20190822
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>再録・感じる漢字(19)楽しい漢字
春庭コラムの中、漢字に関するものを再録しています。
~~~~~~~~~~~~~
2006/06/25 日
ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語ってどんな言語?まずは発音から(45)らくに楽しく易易楽々
「令和」の「令」のほか、転注文字の例をもうひとつご紹介。
「楽しい」の音読みは、漢音は「ラク」「ガク」。呉音は「ギョウ」
一般の熟語では漢音を用い、仏教用語などでは、呉音の「ギョウ」と読む場合もあります。
旧字「樂」の元々の意味は、楽器を表わしていました。
転注して「たのしい」「らく」「たやすい」の意味を持つようになりました。
「樂」下部の「木」、樂の場合は、くぬぎの木です。くぬぎの実は「どんぐり」です。
「樂」の上の「白」は、もともとはドングリの実の白い部分を意味していました。
旧字「樂」上部の「糸」の上半分の「幺」は繭玉。まゆ玉のような櫟の実、木の上にどんぐりがふたつ並んでいます。
熟したくぬぎの実ドングリを椀や箱にいれて振ると「カラカラ」と音がします。今でいうマラカスですね。このように「振ると音の出る楽器」、鈴のような楽器を「楽」で表わしました。
古代には、さまざまな音のでるものを神事につかいました。この「どんぐりマラカス」も神事の楽器だったのでしょう。
「樂」は「カラカラと音が鳴る物」から、「音が出る楽器」を意味し、楽器全般を表わすようになりました。そして「楽器」から「音楽全般」を表わす文字になりました。
「楽人」「楽隊」「楽団」「楽曲」など、「音楽」の意味で「楽」がつかわれている熟語です。
楽器をならして音楽を奏でると、たのしい気持ちになります。苦しい心がいやされて、らくな気分になります。それで、楽器を意味する「楽」が、「たのしい」「らくな」という意味をもつようになりました。
「安楽」「気楽」「道楽」「娯楽」
「らく」に物事ができること、「たやすい」の意味では、「楽勝」「易易楽々」
呉音は、奈良時代以前に日本へ入ってきた漢字音。中国の南方「呉国」があったあたりの発音が百済を通って、日本へ輸入されました。
遣隋使遣唐使が直接中国へ出かけるようになってからは、都の長安(現在の西安)のあたりの発音「漢音」が主流派となりました。
しかしすでに日本で定着していた呉音のことばも多く、仏教用語を中心として、呉音が残っています。
文部科学省の常用漢字表の音読みに、「樂」の呉音「ギョウ」は含まれていないので、現代日本語の語彙としての使用例は稀です。
2006/06/26 月
ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語ってどんな言語?まずは発音から(46)ロボットが奏でる音楽は楽しい
「楽」の呉音「ギョウ(旧かなづかいではゲウ)」の意味は、「このむ、願い求める」「もとめてやまない欲」。
「楽欲(ギョウヨク)=願い求めること」「愛楽(アイギョウ)=仏法を信じ願い求めること・このんで求めること」
「愛楽」の用例。
天神様、菅原道真の『菅家後集』には、「欲望」の意味で「愛楽」が使われています。
『 微々に愛楽を抛つ(なげうつ)=すこしずつ欲望を投げ捨てる 』(岩波古語辞典)
「このむ」の意味での用例。徒然草134段から。
『 すべて、人に愛楽せられずして衆に交はるは恥なり=愛され好かれてもいないのに人前に出ることは、恥ずかしいことだ』(吉田兼好 徒然草134段)
吉田兼好さんの時代には「愛楽アイギョウ」という語が日常つかわれていたのでしょうか。それとも「ちょっと難しい語を使って、学あるところをみせびらかしてやろう」と思ったのやら。
楽器→音楽→楽しい→らくな→たやすい。このように、ひとつの漢字の意味が他の意味に転化されていくのが転注です。
中国からやってきた漢字「樂」に、「ガク」「ラク」という発音があったので、「がく」「らく」という音読みをとりいれました。
