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ぽかぽか春庭「ジュディ虹の彼方へ」

2020-11-14 00:00:01 | エッセイ、コラム


20201126
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>2020虹のかなたに(4)ジュディ虹の彼方に

 ♪虹のかなた、どこか遠く、幸せの国があるという
  子守歌で聞いたその国へ 青空高く 超えていく
 
 1939年にこの歌を歌って人気絶頂となった少女は、1960年代後半、マネジャーも雇えない「落ち目の歌手」として幼い娘と息子も舞台にあげてドサ周りを続けています。家賃も払うことができなくなり、娘と息子は離婚した夫がひきとることに。
 ジュディの子役時代のエピソードが挟み込まれる形で、最晩年のジュディ・ガーランドが描かれます。

 晩年のジュディが薬物依存から抜け出せなかったのは、なぜか。
 13歳の子役が肥満体質であることを危惧した映画会社MGMが、社長命令としてアンフェタミンを飲ませ続けたことからはじまっています。アンフェタミンは覚せい剤の一種でしたが、当時のハリウッドでは、ダイエット効果があるとされていたのです。幼いジュディは、命じられるままに毎日薬を飲み続けました。

 ジュディ・ガーランド(1922 -1969)は、1941年に作曲家のデヴィッド・ローズと結婚、まもなく離婚。1945年には映画監督ヴィンセント・ミネりと結婚し、1946年に娘ライザをもうけます。
 しかし、薬物中毒により心身痛めつけらえたジュディは入退院や自殺未遂を繰り返し、人気は下降していきました。

 何度か映画での復活はあったものの、1960年代後半には、先に記したように3度目の夫との間に設けた娘息子も父親の元で暮らすことを余儀なくされます。愛してやまない子供たちなのに、お金がないために奪われる。やりきれない思いの母に、世間は「やっぱり母親としての」役目は果たせない女なのだ」と、追い打ちをかけます。

 そんなおり、ロンドン公演の話が舞い込み、ジュディはロンドンへやってきます。映画は、このロンドンでの復活公演と47歳という年齢での死去を描いています。
 ロンドンで年下の男性と5回目の結婚をしますが、相手の、ミッキー・ディーンズは彼女を支えることはできませんでした。エディット・ピアフの晩年を支えた20歳年下の夫は、エディットの死後も彼女の名声を守り続けました。あっさりとジュディから離れてしまうミッキーを見て、彼がもっとジュディを支えてあげれば、再復活もできたのに、と、残念に思ってしまいます。

 監督:ルパート・グールド
 ジュディ:レネー・ゼルウィガー 

 吹き替え無しで、全曲レネーの歌声であることも評価され、レネーは92回アカデミー賞の主演女優賞を獲得。

 何度も見てきた『オズの魔法使い』
 ジュディはひたすらけなげでかわいらしく、歌がうまい。まさか、肥満防止のためにアンフェタミンという覚せい剤を飲まされ続けていたとは、今作を見るまで私は知りませんでした。
 晩年の彼女について、長年のわがまま気ままな生活の乱れのために人気が下降し、薬物接種により死去した、という表面的な伝記しか知らなったのです。

 「オズの魔法使い」


 ジュディがロンドン公演を成功させたとき、イギリスで暮らす男性カップルがジュディを自宅での食事にさそいます。同性愛が犯罪とされてきたイギリスではゲイとして生きるのは、とてもつらいこと。ゲイであるために、投獄されたことさえあるのです。しかし、ジュディの歌がふたりを支えました。自分の歌がだれかの人生の支えになりうることが、ジュディにもわかりました。
 ジュディはLGBTの人々に偏見を持たない人であることが、このカップルをはじめ多くのつらい人生を送ってきた人たちに届いていました。現在、LGBTのシンボルカラーが「虹色」であるのは、ジュディの「虹のかなたに」へのオマージュでもあるのです。 

 レネーの演技はすばらしく「超新星のように最晩年に輝いて命を終えた大女優」の悩み悲しみ、歌への情熱を演じていました。歌がうまいのはもちろんですが、落ちぶれて涙するときも、歌い上げるときの高揚感も、心の襞の表現が伝わりました。
 
 「オズ」の国は夢の中の王国です。オズ国の旅のなかで冒険を重ねて少女が成長できたように、少女ジュディが成長出来たらよかったですが、ハリウッド王国はセクハラやら薬物やらの王国で、少女の成長はゆがめられてしまいました。46歳での早すぎる死は惜しまれますが、人々の心の中にジュディは虹をかけ、皆が虹を追いかけている。

 「オズ」シリーズの原作者ライマン・フランク・ボーム(1856-1919)が1900年に出版してから100年を超え、原作は著作権が消滅しパブリックドメインになっています。何度も映画やミュージカルでリメイクされていますが、どの作も原作を塗り替えてしまったりはしていません。それだけ原作の力が大きいともいえるし、1939年のジュディ・ガーランドが演じたドロシーが、第2次世界大戦中の苦難と戦後の復興期を「虹のかなたに」の歌によって人々を励まし続けたという「魔法」の物語をみながしっかり共有してきたからこそだと思います。
 帰る家が見つからないドロシーと犬のトト、考える頭のないカカシ。勇気のないライオン、心がからっぽなブリキ男。そんな行き場のない仲間たちが、助け合い励ましあうことで居場所を得ていく物語。
 ジュディの魂が今は居場所を得てレインボーフラッグが振られている場所を見つめてくれてうと思います。

<つづく>
コメント (2)
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