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ぽかぽか春庭「慣用読みと誤読せろん or よろん」

2019-08-17 00:00:01 | エッセイ、コラム
20190817
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>感じる漢字(18)慣用読みと誤読よろんとせろん

 春庭コラムの中から、漢字について書いたものを再録しています。
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2005/02/03 (木)
ニッポニアニッポン語>みんなで間違えばこわくない・誤読→慣用読み③

 「世論」あなたは、せろん派ですか。よろん派ですか。
 
世論:よろん→せろん・・・は、何となく「せろん」の方が響きが好きなので、そう読んでいます。投稿者:m******** (2005 2/2 10:17)

 元の語は輿論(よろん)だったのに、「輿」の字が当用漢字になかったために代替漢字として「世論」が使われた。そのため「せろん」と読む人がふえ、今では「せろん」「よろん」両方が使われている。

 私は「世の中の論」という感じがすきだから「よろん」と言っているが、m*******さんはじめ、若い世代は「せろん」派が多くなる。こちらは「世間(せけん)の論」というニュアンスで受け取れる。

 元の「輿論」の「輿」は「人を乗せる輿(こし)」→「あらゆるものをのせる台、人をのせている大地」→「大地の上にのっている世間の人々、世の中」という意味なので、世の中でも世間でもどちらの受け止め方もできる。読み方としては「よろん」が元々の言い方だった。

 「せろん」のように読み方が変わったものも、それが広まれば定着する。「撒水さっすい→さんすい散水」「独擅場どくせんじょう→どくだんじょう独壇場」などのように、誤読に合わせた漢字のほうが優先的に使われるようにもなる。

 「総合初等教育研究所」2005/01/27発表の「小学生漢字読み書き習得状況調査」で、「子どもが苦手な字」として、誤読が多かった字があげてある。
「米作農家 べいさくのうか→こめさくのうか」「川下 かわしも→かわした」「戸外 こがい→とがい」など。
 誤記述の漢字。「こかげ 木かげ→小かげ」「らくがき 落書き→楽書き」など。

 私は、これらはあと30年して今の子どもたちが社会の中心世代になったら、「慣用読み」「慣用書き」として定着していくだろうと予測する。

 重箱読み湯桶読みがあるのだから「米作」が「べいさく」でなく「こめさく」でも、みんながそう読みたいのなら、定着する。「らくがき」するのが楽しい子どもたちは、「楽書き」と書き表わしていくだろう。

 変わりはじめた当初の誤読者は「今どきのワカゾーは、漢字ひとつ読めない。消耗(ショウコウ)をショウモウなどと読みおって、けしからん。嘆かわしい」と非難されただろう。今は「ショウモウ」と読んでも、当然とされる。
 「米作」を「こめさく」と読む人がおおくなれば、その読み方が定着していく。

 「楽書き」という書き方が生まれて定着していくかどうか、そのあと「落書き」のほうも残るかどうかは、後の世代にまかせるとしよう。

 「楽書き」って、なんだか楽しそうでいいなあ。決められた紙やノートに書くだけじゃなく、教科書のすみっこや机のうらなんかに、こっそり落書きをするのが、楽しいって子どもの気持ちが出ている。

 読み方の変化、最初は誤読だったものが慣用的に使われて、定着する。誤読自体はこれからも起こりうることだ。

 では、子どもたちの漢字読み書き能力が弱くなっている問題を、どうしたらよいのか。
 漢字文化は日本語言語文化にとって、大変重要なものだ。漢字文化をなくしてしまうことは、私たちのものの考え方感受性にまで影響が及ぶ。

 たいせつなことは、「こんな簡単な読み方をまちがえるなんて、なってない」「漢字書取りを強化しなければ」と憤るだけでは済まないってことだろう。ひとつの漢字を百回繰り返して書取りしても、子どもの心に残らなければ、それは手の運動になるだけで、漢字が身に付いたことにはならない。

 言語文化全体をみわたして、「ことばの学び」をどうしていくべきなのか、考えていくこと。現代の子どもたちをとりまく言語文化環境はあまりにも貧弱です。<続く>

<つづく>
コメント
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