「たのしい」という意味が含まれていたので、日本語での訓読みは、「たのしい」と読むことにしました。
漢字学習が進んで500字くらい覚えた中級クラスの留学生に「好きな漢字を一字ずつ発表しましょう。なぜ、その字が好きなのか、理由も言ってね」と、課題を出すと、思い思いに好きな漢字を出してきます。
「青、すきな色です」「愛、Loveを意味するので」「人、最初に覚えた文字だから」など、わかりやすい発表が続いたなかで、ロボット工学を専攻する学生が「楽」といいました。
「好きな理由は何かな。楽しいことが好きなのだろうな、それとも音楽好きなのかな」と推測しました。
意外にも、この字が好きな理由は。
「この文字の形は、ロボットにみえます。アンテナをつけて、歩き回っているロボットのようです」
おお、非漢字圏の学生に、楽の字のかたちがそんなふうに見えたのか、と、私も楽しくなりました。


~~~~~~~~~~~~~
20190822
春庭アーカイブを行ったりきたりしながら、漢字について書き留めたものを再録してきました。漢字について特に興味を持たない方はすっとばしてきたと思いますが、再録して読み直すのは、「あれ、こんなことも書いていたのか」と、なつかしくもあり再発見もあります。
一か月以上、再録で過ごしたということは、よんどころない事情が重なったためでもありますが、、、、、
この夏、がんばって60代最後の日々を過ごしていきます。
とりあえず、ダンスの振り付けを覚えなくちゃ。今年の曲は「コーヒールンバ」とダイアナ・ロスの「スエプタウェイ」
Diana Ross「Swept away」
https://www.youtube.com/watch?v=nsrrwJUZau8
スエプタウェイのダンス、「楽しい」です。「楽」の元の意味のように、カラカラドンドンと打楽器が鳴って、ミサイルママの動きはダイアナロスのよう。春庭の動きは、留学生が「楽」見て感じたように、ロボットみたい。転注だから、意味が変わっていてもいいの。
<おわり>
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>再録・感じる漢字(19)楽しい漢字
春庭コラムの中、漢字に関するものを再録しています。
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2006/06/25 日
ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語ってどんな言語?まずは発音から(45)らくに楽しく易易楽々
「令和」の「令」のほか、転注文字の例をもうひとつご紹介。
「楽しい」の音読みは、漢音は「ラク」「ガク」。呉音は「ギョウ」
一般の熟語では漢音を用い、仏教用語などでは、呉音の「ギョウ」と読む場合もあります。
旧字「樂」の元々の意味は、楽器を表わしていました。
転注して「たのしい」「らく」「たやすい」の意味を持つようになりました。
「樂」下部の「木」、樂の場合は、くぬぎの木です。くぬぎの実は「どんぐり」です。
「樂」の上の「白」は、もともとはドングリの実の白い部分を意味していました。
旧字「樂」上部の「糸」の上半分の「幺」は繭玉。まゆ玉のような櫟の実、木の上にどんぐりがふたつ並んでいます。
熟したくぬぎの実ドングリを椀や箱にいれて振ると「カラカラ」と音がします。今でいうマラカスですね。このように「振ると音の出る楽器」、鈴のような楽器を「楽」で表わしました。
古代には、さまざまな音のでるものを神事につかいました。この「どんぐりマラカス」も神事の楽器だったのでしょう。
「樂」は「カラカラと音が鳴る物」から、「音が出る楽器」を意味し、楽器全般を表わすようになりました。そして「楽器」から「音楽全般」を表わす文字になりました。
「楽人」「楽隊」「楽団」「楽曲」など、「音楽」の意味で「楽」がつかわれている熟語です。
楽器をならして音楽を奏でると、たのしい気持ちになります。苦しい心がいやされて、らくな気分になります。それで、楽器を意味する「楽」が、「たのしい」「らくな」という意味をもつようになりました。
