
20220818
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>2022シネマ猛暑日の夏(5)レッドクリフ
1945年の敗戦から77年目の夏だという。
広島長崎で被爆した人も、東京はじめ各地の大空襲を経験した人も、沖縄での地上戦の悲惨さを知っている人も、実体験として記憶している人は80代90代になっています。どのようにこの経験を受け継ぎ、次代につなげていくのか。
8月15日、さまざまな追悼行事のニュースが流れました。その中、昨年2021年に放映されたドキュメンタリーが再放送されていたので、見ました。
陸軍出身でナチス政権下のドイツに駐在武官や駐独大使として勤務した大島浩の証言が12時間分録音されていたのです。
大島はA級戦犯として終身刑の判決を受け、1955年に釈放されたのちは隠棲し1975年に89歳で亡くなるまで著作、講演、選挙への出馬要請、すべてを断って口をつぐみました。「自分は失敗者」と自己規定し、国をミスリードした罪を負って晩年をすごしたのです。
しかし、亡くなる2年前に外交史研究者三宅正樹 に語った記録が残されました。大島が1975年に亡くなったあと、夫人から発表の許可を与えられたけれど、研究には証言を援用したものの、録音そのままの公開は長く秘せられていました。
人びとにこの大島の証言が広く知られたのは2021年8月14日の放送で。
2022年8月終戦特集の中の再放送を見ました。大島は「ヒトラーは天才」と、ヒトラーに傾倒したことをのべ、「三国同盟は私のアイデア」と、国の方針を決めたことに対して自負を感じさせる語気で語っていました。ヒットラーに心服するあまり、ドイツ勝利を疑わず、国への電報にドイツと運命をともにすることを伝え続けました。
大島は政界からの要請を断り続けて隠棲しましたが、一方、かって満州国をミスリードした官僚が、政界に堂々復帰し首相に上り詰める。韓国の新興宗教団体と強い結びつきを作り、その孫も首相となって、この宗教団体の行事にビデオメッセージを送り、強い結びつきを保っていることをしめしました。
今、与党内の小物たちは「祝電を送ったり、雑誌のインタビューに答えたりしたけれど、当該宗教団体の関係団体とは知らなかった」というような言い訳をして逃れようとしています。まったく反省無き人々です。
反共を標榜しているはずの当宗教団体は、信者から巻き上げた豊富な資金を北朝鮮に送り込み、北朝鮮の経済を支えています。
テロは決して許されることではありません。その通りです。しかし、この根深い宗教資金の解明をしないままうやむやにしたのなら、どれだけ警備を強化しようと、また同じ事件が起こる可能性は否定できません。
さて、戦争を考えることの多いこの週に、私がテレビの前に寝っころがって見た「古い映画」は『レッドクリフⅠ・Ⅱ』5時間。Ⅰのあと、「100分で名著」で陳寿が残した歴史書 「三国志」を伊集院光らが読み解いていました。
映画『レッドクリフ』は、明時代に成立した羅貫中らが編纂した白話小説『三国志演義』をもとにして、さらに映画オリジナルの脚本になっています。
ひたすら美女は美しく、軍師や大都督ではカッコいい。
「100分で名著」での『三国志』解説では、軍師諸葛孔明が藁の案山子を摘んだ船で10万本の矢を獲得する逸話は、「演義」の創作で史実ではないってことですが、やっぱり映画となると、この矢を分捕ってくる話と、風向きの変化をよむ話がいちばんおもしろい。
戦闘シーン。曹操軍は軍船をつなぎ合わせていたために、火攻めにあうと全滅。陸でも背後から劉備軍が襲い掛かり、曹操完敗。
曹操が周瑜の妻に懸想していて、絶世の美女小喬が曹操にお茶をすすめたために戦闘開始がおくれたという話と、負けた曹操を劉備と周瑜が「消えろ」と見逃す話は史実ではないとは思うけれど、映画的には必要だったのでしょう。
赤壁戦闘後の死体累々のようす。
映画では孫権の妹尚香と曹操軍の兵士孫叔材 が「親友」となり、尚香が矢の刺さった孫の体を抱きしめて嘆くシーンが戦死を嘆く場面としてでてきます。それ以外の黒焦げでころがる兵士ひとりひとりに家族があり、戦死を悲しむであろうけれど、映画ではただの黒焦げ。これを見ていると、為政者や将軍にとっては、広島長崎の被爆者も各地空襲の焼死者も、「ただの黒焦げ」に思えたのだろうとわかります。ひとりひとりの死を悲しめるようなら戦争はできない。
ウクライナ戦でのロシア兵戦死者の8割が、少数民族出身だというニュースを見ました。
ロシアの独立系メディア「メディアゾナ」が12日、英BBC放送と合同で実施した調査結果によると、戦死した兵士の出身地はイスラム教徒やモンゴル系など少数民族が住む地域が特出していることが分かった、ということです。
ロシアの民族比によれば、全国民の8割はロシア人ですから、その比率でいけば戦死者の割合も8割はロシア人になるはずです。が、少数民族が前線に立たたされて戦死しているという報に、戦争も戦死も為政者の恣意によるものだと感じます。
ロシア側から見ると、「ウクライナ国内のロシア人を保護するための正義の戦い」なのだそうです。「ベトナムを共産主義から守る正義の戦争」もありましたね。モハメッド・アリは、敢然とこの「正義」を拒否しました。どんな正義があろうと、すべての戦争に反対します。
食糧危機も伝わる現在。「正義の戦争に反対するおまえんちには米もパンも配給してやらないよ」と言われたら、どうなるのかわからぬヤワな反戦者だってことは織り込み済みで。
8月15日、武道館での戦没者慰霊式の中継も見て、私も黙祷しました。
この式中、首相のことばなどを聞いて「戦争反対って言ってるけど、核のかさの下にしか平和はないんだよ」いう本音をうかがわせるような「うわべの平和」に感じたのですが、その中で、もっとも真摯なことばとして心に残ったのは、天皇「おことば」でした。
他の人のことばにはなかった部分。おことばの最後、徳仁天皇はこう結びました。「~略。ここに、戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、全国民と共に、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」。
「深い反省」ということば、他の追悼のことばを述べる人々の文言の中になかったことばだったので、耳に残りました。
今の平和を守り、これからの平和を望むには、過去の「検証」をなくしては構築できないはず。でも、今、それはむずかしいのでしょうか。
平和ボケを非難されつつ、レッドクリフを単純に楽しみながら8月15日に思いをはせました。
映画の感想というより、夏休みの一日を寝っころがってテレビ見てすごす「ぐうたらな時間の過ごし方」の反省文ですかね。
あまり「深い反省」にはなっていないけれど、8月18日からまた朝6時半に家を出て、夜8時に帰ってくるまで働く日々を続けます。
<おわり>