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ぽかぽか春庭「倒す」

2021-09-21 00:00:01 | エッセイ、コラム
20210921
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>日本語2021かんじいい漢字教室(5)倒す

 春庭は、英語も中国語もナマかじりのままですから、学生に教わりながら勉強を続けています。日本語と中国語の漢字の意味の違い、一致するところ、一致しないところ、いろいろあります。

 たとえば、「コーヒーをカップに注ぐ」の「注ぐ」に当たる中国語動詞漢字は、「倒」で、把咖啡倒进杯子里(bǎ kā fēi dǎo jìn bēi zi lǐ , )。そのコップを倒してコーヒーをこぼしてしまったときも動詞は「倒」で、把杯子倒下来( bǎ bēi zi dǎo xià lái  )。
 どちらも、コップは斜めに傾けた状態になっているんだから、コップの状態は同じだ、というのですが、日本語母語話者としては、コップで飲める状態のときも「倒」、そのコップを倒して飲めなくなったときも「倒」では、なんだか釈然としません。

 しかし、中国で暮らしたときのことをよくよく思い返してみると。
 宴会などでビールを注ぐ動作を思い出します。
 日本で隣の席の人やウエイトレスさんにビールを注いでもらうとき、日本人同士なら、コップは立てて注いでもらうことが多い。


 しかし、中国の服務員さんは、たいていコップを斜めにかしげてビールをついでくれました。ひとりでつぐときも同じ。


 中国語日本語バイリンガルの先生は、「ビールをつぐとき、以前はできるだけ泡を出さないようにして注ぐのがじょうずな注ぎ方とされていたので、コップを斜めにしたけれど、最近は泡を好む飲み手も増えたので、コップを傾けないことも多くなった」と教えてくれました。
 でもやっぱりお酒を注ぐときは「倒」

 「タリバンは、アフガニスタン政府を倒した」は、「塔利班推翻了阿富汗政府。tǎ lì bān tuī fān le ā fù hàn zhèng fǔ」で、「倒」は使わない。

 同じ漢字でも意味する範囲はこのように少しずつ異なっており、まったく違うかまったく同じかどちらかなら問題は起きないのに、ほとんど同じ意味でありつつも微妙に異なっているときに誤解も勘違いも起きる。

 私は、朝6時25分から35分まで、テレビ体操をしてから家を出るようにしているのですが、体操の時間より少し早めにEテレをうつすと、テレビスペイン語講座とか中国語会話をやっています。
 中国語講座で、イモトアヤコが生徒になって、中国人の先生から「酒を注ぐ」という場面の中国語を教わっていましたが、中国人の先生は「倒酒 」「倒啤酒 」と、泡と関係なく「倒して」いました。
 「倒」の意味範囲が中国語と日本語で異なっていること、私はイモトアヤコの中国語講座で初めて知ったのです。

 日本語教師志望の若い人へ。
 日本語教師たる者、人とのコミュニケーションが好きなことも言語教師の資質のひとつ。同時に、ことばへの興味を常に持ち続ける「ことばオタク」でもあることが必要です。教えるというoutputばかりの教師は枯渇してきます。常に日本語にも日本語と他言語との対照言語学にも興味を持ちさまざまな情報をinputして、毎日生き生きとすごすこと、楽しくことばとかかわっていること、これが日本語教師だけでなく、すべての語学教師に大切なことと思います。

 これからも言葉の微妙な違い、留学生からもテレビからも学ぶことが多いでしょう。
 もう少し、日本語教師として知っておいたほうがいい中国語漢字と日本語漢字の意味の差異について基礎を固めましょう。

<つづく>
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