
20190827
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>夫婦の映画(3)天才作家の妻40年目の真実
「彼が愛したケーキ職人」は、私には理解が及び難い面を持つ映画でしたが、「天才作家の妻40年目の真実」のほうは、わかりやすすぎて、ずっこけてしまう感あり。ストーリーは、タイトルから予測されるように、40年目には何か秘密が暴露されるんだろうと思ったものの、息子と父親の確執とか、予想通りにことが進んで予想通りに収まった。
監督:ビョルン・ルンゲ
出演:ジョーン・キャッスルマン=グレン・クローズ、
ジョセフ・キャッスルマン=ジョナサン・プライス、
デビッド・キャッスルマン=マックス・アイアンズ
ナサニエル・ボーン=クリスチャン・スレーター
以下、ネタバレを含むあらすじです。
現代文学の巨匠ジョゼフと夫を支え続けた妻ジョーンのもとに、結婚40年目にして、待望の電話が入りました。
待ちに待ったノーベル文学賞受賞の報せ。ふたりはベッドの上で大はしゃぎして授賞式出席準備を始めます。ふたりは駆け出し作家の息子を伴い、ストックホルムへ。
妻ジョーンは、夫を祝福するパーティに出るたびに違和感を感じます。夫が「妻は書かないから」と、スピーチしたとき、ブチ切れます。40年の歳月が走馬灯になってジョーンの中を駆け抜けます。はじめての出会いは、文学の教師と教え子という禁断の関係でした。
妻子あるジョゼフを、ジョーンが奪い取ることに成功したのは、ある技術をジョーンが持っていたからでした。
ジョセフは小説のアイデアやキャラクターを思いつくことにかけては天才でした。しかし、それを具現化する文体を持っていなかったのです。一方、ジョーンは天才的な文体を持っているのに、小説のアイデアが皆無。たったひとつ書くことができた小説は、ジョセフの前妻の悪口を書いたもののみ。
ジョセフの名で発表される小説は、妻の文章を得てのものだったけれど、ジョーンは黒子に徹してきました。女性が表に出ても批評家にこてんぱんにされるだけ、ということは、いやというほど身に染みていたのです。
ジョーンは、ジョセフをささえるけなげな妻であり、ジョセフの作品の黒子であることに満足しているはずでした。しかし、駆け出しの小説家である息子をジョセフがあまり褒めないことや、夫がノーベル文学受賞者となって、自分にはまったく光があたらない事実に、ジョーンはいらだちを感じてきます。受賞者スピーチパーティで、ついに「気分が悪いので」とホテルに帰ってしまいます。あとを追ってきた夫ジョセフは、ホテルでたいへんなことに、、、
共同制作者のどちらかが「独り立ちしたい」と考えると、殺人にまでなることは、「コロンボ」でもよくあった殺人事件の動機です。たいていは、才能のない方がイケメンで、マスコミ受けするので表に立ち、内気で人前に出られないさえない方が黒子になります。イケメンが黒子を殺した時もあり、黒子がイケメンを葬ったときも。
ジョセフとジョーンは、夫婦だから、40年間も秘密を守り通し、ノーベル文学賞までこぎつけました。それなのに、ジョーンは光が当たらない自分の立場にいらだってくる。私はね、「そりゃないよ、奥さん」と思う。
最初から「共同執筆者であること」を前面に押し出して批評に耐えるか、最後まで「ノーベル文学賞受賞者のよき妻」として自分を抑えるかのどちらかでしょう。受賞したとたんに耐えられなくなるなんて、それは遅すぎ。
しかし、思いがけないできごとで、ジョーンは「よき妻」の立場を守らざるを得なくなります。
多分、数年後には、ジョーンには執筆の機会が山のようにやってくることでしょう。「ジョセフの思い出」なんぞを雑誌や本に書きたて、次は息子を売り出すためにやっきとなると予想されます。
秘密を抱えつづける夫婦。それも愛情の表現のひとつでしょうけれど、コロンボじゃないから、共同制作の黒子のほうが事件を起こすことはなかった。めでたし、、、、なのか。
<つづく>