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ぽかぽか春庭「日中の漢字熟語の意味ちがい」

2021-09-26 00:00:01 | エッセイ、コラム

20210926

ぽかぽか春庭ニッポニアにっぽん語教師日誌>日本語教師養成講座漢字教育基礎(1)日中の漢字熟語の意味違い

 日本語教師志望者への「漢字教育の方法指南その①中国語圏母語話者への漢字教育」
 第一は、中国語と日本語の漢字字体の違いを知ること。簡体字、繁体字を知らないと、作文などに書いてある中国繁体字が理解できず、いったい何を書きたかったのか、とんと想像できないこともあります。
 「わたしの家乡」の乡が郷の簡体字、「车すきです」の车は車、選ぶ=择、難=难、雲=云、頭=头、売=卖、買=买、豊=丰、億=亿、などなど、中国人学生は、ついつい簡体字を作文に書いてきます。 
 
 中国繁体字簡体字、日本漢字の対照表がありますから、順次覚えていくしかない。藝ー艺-芸、などはわかりやすい。體-体ー体、術―術ー术、などセットで覚える。 

 中国人への日本語教育で気をつけていくべき漢字教育は山ほどありますが、そのひとつ。中国学習者にありがちな「日本語漢字熟語を中国語の意味のまま」に思い込んでしまうことです。漢字が同じなので、意味も同じだと思い込んでしまい、きちんと辞書などで意味を調べない学習者もいるのです。
 以下、日本語と中国語で意味が異なる熟語を上げていきます。

タスク3-7 次の語彙の意味について、日本語と中国語の意味の違いを言ってください。 

1-1愛人 1-2丈夫 1-3大丈夫 1-4外人 1-5先輩

2-1下水 2-2階段 2-3趣味 2-4手紙 2-5情報 2-6案件 2-7縁故 2-8今朝 2-9顔色

  1. 3-1清楚 3-2可憐 3-3元気 3-4怪我 3-5緊w張 3-6得意 3-7快楽 3-8上品・下品 3-9馬鹿 3-10恰好 3-11結構

4-1覚悟 4-2教養 4-3作風 4-4勉強 4-5出世 4-6作為 4-7収集 4-8暗算 4-9遠慮 4-10温存 4-11合算 4-12我慢 4-13工夫 4-14無心 4-15留守 4-16結束 4-17裁判(審判)4-18翻案 

 

3-7 解答

1-1愛人(あいじん)
 日本語--妻以外に恋愛関係を持っている女性で、とくに経済的に援助をしている女性をさす。
 中国語--配偶者。妻または夫。
1-2丈夫(じょうぶ)
 日本語――身体や物がしっかりしていること、頑丈で壊れにくい。「丈夫な身体、丈夫な椅子」 古代日本語では「丈夫(読み方は、ますらお)」=強い男   
 中国語――男の配偶者、妻に対していう夫のこと。昔の中国語では、堂々とした強い成人男子のこと
1-3大丈夫(だいじょうぶ)
 日本語――問題ない、心配することはない、という意味。
 中国語――立派な一人前の男、古代の漢語の「丈夫」と同じ意味=夫
1-4外人(がいじん)
 日本語――外国人。   
 中国語――家族や親戚以外の「他人」。或いは、自分の属する組織や範囲以外の人。「私は外人とはつきあわない」と言った場合、「自分の所属しているグループの外の人とは交際しない」という意味になります。
1-5先輩(せんぱい) 
 日本語――同じ学校や職場に先に入った人、或いは先に卒業・退職した人。
 中国語――自分より前の、つまり親の世代のこと。中国語の「後輩」は自分より後の子供の世代。「先輩は、文化大革命で苦労をした」と言うとき、日本語なら具体的なひとりの人を指すのですが、中国語では「親の世代の人は、文革で苦労した」の意味になります。
 

2-1下水 

 日本語(げすい)――家庭などから出る汚水。上水の対義語 

 中国語――日本語と同じ意味のほかに、豚など家畜の内臓(もつ)(水に下げて煮る)、船が進水する、悪の道にはいる(普通の暮らしを営む陸から通常は暮らさない水へ下っていく)、布を水につける、など。

2-2階段 

 日本語(かいだん)――人が上がり下がりするための段になった通路。中国語では「台階、楼梯」

 中国語――日本語の「段階」の意味。物事が進む過程のひとくぎり。時間的な概念で、例えば、封建社会から資本主義社会に移行したことを社会が新しい「階段」に入った、という。

2-3趣味

 日本語(しゅみ)――読書、音楽鑑賞など、余暇の楽しみ。中国語では「愛好」に相当。

「私の趣味は薔薇の栽培です」 

 中国語――人生観(古代中国語、古典語のみ)2-4手紙

 日本語(てがみ)――書状、レター。手で書く文字「手」手で習う文字→手習い 

 中国語――トイレットペーパー。「トイレに行くこと=解手(手を解く)」手は用便の隠語。

2-5情報

 日本語(じょうほう)――インフォーメーション、中国語の「信息」。 

 中国語--「軍事情報」のように、国家の機密や安全にかかわる事柄。

2-6案件

 日本語(あんけん)――処理されるべき事柄。「外交案件」「予算案件」外交・予算に関して検討や処理すべき事案。日本語の「案」は、「アイデア」または「考える」という意味。考案、思案、妙案。日本語独自の漢字語「腹案、思案」。日本から中国へ伝わった漢字語「草案、提案」