「安楽」「気楽」「道楽」「娯楽」
「らく」に物事ができること、「たやすい」の意味では、「楽勝」「易易楽々」
呉音は、奈良時代以前に日本へ入ってきた漢字音。中国の南方「呉国」があったあたりの発音が百済を通って、日本へ輸入されました。
遣隋使遣唐使が直接中国へ出かけるようになってからは、都の長安(現在の西安)のあたりの発音「漢音」が主流派となりました。
しかしすでに日本で定着していた呉音のことばも多く、仏教用語を中心として、呉音が残っています。
文部科学省の常用漢字表の音読みに、「樂」の呉音「ギョウ」は含まれていないので、現代日本語の語彙としての使用例は稀です。
2006/06/26 月
ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語ってどんな言語?まずは発音から(46)ロボットが奏でる音楽は楽しい
「楽」の呉音「ギョウ(旧かなづかいではゲウ)」の意味は、「このむ、願い求める」「もとめてやまない欲」。
「楽欲(ギョウヨク)=願い求めること」「愛楽(アイギョウ)=仏法を信じ願い求めること・このんで求めること」
「愛楽」の用例。
天神様、菅原道真の『菅家後集』には、「欲望」の意味で「愛楽」が使われています。
『 微々に愛楽を抛つ(なげうつ)=すこしずつ欲望を投げ捨てる 』(岩波古語辞典)
「このむ」の意味での用例。徒然草134段から。
『 すべて、人に愛楽せられずして衆に交はるは恥なり=愛され好かれてもいないのに人前に出ることは、恥ずかしいことだ』(吉田兼好 徒然草134段)
吉田兼好さんの時代には「愛楽アイギョウ」という語が日常つかわれていたのでしょうか。それとも「ちょっと難しい語を使って、学あるところをみせびらかしてやろう」と思ったのやら。
楽器→音楽→楽しい→らくな→たやすい。このように、ひとつの漢字の意味が他の意味に転化されていくのが転注です。
中国からやってきた漢字「樂」に、「ガク」「ラク」という発音があったので、「がく」「らく」という音読みをとりいれました。
「たのしい」という意味が含まれていたので、日本語での訓読みは、「たのしい」と読むことにしました。
漢字学習が進んで500字くらい覚えた中級クラスの留学生に「好きな漢字を一字ずつ発表しましょう。なぜ、その字が好きなのか、理由も言ってね」と、課題を出すと、思い思いに好きな漢字を出してきます。
「青、すきな色です」「愛、Loveを意味するので」「人、最初に覚えた文字だから」など、わかりやすい発表が続いたなかで、ロボット工学を専攻する学生が「楽」といいました。
「好きな理由は何かな。楽しいことが好きなのだろうな、それとも音楽好きなのかな」と推測しました。
意外にも、この字が好きな理由は。
「この文字の形は、ロボットにみえます。アンテナをつけて、歩き回っているロボットのようです」
おお、非漢字圏の学生に、楽の字のかたちがそんなふうに見えたのか、と、私も楽しくなりました。


~~~~~~~~~~~~~
20190822
春庭アーカイブを行ったりきたりしながら、漢字について書き留めたものを再録してきました。漢字について特に興味を持たない方はすっとばしてきたと思いますが、再録して読み直すのは、「あれ、こんなことも書いていたのか」と、なつかしくもあり再発見もあります。
一か月以上、再録で過ごしたということは、よんどころない事情が重なったためでもありますが、、、、、
この夏、がんばって60代最後の日々を過ごしていきます。
とりあえず、ダンスの振り付けを覚えなくちゃ。今年の曲は「コーヒールンバ」とダイアナ・ロスの「スエプタウェイ」
Diana Ross「Swept away」
https://www.youtube.com/watch?v=nsrrwJUZau8
スエプタウェイのダンス、「楽しい」です。「楽」の元の意味のように、カラカラドンドンと打楽器が鳴って、ミサイルママの動きはダイアナロスのよう。春庭の動きは、留学生が「楽」見て感じたように、ロボットみたい。転注だから、意味が変わっていてもいいの。
<おわり>