女の頑張り具合がよかったです。ジュブナイル映画として成功していると思いました。
 Penny wiseというピエロ。直訳すると「一文惜しみ」となるので、けちけちやってるとなる妖怪なのか。貧乏性の私は要注意です。

 ギンレイ入り口で待っているときのこと。この映画がR-15+指定であることを知らなかった親子3人が、丁重にお引き取り願われていました。父親は「R-15+というのは、15歳以下の場合、親がついていればOK」の映画と思ったみたい。小学生の坊や、残念そうでしたが入場かないませんでした。

 私はこどものころお化け映画が大嫌いで、みながお化け映画を見に行った時、ひとりだけ違う映画をえらびました。私が見たのは『白鷺』という映画で、内容がほとんど理解できなかった、という思い出。きっとこの小学生坊やはホラーに強い子だったのでしょうが、R-+15にして思いっきりホラーにしたのでヒットにつながった、という面もあるでしょう。

 ジュブナイルですから、少年たちの冒険があり、少年少女の友情と「親からの脱出」が基本テーマです。「負け犬クラブ(LOSERS)」と書かれた文字。ひと文字かえてSをVにすると「LOVERS」になるってところがミソ。(腕の包帯に落書きされた文字)


 Losers負け犬7人組



右から
・リッチー:厚底メガネの少年。グループの中ではおどけ者、ピエロ的にふるまう。特にトラウマを持たずに育ったけれど、負け犬クラブのメンバーに現れるピエロを恐怖するようになる。それは自分自身のおどけ体質の内面への恐怖でもある。

・ベン:ふとっちょの転校生。いじめられっ子だったため、負け犬クラブの一員へ。よく本を読み、町の歴史にも詳しい。デリーの町の大人たちが子供に無関心であることを見抜き、その無関心を恐れています。

・ビル:吃音者。幼い弟ジョージ―が行方不明になったのは、弟といっしょに遊んでやらなかったせいと自分を責めています。ビルは弟の死を受け入れられず、弟を探し続けています。ビルはジョージーの死が確定してしまうことを恐れ、彼が死んだとされる地下に広がる黒い水を恐れています。次男の死の悲しみから抜け出せないでいる両親。とくに父親からの関心がまったくビルに向けられていません。

・マイク:両親は火事のため死去し、育ててくれている祖父の家畜業に従事させられています。祖父の方針で学校へ行かせてもらえない黒人少年。両親を救えなかったトラウマを持ち、火がこわい。

・エディ:適正体重維持超ご不自由な母親を持つ。エディ母は、代理ミュンヒハウゼン症候群らしく、息子を喘息持ちとしておきたい。息子に偽薬を処方させており、病気を恐れるようにしつけています。エディは病気になることをおそれて潔癖症気味。肉体がボロボロになるゾンビ姿を恐れています。

・スタンリー:厳格なユダヤ教司祭を父に持っていますが、宗教にまだなじめない部分があります。父親の飾る絵が怖い。この絵は、父親&宗教への違和感の表れと思います。具体的にはユダヤ教の儀式割礼を恐れている。割礼は清潔を保つという理由により男性器包皮の一部を切り取る儀礼ですが、スタンにとっては、去勢の不安と重なっています。
 一般的には、ユダヤ教徒は生まれてすぐに割礼をほどこされます。スタンは生まれてすぐに割礼を受けなかったのかしら。スタンが感じているのは、大人の男にさせられることへの恐怖なのか、父と同じになることへの恐怖なのか。

・べバリー:父親から性的虐待を受けて育つ。周囲の人からは不良娘という烙印を受けています。父に女として魅力的と感じさせる自分の髪を恐れ、成人した女性としての生理の血を恐れています。

 不良少年組
・ヘンリー:強圧的な警察官の父親を恐れており、そのはけ口として負け犬組をイジメ倒している。
・パトリック:原作では、動物虐待によって自分の強さを確認している行為がエスカレートしていく、と描かれているのだそうですが、映画ではヘンリーの腰ぎんちゃくのように描かれています。

 以上のように、登場する少年少女は、なんらかのトラウマを抱えており、それが恐怖心となって内面に溜まっています。ピエロペニーワイズはその恐怖心を味付けにして27年周期で現れ、幻覚によって子供をあやつり、子供の恐怖心を喰らう。

 ビルたちは、ペニーワイズの操る恐怖の正体を見破ることで、彼に負けない心を得ます。
 ビルは、地下の排水路でジョージ―の死を確信し「喪の心」を得ることができます。
 エディは、母から飲まされていたのが偽薬と知り、母の支配から抜け出そうとします。
 リッチーは、友だちといっしょに行動する勇気をもつことで、内面の恐怖に打ち勝ちます。
 ベバリーはペニーワイズが見せる幻想の父親に「正当防衛」として打ち勝ちます。ベバリーは、父親への恐怖から脱出した故に、友の助けで蘇生できます。
 ベンはベバリーへの恋心を自覚し、ベバリーを助けることで少年時代の恐怖心から抜け出します。

 不良組ヘンリーは、強権的な父に対抗し、ピエロの見せる幻想のテレビにそそのかされて、成長期男子の心理的「父殺し」を、現実に実行してしまう。(幻想だったのかもしれませんが、私には現実なのか幻想なのかわからなかった)

 ベバリー、ビルと仲間たちは、最後まで仲間として共にいることを誓います。
 映画の中の一番の恐怖は、こわい顔で現れるペニーワイズじゃなくて、町の子供に関心を持たない、あるいはゆがんだ愛で子供を支配している大人たちです。
 
 こわかったけれど、第2章も見てみようという気になりました。原作は映画よりもっとこわい、という評が多いので、原作読めそうにありません。

 おなじs・キングの『THE BODY(死体)スタンドバイミー』と比較されることが多いでしょうが、私にとっては、スタンドバイミーは永遠です。リバーラブだから。
 ビルを演じた子役は、これから青年期の俳優として育っていくでしょうが、リバー・フェニックスの魅力以上の少年役は、ない、と思います。

 ビル役のジェイデン・リーバハーは、「弟の死にトラウマを抱えた吃音少年」という難役をとても繊細に演じていました。しかし、リバー以上の少年は不世出。リバーの美しさは、彼が抱えていた「カルト教団の中で育ち、幼児期から特殊な性的環境で育った」というトラウマが醸し出す危うさを秘めています。23歳の死は、私とっては永遠の少年として定着したということ)

 続編It第2章、ペニーワイズ役でスカルスガルドの続投は決定らしい。少年ビルの大人バージョンは、ジェームズ・マカヴォイだそう。『ナルニア国物語ライオンと魔女』のタムナス役はとても良かったし、ジェイデン・リーバハーの「気が弱そうだけれど内面はしっかりしている」感じが共通しているので、いいんじゃないかしら。

タムナスのジェームズ・マカヴォイ


 ペニーワイズの正体とは。
 デリーの町が建設され人が住み始めるずっと前からそこにいて、今も居続けているなにか。なんだかわからないけれど。

 ペニーワイズに心をつかまれてしまえば、デリーの大人たちがそうであるように、他者に関心をもたず、心閉ざしてこもってしまう。ペニーワイズにつかまって浮かせられないようにするには、負け犬たちがそうしたように、仲間に心ひらくこと、いっしょに手をつなぐこと。死はつらいことだけれど、死をきちんと理解し、喪の心を分かち合うこと。

 死ぬ前の出来事も、死んだあとの出来事も、映画が描き出せる世界は無限大。
 
<おわり>
コメント (2)
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