 中国語――事件。中国語の「刑事案件、民事案件」は、日本語では「刑事事件、民事事件」。「案」は昔は机の意味。古代中国の役人たちが「案」の前に座って処理するさまざまな問題が「案件」。古代中国の役人たちが処理していた問題の多くは訴訟事件だから、「案件」は実質的に「事件」だった。

2-7縁故

 日本語(えんこ)――血縁、縁戚などの縁続き、人と人とのかかわり・つて。「東京には一人も縁故がない」「縁故をたよって就職した」

 中国語――理由、原因

2-8今朝

 日本語(けさ)――今日の朝「今朝は早起きしたので眠い」日本語の朝は日の出前後から数時間。

 中国語――今日、または今現在。中国語にはmorningのほかに「一日」の意味もある。

2-9顔色 

 日本語(かおいろ)――顔の色。「今日は顔色がよくないね。どうかしたの」

 中国語――顔だけでなく、いろいろなものの色。

 

3-1清楚

 日本語(せいそ)――女性や花の清らかな美しさをいう。 

 中国語――「はっきりとしている」という形容詞と「分かる」という動詞。

3-2可憐

 日本語(かれん)――いじらしい、かわいい。「可憐な花、可憐な少女」  

 中国語――かわいそうな。可憐的老人(孤独でかわいそうな年寄り)

3-3元気 

 日本語(げんき)――健康で勢いがよいこと。挨拶用語として「げんきですか?」 

 中国語――人だけでなく、社会、組織などの生命力、活力、精気の意味。

3-4怪我 

 日本語(けが)――(1)負傷 (2)失敗、思いがけないこと「深入りすると怪我をするよ」「怪我の功名」 

 中国語――単語としての意味はない。「我(私を)責める」「私のせいだ」という主語述語をもつ文。「怪」は「とがめる、責める、人のせいにする」という動詞。

3-5緊張

 日本語(きんちょう)――失敗が心配で心や身体が引き締まること、両者の関係がうまくいかず、今にも争いが起こりそうな状態。

 中国語--日本語と同じ用法のほか、物に関する用法がある。「最近鋼材緊張(さいきん、鋼材が不足している)」

3-6得意

 日本語(とくい)――(1)ある種の成功を収めて満足している人の気持ち。「大学に合格して得意になっている」(2)「得意なスポーツ、得意な料理」のように上手にできる事柄、「得意先」(ひいきにしてくれる客)

 中国語--(2)の用法は中国語にはない。(1)のみが使われる。

3-7快楽

 日本語(かいらく)――ここちよい、楽しい(日本語では肉体的感覚が強い)「男の快楽」というと、異性関係を含む身体的快楽の意味合いが強くなる。

 中国語1--主に精神的なものについての心地よさ。「快楽的単身漢」という中国映画のタイトルの意味は「家族親戚など係累がなく自由気ままに暮らす独身男」という意味

3-8上品・下品

 日本語(じょうひん・げひん)――日本語では人の言動を評価することば。上品な婦人、下品な言葉など。語源の仏教用語では極楽浄土に往生する人が9段階に分けられ、上の3段階を「上品」、下の3段階を「下品」ということに由来する。 

 中国語――人ではなく、物についていう。

3-9馬鹿

 日本語(ばか)――(1)知能の働きがにぶいこと(人)。「無知」の意の梵語mohaから来たらしく、「馬鹿」は当て字。(2)ナ形容詞「ばかな」は「愚かな」「有り得ないほど意外な」の意。「そんなバカな!」 

 中国語――「馬」のような「鹿」、鹿の一種。

3-10恰好

 日本語(かっこう)――体裁(ものの形、姿、様子)がちょうどよい。「恰好がいい男性」「この服は恰好はよくないけれど、暖かいよ」さらに、「恰好の値段」(値段がちょうど手ごろであること)、「50恰好の女性」(だいたい50歳くらいの女性)

 中国語――ちょうどそのとき、おりよく。「恰」は「ちょうど」、「好」は「よい」の意だから、「ちょうどよい」ことが中国語では「ちょうどよいとき」

3-11結構

 日本語(けっこう)――(1)満足のゆく状態であること(すばらしい)。「結構なお住まいですね」(2)まずまず満足の状態(かなり)。「この店の料理、結構いけるね」(3)現在の状態で満足しており、それ以上を必要としない様子(丁重に断る言葉)。「もう結構です」は、いろいろなニュアンスがあり、前後関係などから判断する必要があり、日本語学習者は要注意。「この文章、けっこう良い出来だね。(思った以上によく書けている場合につかう)」

 中国語――構造、構成。「この文章、結構良い」というと、中国語では、「この文は(表現はそれほどではないが)構造が良い」となる。

  つづきは次回 

 2009年中国赴任時の日本語教室


<つづく>

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