春庭Annex カフェらパンセソバージュ~~~~~~~~~春庭の日常茶飯事典

今日のいろいろ
ことばのYa!ちまた
ことばの知恵の輪
春庭ブックスタンド
春庭@アート散歩

ぽかぽか春庭「ライオン-25年目のただいま」

2022-08-16 00:00:01 | エッセイ、コラム

20220816
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>2022シネマ猛暑日の夏(4)ライオン25年目のただいま

 コロナと熱中症の夏は「年寄りは外に出るな」とニュースで言うし、「節電しようとしてエアコン使わない高齢者は、近所の図書館美術館などの施設で一日すごせ」という「ご指導」もある。
 美術館博物館にせっせとでかけて「節電」する日もあるし、エアコンの中でぼうっと撮りためたビデオを見て過ごす日もある。
 オードリーヘプバーン『ローマの休日』や『パリの恋人』を見たり『われらの生涯最良の年』を見たり、古い映画を見ることもあるし、そんなに古くはないけれど、見落とした映画をピックアップするときも。

 『ライオン25年目のただいま』は、の飯田橋ギンレイにかかったのに見逃した1本。2016年公開の映画です。
 オーストラリアで白人夫婦の養子となって育ったサル―が、生まれ故郷のかすかな記憶から実の家族を探し出したという実話に基づいた映画です。キャッチコピーは「迷った距離1万キロ、探した時間25年、道案内はGoogle Earth」以下、ネタバレありの紹介。「25年目のただいま」というタイトルとキャッチコピーであらすじほとんど紹介されているけれど。

 主役は『スラムドッグ$ミリオネア』で主人公を演じたデーヴ・パテール。その恋人ルーシーは、『ナイトメアアリー』の主人公恋人役を演じたルーニー・マーラ

 原作:サルー・ブライアリーの回想録『25年目の「ただいま」 5歳で迷子になった僕と家族の物語』 
 監督:ガース・デイヴィス
 脚本:ルーク・デイヴィーズ
 出演:
・デーヴ・パテール :サルー(オーストラリア人夫婦の養子となって育つが、25年目にインドの家族を探し出す)
・サニー・パワール :幼少期のサルー(5歳で迷子になる)- 
・ニコール・キッドマン:スー・ブライアリー (サルーともうひとりの子を養子にして育てる)
・ジョン・ブライアリー:デビッド・ウェナム(スーの夫)
・ルーニー・マーラ :ルーシー(サルーの恋人)
・アヴィシェーク・バトラ:クドゥ(幼いサルーの頼りの兄)
・デヴィアン・マトラ:マントッシュ(ブライアリ―夫妻のもうひとりの養子)
・プリヤンカ・ボゼ:カムラ(サルーの母。生き別れになったサルーを探し続け、息子が戻るかもしれないと、引っ越しをしなかった)

<あらすじ>
 5歳のサルーは、働き者でやさしい母とたくましい兄、妹シェキラら家族と貧しくとも幸せにくらしていました。ある日、兄にせがんでこぼれた石炭を拾う仕事に「ぼくもできる」と、連れて行ってもらうことに。母を楽にさせたい一心で。しかし、石炭拾いをとがめられ、追い回された末に列車内にのがれます。兄と離れ離れになったサルーは列車の中で寝てしまい、気づいたとき列車は見知らぬ街コルカタについていました。さまざまな地方語に分かれているインド。コルカタではベンガル語が話されており、まったくことばがつうじません。(インドでは公式語だけで20。地方語は300もあるのです)。

 コルカタのスラム街で生き延びたサルーは、ことばがわからないまま施設に収容されてしまいます。オーストラリア人夫婦が養子を求めており、サルーはタスマニア島にやってきます。スーとデビット夫妻はもうひとり有色人種の子供を養子にして育てます。新しい養子マントッシュは心に障害を抱えていました。

 成長したサルーはメルボルンの大学生となり、恋人も得て幸福に暮らしています。悩みのタネは、同じ家で養子になったマントッシュのこと。彼は発達障害があるのか、あまり人と交わらず、育ての母スーとの関係もよくないこと。もうひとつの悩みは、自分は幸せに暮らしているのに、インドで生き別れた母と兄はどうしているのか気がかりでならないこと。ときおり脳裏に浮かぶ生まれ故郷のおぼろげな記憶は、「自分は何者なのか」というアイデンティティの悩みを生みます。

 キッチンにあったインドのお菓子「ジャレビ」を見て、兄グドゥにジャレビをねだったことがよみがえります。
 サルーは恋人のルーシーの励ましを得て、グーグルアースを使い、地図上の町を検索していきます。乗り込んだまま眠ってしまった列車の当時の時速を調べコルカタからどれくらい離れている町が故郷なのか計算します。コルカタから1600kmの範囲の町だと割り出しました。
 かすかな記憶「給水塔」をグーグルアースの映像から探し出し、ついに故郷がインド中央部にあるマディヤ・プラデーシュ州カンドワであることを突き止めます。サルーがおぼろげに覚えていた「ガネストレイ」という地名は「ガネッシュ・タライ 」だったようです。 
 
 インドの母カムラは、息子の帰還を信じて息子と住んでいた家から引っ越さず、帰りを待ち続けていました。ある日、とうとう息子は母の待つ家にたどりつきます。25年目のただいま。
 ラストシーン、実在のサルーとカマラとスー・ブライアリーが3人で抱き合っている姿が出てきました。泣けます。

 見どころは、自分自身のルーツがわからないままアイデンティティ危機におちいりサルーが苦しむところと、ニコール・キッドマンが「なぜ養子を育てることにしたか」と熱くサルーに語るところらしいけれど、私はインドで息子の帰りを待ち続ける母カマラのほうに感情移入してしまうから、ニコール・キッドマンについては、25年たってダンナはふけメークになったけれど、ニコール母は若いままだなあということに感心。

 母スーが語る「世界中には人があふれてる。子供を産んで世界がよくなる?恵まれない子たちを助けるほうが、意義がある 。私は茶色の肌の子を育てよという神の啓示を受けた」ということば、神の啓示っての縁がないもんで、なぜ茶色の肌の子がよかったのかはピンとこなかった。いずれにせよ、尊い子育てなんだろうけれど。

 なぜタイトルがライオンなのか。5歳のサルーは自分の本名शेर ser シェルゥ 。ヒンディ語でライオンのこと。シェルゥをうまく発音できずに、名前を聞かれると「ぼくはサルー」と答えていたため、シェルゥを探し続けた母の捜索網にひっかからなかった。警察にも「迷子シェルゥを探している」と、届け出たでしょうから。

 前半のインドパートは、サルーが育った田舎も、コルカタの街のようすもとてもよかったし、子役のサニー・パワール がかわいかった。
 後半のタスマニア島パートも悪くはなかったですが、インドパートのほうが圧倒的に胸に迫る。

 第89回アカデミー賞、作品賞、主演男優賞(パテール)、助演女優賞(キッドマン)、脚色賞、撮影賞、作曲賞の6部門にノミネートされたが受賞なし。

 「実話のその後」は、たいていはあまりいい話にはならないのですが、「ライオン」の主人公サルーは、インドの母へ送金をつづけ、映画のヒットで原作料もかせげたので、インドで孤児院を経営しオーストラリアへの養子紹介などの福祉に励んでいるそう。よかった。

実話のサルー、カマラとスー


<つづく>
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする