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ぽかぽか春庭「日本語の数え方はどこから来たの?」

2019-08-03 00:00:01 | エッセイ、コラム
20190803
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>再録感じる漢字(13)日本語の数え方はどこから来たの?


 春庭過去ログから、漢字についてのコラムを再録しています。
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2006/06/29 木
ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語ってどんな言語?まずは発音から(48)イッチ、ニー、サン、数え方の発音はどこから?」

 中国は広い。方言差が大きいです。
 中国語標準語は、北方方言(華北、東北地方など)である北京語が中心。そのほか、大きく7つの方言区域があり、それぞれが細かい方言に別れています。

 中国語をひとつのまとまりとして、上海や香港のことばを「方言」と呼ぶなら、それをヨーロッパにあてはめると、ロマンス語というまとまりの「フランス方言、イタリア方言、スペイン方言、ポルトガル方言」という言い方をすることになります。
 スペイン語とポルトガル語の差は、北京語と広東語の差よりずっと小さいです。
(中国全土では、音声言語としての差は大きくても、中国語には漢字表記と言う強力な統一言語があるので、どの発音をしても文字表記の上では同一言語。各地方の方言全体が中国語として認識されている)

 方言分類。
 呉方言(上海語など)、ビン(ミン)方言(福建語)(ビンの文字は門構えの中に虫を書く)
 粤(えつ)方言(広東語)
 湘方言(長沙語など、湖南省四川省の一部など)。

 カン方言(南昌語など)は漢民族人口の2.4%で、七大方言では最も少ないが、それでも2000万人が使用している言語なので、印欧語のなかのひとつの言語と比べれば、使用人数がずっと多い。

  客家方言(客家語)は、中国南部の方言ですが、華僑としてアジア各地に新出した人々の母語ともなっているので、海外での使用人数は一番多い。中国国内4500万人、海外1000万人。
 客家語が使われる地域は、日本へ唐宋音が伝わった「宋」の地域なので、音読みの唐宋音は、客家語に近い。たとえば、「行」の日本語唐音は「アン」で、客家語は「ハン」。

 方言を話す地方の出身の人は自分たちの母語と北京標準語の違いをよく知っていますが、北京標準語や北方方言の話者は、方言との差をよく知らない人も多い。

 アジアからの留学生が多いクラスでのこと。
 先週(2006年6月)の授業で、上海出身の学生に、数の数え方を言ってもらったところ、「へぇ、ほんとに北京とちがうんだね」と、方言と標準語の差をはじめて耳にした中国人もいました。

 上海出身の学生も、中国人同士で話すときは北京標準語に切り替えますから、クラス内で知り合っても、中国人同士で方言を披露しあうことなどなかったようです。

 日本人でも、「東京の人と話すときは、方言が飛び出さないように、気をつけて話す」という人が、かっては多かったです。方言に引け目を感じさせる世相だったからでしょう。

 漢語普通話(ハンユェ・プートンファ北京標準語)と上海語(シャンハイユェ)を比べてみましょう。
 そもそも、上海(シャンハイ)という言い方は、北京の発音です。本場シャンハイの上海語では、上海を「サンヘ(声調は上昇)」と発音しています。

 日本語での数の数え方の発音。「一 二 三 四 五 六 七 八 九 十 イチ ニ サン シ ゴ ロク シチ ハチ ク ジゥ」
 早い時代に日本へ入ってきた語で、すべて呉音で発音していました。
 漢数字を漢音で読むと「イツ、ジ、サン、シ、ゴ、リク、シツ、ハツ、キュウ、ジュウ」です。

 上海語は、中国南方の「呉方言=呉語」のひとつ。呉語は、日本語の呉音のもとになった発音に近い部分があり、日本人にとって、北京語発音よりなじみやすいそうです。

 数の数え方、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10 を四声を無視してカタカナ書きしてみると、
漢語 (北京標準語)yi er san si wu liu qi ba qiu shi  イー、アル、サン、シー、ウー、リゥ、チー、バー、ジゥ、シィ
 上海語 yet lian / nie se si ng rot cet bat qiu sa/ser  イッ、ニー、セ、スゥ、ン(ng)、ロッ、チェッ、パッ、チゥ、サ

