
20190829
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>夫婦の映画(4)マーガレットサッチャー鉄の女の涙
イギリスのブレグジット(英のEU離脱)問題でテリーザ・メイ首相が5月24日、保守党党首の辞任を表明しました。う~ん、メイさんは鉄の女にはなれなかったってことだなあ、と思ったら、「マーガレットサッチャー鉄の女の涙」を思い出しました。原題IronLady
サッチャー(1925-2013)を演じるとしたら、その強さを体現できるのはメリル・ストリープだろうと、大方の人が感じたと思うけれど、その通りのぴったんこの熱演でした。
内容はどうあれ、メリルの独り勝ち映画、みたいな。2012年2月、第84回アカデミー賞において主演女優賞を受賞。
2012年9月に飯田橋ギンレイホールで鑑賞。テレビ放映の録画で再鑑賞。
監督:フィリダ・ロイド
マーガレット・サッチャー =メリル・ストリープ
若き日のマーガレット=アレクサンドラ・ローチ
デニス・サッチャー=ジム・ブロードベント
若き日のデニス=ハリー・ロイド
キャロル・サッチャー=オリヴィア・コールマン
ゴードン・リース=ロジャー・アラム
認知症をわずらった晩年のサッチャーと壮年の働き盛り、若いころの思い出のマーガレット、3つの時代がくるくると出てきます。
1975-1990の首相在任時代が主なシーンになりますが、1959年に下院議員初当選をはたす若い時代も、描かれます。マーガレットが選んだ夫は10歳年上のデニス・サッチャー(2015-2003)
首相時代はフォークランド紛争をとりしきり、鉄の女と呼ばれました。高福祉社会を転換させ、新自由主義と呼ばれるサッチャリズムを敢行してイギリス経済復興を優先させました。
現実のサッチャーは、政界引退後2000年ごろから認知症を患いだし、亡くなる2013年には、彼女を支え続けた夫が10年前にすでに死んでいることも分からなくなっていた、という娘キャロルの証言があります。
女性監督F・ロイドは、「家庭人マーガレット」の方に重きを置いているような描き方です。
若いころのマーガレットは、選挙に出て落選し、「ティカップを洗っているだけで満足するような女にはなりたくない」と、10歳年上の実業家デニスに言う。
デニスのプロポーズのことばが、「実力ある実業家の私と結婚すれば、若くて実力のない君も選挙で勝てる」だったそうです。デニスは「家庭的なことはできない」というマーガレットを支える夫に徹します。
マーガレットは政界引退後、夫を失います。夫は、ほんとうに自分のような家庭向きではない女と生涯をともにして幸福だったのだろうか、と自問しながら、ひとりティーカップを洗います。
メリル・ストリープの役作りリサーチによると、サッチャー家には常雇いのコックがおらず、忙しい合間をぬって、マーガレット自身が家族のために料理をしていたし、来客にも手料理をふるまったのだそうです。
マーガレットは、家庭生活に専念はできなかったし、手抜きも必要だったろうけれど、デニスは妻を支える人生を嫌がってはいなかったと思います。
デニスは、平凡な妻と平凡で幸福な家庭を手に入れたかったのなら、そうできたはず。そうしたら、デニス程度の実業家が世界の人に知られることはまずなかったろう。デニスはイギリス初の女性首相を支える人生を選んだのです。
双子の娘と息子。キャロルは幼いころから寄宿舎女学校へ入れられて育ちます。イギリスの上流階級では、それは特別なことじゃない。娘キャロルはロンドン大学卒業後、ジャーナリストとして自立しました。晩年の母を支える娘として映画に登場します。
息子マークは映画には登場しません。なぜなら。
息子マークは、貴族子弟や財閥ぼっちゃまが入学するイートン校の寄宿学校に入りますが、ドロップアウト。典型的なドラ息子に育ち、カーレーサーをしたりアフリカでフィクサーごっこをしたり。母の名声の遺産で食ってく、みたいな人生。そういうのもよくあるこっちゃだけど。
母の名声のおかげでアメリカ人の美人金持ち女性と結婚でき、離婚したけれど、授かった娘は美人に育ち、祖母の葬儀には聖書朗読係を務めました。
政治的に辣腕を振るった母の伝記映画、マークにとっては「ほんとの母はこんなんじゃない」と言いたいみたいですが、息子と娘にとっては、晩年の認知症になった母こそがようやく身近な母親らしい母になったのかもしれません。
世の中、さまざまな夫婦がいます。政治の世界に生き、家庭は二の次になる女性もいるだろうし、奔放な恋に溺れ続ける妻もいる。樹木希林と内田裕也のように40年間別居生活という夫婦もいるし、金の切れ目が縁の切れ目になる夫婦もいます。
映画に出てくる夫婦もいろいろですが、自分のことは棚に上げて、よそ様の夫婦をあれこれ言うのも野次馬の楽しみ。
今はね、新婚のミサイルママとジンさんの仲良しぶりを「いいなあ」と指をくわえてうらやみつつ、我がショーもない38年間の生活を振り返る日々。まもなく古希だからね。
<おわり>