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ぽかぽか春庭「舞姫を森鴎外は捨てゆきぬ」

2025-01-18 00:00:01 | エッセイ、コラム
20240118
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>いろは歌再び(日本語音節と音節文字)(4)闇夜へ消えた骨無しソロモン
 
 2011年の春庭コラム再録です。
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2011/01/29
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語講座>いろは歌再び(日本語音節と音節文字)(3)舞姫を森鴎外は捨てゆきぬ 

 春庭第2作目のいろは歌。
 色とりどりの衣装をつけた舞姫が部屋の中に立ち、熱に浮かれて歌って行く様子です。平安文学に出てくる五節の舞姫を想像するもよし、江戸の浮世で舞う浮かれ女を連想してもよし。

 花の輪で、青白緑紫も 匂ほふ舞姫 部屋立ちぬ 為せる 熱よぞ 浮かれ世間を行く声す
 はなの わて あお しろ みとり むらさきも にほふ まいひめ へや たちぬ なせる ねつよそ うかれ せけんを ゆくこえす 

 ちょっと上手くなってきたので、調子にのってきました。
 舞姫という語が出てきたので、森鴎外を連想して、第3作。擬古文で書かれた明治文学の香りがします。と、思ったけれど、最後のつじつま合わせアナグラムがちと苦しい。擬古文がそうであるように、仮名遣いがでたらめになっています。

 捨てられたエリスは寝つけぬ夜を地図をながめて過ごします。日本の地図はまっさらなまま、二人を隔てる国境を越えて恋人のいる地へ分け入ることもできません。
「舞姫を 森鴎外は 捨て行きぬ ゑくぼへ 涙の跡 誘ふ 夜 寝れやせん 白地図に 越え分けらむ」
まゐひめを もりおうがいは すてゆきぬ ゑくぼへ なみだの あと さそふ よる ねれやせん しろちづに こえわけらむ  

 鴎外を追ってたった一人で船旅を続けて、ドイツから日本までやってきたエリス。
 エリス=アリス・ヴィーゲルト説もあり、エリスのモデルに定説はありません。エリス=アンナ・ベルタ・ルイーゼ・ヴィーゲルトという説もNHKドキュメンタリーで知られるようになりました。この説では、実在のエリスは、ドイツに戻って結婚しました。生存している孫の証言では、エリスは若き日の恋人森林太郎のことは一言も語らなかったそうです。エリスの孫の話は、NHK「鴎外の恋人~百二十年後の真実~」というドキュメンタリーで放送されました。

 エリスのモデルとなった女性の本名が、「アンナ・ベルタ・ルイーゼ・ヴィーゲルト」だというのも、鴎外は、次女に杏奴(あんぬ)、三男に類(るい)という名をつけたことからも納得されます。母に引き裂かれた初恋の人を、どうしても忘れることができなかったのでしょうね。家督を弟にゆずって、異国の地からやってきた恋人と結婚する道もありえたのに、恋よりも母親をとった明治の男、森鴎外。捨てられたエリスが幸福な生涯をおくったのだろうと推測できて、ちょっとは鴎外を許してもいいかって気分になりました。

 エリスのモデルとなった女性の名前を書き残さなかった鴎外。名前を伝えるのはなかなか難しい。古代の「いろはうた」は作者が伝わっていません。
 しかし、近世以降では作者名も伝わっています。

 江戸時代に作られた「いろは歌」
「藤尾勾當の歌」、正月に歌うにふさわしい、めでたそうな歌。
春頃植えし相生の 根松行くゑ匂ふなり 齢を末や重ねらむ 君も千歳ぞめでたけれ
(はるごろうえしあいおゐの ねまつゆくゑにほふなり よわひをすへやかさねらむ きみもちとせぞめでたけれ)

 細井廣澤による「君臣歌」。こちらも君臣一族栄える目出度い歌。
君臣親子夫婦に兄弟群れぬ 井鑿り田植えて末繁る 天地栄え世を侘びそ 舟の櫓縄
(きみまくら おやこいもせにえとむれぬ ゐほりたうえてすゑしげる あめつちさかえよをわびそ ふねのろなは)

「五言律詩体 寒梅」
えならぬ香り閨訪れ 池は鴛鴦 庭の梅 色添ふ朝 粉雪散る宵 まだ鶯 見えもせで
(えならぬかほりねやおとづれ ゐけはおし にわのむめ いろそふあさ こゆきちるよべ まだうぐひす みえもせで)

 江戸期国文学の大家、本居宣長の「田植歌」。(宣長の息子は、ぽかぽか春庭が名を借りている本居春庭です)。お父さんの宣長さんは、国学の大家。「もののあはれ」や「敷島の大和心を人問わば、朝日に匂う山桜花」と日本の心を詠んだ宣長さん、いろは歌でもさすがに「稲よ真穂に栄えぬ」と、目出度そうに詠んでいます。田植えときの雨乞いに使えそうな寿歌です。

 雨降れば堰ぜきを越ゆる水分けて 諸人康く下り立ち 植ゑしその群苗 稲よ真穂に栄えぬ
(あめふればゐぜきをこゆるみづわけて もろひとやすくおりたち うゑしそのむらなへ いなよまほにさかえぬ)
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20250118
 2024年の大河ドラマで、史実とは異なるだろうけれど、王朝絵巻として楽しく見たシーンがあります。のちの藤式部(ドラマでの幼名まひろ)が五節の舞に選ばれて、貴人いならぶ前の雅楽舞台で舞ったシーンです。史実であるなら、紫式部日記に書き残さずにはおられなかったでしょうが、謙虚をよそおいつつ自慢しいの紫式部日記に記録はありません。一条天皇から「日本紀の局」と呼ばれたって話はしっかり書き残しているけれど。

「光る君 五節舞う 舞台 誉めはやす 常より 禄を さし上げぬ 
 我も なにぞ 踊らん 故」   
 ひかるきみ こせちまう ふたい ほめはやす つねより ろくを さしあけぬ われも なにそ おとらん ゆへ         

 いつもより多めの禄(褒美)を得た舞姫は、得意満面だったでしょう。光君が与えた禄は、扇か脱いだ衣でしょうか。光君も舞の名人ですから、みずから舞うのもご愛敬。青海波の舞をひとさしなりと。

 五節の舞姫


 
<つづく>
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