 カタカナ書きでみただけですが、上海語のほうが、日本語に入った中国由来の数え方、呉音の「イチ、ニー、サン、シー、ゴー、ロク~」に近いことが感じられます。

<つづく>

2006/06/30 金
ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語ってどんな言語?まずは発音から(49)みかもよかもかこへいた

 中国語のさまざまな方言。漢字で文章をかけば、同じになりますが、発音はそれぞれの地方ごとに異なります。
 ほとんどの地方で、中等教育以上では北京標準語(漢語)が使われ、中国全土を旅行しても北京語で間に合う都市が多いので、標準語話者は、他の地方の言語にあまり関心を持たないようです。

 私も、方言による差を知るまで、北京標準語と日本語のつながりを中心に考えていたので、「日本語の歴史をみれば、促音の発音は、もともと日本語にない発音だった。漢語から促音の発音が入ってきたというのに、なぜ、促音ができない中国人が多いのだろう」と、思いました。

 (促音、ひらがなで書くときは、小さい「っ」。次の音を発音する構えのまま、一拍分待つ。日本語ではひとつのモーラをなしており、特殊拍として音節のひとつである)

 現代の中国語発音と、漢字が日本へ伝えられたころの古代中国語発音の違いが大きいこと。
 日本に伝わった古代中国語の発音が、南方を中心に広がっていること。
 この二つについて知ると、中国語母語話者といっても、方言差によって、苦手な発音が異なること、納得できました。
 
 日本語の促音は、もともとは大和言葉にない発音で、中国から漢語語彙が流入したのちに、日本語に入ってきた発音です。平安時代にはこの促音の表記法がなかったので、「日記にっき」も、ただ「にき」と平仮名で書きました。

 中国南方方言の人は、促音「っ」を母語としてい発音しているので、日本語の促音「っ」の発音もOK。
 広東語など、南方方言には促音があります(広東語には促音が三種類あるそうです)

 しかし、促音「っ」の発音を使わない地方の人にとっては、促音が難しい。
 母語に促音を使っていなかった人、最初は「三日も四日も学校へ行った」が、「みかもよかもかこへいた」となりますが、練習して慣れてくれば大丈夫。

 私は、中国東北部に赴任し半年間滞在したので、東北地方の人に親近感があります。
 中国東北地方の人たち、日本語学習をはじめると、いろいろ苦手な発音があるようです。

 奥様の日本語習得に熱心なk*****さんからのコメントです。
 k*****さんの奥さん、中国東北部の出身なので、促音が苦手だそうです。


 『 其れはそうと、行って、帰って、とかの詰まる言葉が、いまだに確り発音が出来ていません。留学生も同様です。中国人にとっては難しいのですね。(2006 5/12 12:1)
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20190803
 母語の発音はいったん定着すると、他の種類の発音は難しくなります。私は喉をふるわすRの発音ができずにフランス語をあきらめましたし、四声の聞き分けができず、中国語は文字(漢字)で意味がわかればいいや、と開き直りました。私と同様に英語のRとLの聞き分けができず、右rightも明かりlightも同じに聞こえる人がほとんどだと思います。ごはんも虱もライス。

 漢字の伝来で、大和言葉にはなかった濁音(有声音)と促音「小さいっ」のつまる音、日本語唯一の子音のみの音節である撥音「ん」が日本語に入り、発音は多種類になりました。古事記や日本書紀のころは、「ん」の発音ができず、表記のひらがなもなかったので、「王仁ワンニン」さんを書き表すのに「和邇ワニ」と書きました。

 和邇は、日本に漢字を伝えたという伝説上の人物です。応神天皇の時代に千字文を伝えたと「古事記」「日本書紀」に書かれていますが、残念ながら、応神天皇の時代には千字文は成立していませんでした。
 おそらくは、南朝・梁 (502–549) の武帝が、文官の周興嗣 (470–521) に文章を作らせた千字文成立後の伝来だったのでしょうが、なんでも古い時代に仮託したい古事記日本書紀の筆者(あるいは天武天皇)が応神天皇(3世紀ごろ)の時代としたのでしょう。

 それにしても、漢字伝来は、日本文化にとって大きな出来事でした。文字表記を知らなかった日本に漢字を伝えたワニさん、ありがとう。
 漢字からかなを作り上げたご先祖さんもありがとう。

 伝説ではありますが、王仁が作ったとされる和歌
 難波津に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花(古今和歌集)

 百人一首のかるた取りをするときに、最初の発声として詠まれています。

<つづく>
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