
20201128
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>2020虹のかなたに(4)ジョジョ・ラビット
少女の成長物語を追いかけてきた今回のシリーズですが、今回は少年の成長物語、壁のすきまにかくまわれているユダヤ人少女の成長物語でもあります。
『ジョジョ・ラビット』を娘といっしょに見ることにしたのは、「戦争の時代をコメディタッチで描いた笑える映画」というふれこみがあったからです。戦争シーンは大嫌いな私と娘ですが、笑える映画ならいいかとみることにしたのです。
第92回アカデミー賞では作品賞を含む6部門(作品、助演女優、脚色、編集、美術、衣装デザイン)にノミネートされ、うちアカデミー脚色賞を受賞。
監督・脚色:タイカ・ワイティティ
ヨハネス・"ジョジョ"・ベッツラー: ローマン・グリフィン・デイヴィス - 10歳の少年
エルサ・コール: トーマシン・マッケンジー - ユダヤ人の少女。
ロージー・ベッツラー: スカーレット・ヨハンソン- ジョジョの母親。
アドルフ・ヒトラー: タイカ・ワイティティ - ジョジョの空想上の友達。
クレンツェンドルフ大尉: サム・ロックウェル
フロイライン・ラーム: レベル・ウィルソン-ヒットラーユーゲントのキャプテン
フィンケル: アルフィー・アレン-キャプテンの部下
ヨーキー: アーチー・イェーツ-ジョジョの友達。
ユーモアにあふれた描き方はよかったと思いますが、笑って済ませられなかったのも、描かれた時代が「敗色濃厚な戦争末期のドイツ」だから。以下ネタバレ含む紹介です。
映画の最後では「ヒットラーは自殺した」ということも語られます。
当時のドイツの子供たちがみなそうであったように、ヒットラーの信奉者であったジョジョ。映画の冒頭、ビートルズの歌にのせて、当時の記録フィルムがうつされます。集まった群衆がヒットラーの姿に熱狂し、ヒットラーの演説を聞いて心酔する姿が出ていました。まるでビートルズに世界中が熱狂したように、ヒットラーはスターでした。
アドルフ・ヒットラーは、少年ジョジョの「心の友」。ジョジョは想像の中でヒットラーと親友になり、ヒットラーに励まされヒットラーを崇拝して暮らしています。
ジョジョが「イタリア戦線に従軍している」と信じている不在の父親は、実はナチスに抵抗する勢力の一員であり、すでに殺されているのかもしれません。顔の傷が目立つのでいやだという息子に、母親ロージーは「目立つのは悪いことじゃないわ。わたしなんて美人すぎて、、、、」とジョジョをなぐさめる、ロージーは超美人。そりゃスカーレット・ヨハンソンが母親なら目立つことこの上なし。
ジョジョがけがをしたのは、ヒットラーユーゲントの訓練に参加した結果。訓練でウサギを殺せと命じられ、逃げ出したために「臆病うさぎのジョジョ」と馬鹿にされてしまいました。想像のヒットラーに励まされて、使い方もよくわからないのに、手榴弾を投げて失敗し、顔に傷跡が残るけがをしてしまったのです。
この「ヒットラーユーゲント」も、ゆるいボーイスカウトのように描かれていますが、もちろん本物のヒットラーユーゲントは日本の予科練なんか目じゃないほどの難しい試験をくぐり抜けた眉目秀麗な若者(金髪青い目のアーリア民族!)だったはずですが、そこはお笑いで。
ジョジョがけがをする手榴弾投げも、一歩間違えれば死んでいたであろう訓練ミスですが、責任者キャプテンKは降格されただけ。ほんとうのヒットラーユーゲントなら、責任者は銃殺刑。
この時期のドイツ少年がだれもあこがれたヒットラーユーゲント。日本の同じ年頃の少年なら予科練の「七つボタンは桜に錨」にあこがれていた。
ヒットラーユーゲントキャンプ

訓練を仕切るのは、キャプテンK(サム・ロックウェル)。戦傷で片目を失い戦線から「子供のお守り」に降格されたキャプテン、どうやらジョジョの母ロージーには頭があがらないらしい。
ロージーは密かに「反ナチス」の運動を続けており、自宅の壁の隙間にユダヤの少女をかくまっています。亡くなったジョジョの姉によく似ている少女エルサを、ロージーはもうひとりの娘のように思っているのです。
少女の両親はすでに収容所に送られおり、生きて帰ることはない。エルサも見つかれば収容所行き。ジョジョに見つかったエルサは「もし、私が見つかれば、あんたもあんたの母親もユダヤ協力者として殺される」とおどし、ジョジョは母にも少女を見たことを言えません。
ジョジョはユダヤ人は頭に角を生やしている怪物で、子供を捕まえて食うと教えられており、その「ナチスの教え」を信じて、「ユダヤ人の真実の姿」というレポートを書き進めています。子供を洗脳するのは簡単だけれど恐ろしいなあと感じます。
ジョジョは少女エルサと話す時間が増えるにつれ、教えられたユダヤ人とエルサはまったく違っており、自分たちと同じだということを知っていきます。ジョジョはエルサと話すとき、「おなかの中でたくさんの蝶ちょが飛び回る」ようになっていきます。恋の芽生えです。
ジョジョは、少女が婚約者だといった胸のロケット写真ネイサンのふりをして少女をなぐさめる手紙を書いて渡すようになりました。
「戦争が終わったらいっしょにパリで暮らそう。それまでがんばれ」と。エルサはその手紙はジョジョが書いていることを最初から知っています。
エルサは「戦争が終わったら一番先に何がしたい」とジョジョに問われて、「ダンス」と答えます。
エルサは決して頭に角のある怪物ではなく、話を交わせばかわすほどわかりあえる相手になっていきました。
キャプテンKはヒットラーユーゲント事務所の事務職に降格され、ジョジョに戦意高揚ポスター張りや、ヤカンなどの金属供出の仕事を与えます。ジョジョは「これもヒットラーのためになる協力」と信じて屑鉄集めに励みます。
しかし、ある日、反ナチスの活動を続けていた母ロージーの運命をジョジョは知ります。
そしてジョジョの町は連合軍の空爆を受け、町はがれきの山に。
幸いジョジョの家は空爆地帯からはずれたのですが、キャプテンKは、進軍してきたアメリカ軍にジョジョを「この子はドイツ人じゃない、ユダヤ人だ」と告げてアメリカ軍に逮捕されないようにして、自分は敗軍の運命を受け入れます。
ヒットラーもジョジョも映画の中では英語で話していました。ハリウッド映画だからね。アメリカ軍の兵士にジョジョが英語で「ことばがわからない」というので、おかしかったけど。
戦争が終わったことを知った少女は家の外に出てきます。「戦争が終わったらしたいこと」は、ダンス。エルサのダンスの姿を見て、ジョジョもぎこちなく体を動かしてみます。
大好きな「心の友」であったヒットラーでしたが、ジョジョは最後にヒットラーではなく、エルサを信じようと思います。
ヒットラーを心から追い出したとき、ジョジョは一歩成長したのです。父も母もいなくなったジョジョがこれからどう成長していくのかわかりませんが、鬼か怪物だと思わされていたユダヤの少女が、異なる考えをもっていたとしても、話し合っていけば寄り添えることに気づいたとき、少年は確かに人生に踏み出したのだと言えます。
「不謹慎な戦争風刺」という評もあったそうですが、私は2019年映画の傑作と思いました。
<おわり>