20210912
ほかぽか春庭ことばのYaちまた>新語流行語2021(2)重語アセアセ
日本語教師の言葉袋は何でも袋。何でもかんでも詰め込むので、整理整頓できない春庭は、新しくことばを知っても袋の奥で行方不明になり肝心なときに使えない。
留学生がバイト先の若い日本人から聞きかじった若者ことばを質問してきたときにも、余裕で答えてやりたいと心掛けてはいるのですが。若者ことばに疎くなってきた現在、留学生に教わる若者ことばも出てきます。アセアセも最初に聞いたのは、留学生からでした。その後、ネットの中でよく見かけるようになりました。
「センセー、ヒトビトはヒトがいっぱい、山々は山がいっぱいですね」
「そうそう。でも図書館に本がいっぱいあっても本本にならないよ。重ねて使えることばは多くないです」
東洋文庫のモリソン文庫前

「アセアセは汗がいっぱいね。OK?」
「そう。同じことばを重ねてつかう、アセアセは汗がいっぱいのとき使って間違いじゃありません。でも、若い人が使っているのは、それだけじゃありません」。
あわてて焦っている時に、汗がどっとでる。汗かくことから派生し、 困ったり失敗したりするようすを、「アセアセ」と表現する。ほめられ照れくさいときもつかえるかな。
アセアセのように、ひとつの語を重ねる言葉を「重語」といいます。名詞をふたつ重ねる語はそれほど多くありません。と、に、をつけて副詞として用いたり、しい、いをつけて形容詞として用いたり。
・粒→粒つぶ 用例)いちご、あのつぶつぶつとしてるのが苦手で食べないんだよ。
・丸→マルマル 用例)このあかちゃん、まるまるとしていてかわいい。
・黒→黒ぐろ 用例)夜の闇は黒々と広がっていた。
・段→段だん 用例)日本語学習もだんだんと難しくなってきた。
・はな→華々しい 用例)大谷の活躍は華々しい。
・冷え→冷え冷え 用例)冷え冷えとした部屋に入った。←動詞「冷える」
・晴→はればれ 用例)彼は祝典にはればれと出席した。←動詞「晴れる」
・美→美美しい 用例)美々しい衣装で着飾った鹿貴婦人貴婦人たち
・神→神神しい(こうごうしい)用例)出雲のお社は神々しく建っていた。
(ちなみに、ネット用語「神ってる」も、名詞の動詞化の例として日本語の造語法にあっているのです)。
形容詞の語幹を重ねることで、意味が強調される語が作れます。名詞を重ねるより多い。
・怖い→こわごわと 用例)こわごわと深い穴をのぞきこんだ。
・早い→はやばやと 用例)遠足の日ははやばやと起きたものだ。
・広い→広びろと 用例)平野がひろびとと開けていた。
・高い→高々と 用例)旗を高々とかかげた。
・重い→重々しい 用例)彼の言葉は重々しく響いた。
・軽い→軽々と、軽々しい 用例)軽々しい行動をしないでください。
「長い」は長ながしいという重語になるが、「短い」は、「みじかみじかしい」にはならない。「美」は重語になるが「うつくうくつしい」はない、など、語形の制限はあるようですが、形容詞も重なることで意味が強調されるのはオノマトペと同じです。
重語の造語法について、日本語学の論文集を探せば見つかることと思いまが、留学生にそこまで詳しい日本語解説は求められていないので、「センセー、こけがいっぱいのお寺にいきました。作文、コケコケのお寺の庭、書きたいです。いいですか」「え~。こけこけって言わないなあ。でも、面白いねコケコケ。流行るかも」くらいの解説で終わり。
名詞が重なった「アセアセ」から、重語について考えてみました。
<おわり>