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ぽかぽか春庭「科博のトゥルカナボーイ」

2025-01-25 00:00:01 | エッセイ、コラム
20250125
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>2025二十五条日記1月(3)科博のトゥルカナボーイ

 昨年から懸案になっていた「モネ展」にようやく出かけました。娘は「学芸員説明会」に参加したいからと、さっさと前売り券を買い、開幕直後の10月に見てきて、それほど混んでもいなくてよい鑑賞ができたと言っていました。しかし会期も後半になってきた年末年始は劇混みで、押すな押すなだったという評判を聞いて、正月休みが一段落して混みようも落ち着いてからと思って、1月17日金曜日に夫と出かけました。

 ところがところが、西洋美術館の前の大行列を見てびっくり。チケットを買う行列、さらに入場を待つ列。行列に立って待っているのなんて寒すぎるから、科博と東博をぶらついて、モネ展の混みようが減ってから入ろうと合意。

 私がやっちゃんと12月に見た「貝展」は、夫にはなんの興味もない、というので、人類学好きのタカ氏にも興味が持てる地球館の「人類の歴史」を見ました。タカ氏は科博人類史の展示「トゥルカナボーイ」に再会したいと言います。しかし案内係は、入口近くの案内所でも地球館の案内所でも、夫が「トゥルカナボーイの展示はどこですか」とたずねても、さあ、と首をひねる。地球館の人類史展示にあるかもしれないというので、地球館地下2階へ。

 トゥルカナボーイは、東アフリカトゥルカナ湖の西側で発掘された古生人類骨格を復元したものです。アフリカで猿人から人類に進化する過程の研究は京都大学人類学研究室が長く続けてきた領域です。

 トゥルカナ・ボーイ(Turkana Boy)は、新生代第四紀更新世の時代に生息していたホモ・エルガステル(ホモ・エレクトス)の化石人骨。身長160cmくらい、11歳ほどの少年だと研究されているそうです。ナリオコトメ川のそばでリチャード・リーキー博士らによって発掘され、発見場所にちなみナリオコトメボーイ(Nariokotome Boy)とも呼ばれます。歯だけとか上腕だけというようなばらばらの部分のみの発掘が多い化石人骨の中、トゥルカナボーイは、全身の骨格がほぼ揃った状態で出土した稀少な発掘例です。

 トゥルカナボーイの骨格レプリカと復元身体

 夫は、前回このトゥルカナボーイの復元された顔を見て、違和感を感じた、と主張します。1979年にトゥルカナ地域で約1か月すごしたタカ氏は、トゥルカナの人々と交流したことが「青春の思い出」の最大のもののひとつです。トゥルカナの人々の顔は、ケニア最大部族キクユ族などの農耕民族とは明らかにことなる顔つきです。長く狩猟採集生活からヤギなどの牧畜を続けてきた野性味あふれる顔。雨が少ないサハラ砂漠の南端に当たるトゥルカナ地方で、過酷な自然状態の中を生き延びてきた部族です。

 復元されたトゥルカナボーイの顔は、骨格をもとに肉付けされた研究結果であるのですが、復元した研究者のバイアスが含まれているのかもしれず、タカ氏が見てきたトゥルカナの人々とは異なる、との夫の主張です。

 発掘された骨格に皮膚をつけ、身体全体を復元した研究者によると。
「鼻や目は現代人に近い復元とした。脳容積は現代人の3分の2ほどなので判断力もあり、来館者に驚きながらも、少年らしく突っ張っている。皮膚は黒褐色だった可能性もあるが、表面形態がよくわかるように茶色にした」という考えのもとに復元したそうです。

 発掘されたトゥルカナボーイは150万年もまえの人類であり、現在トゥルカナで生活している人々と直接の血縁関係があるわけじゃありません。1万年前に日本列島で暮らしてきた縄文人でさえ、現代日本人の直接の先祖ではなく、大陸系や南方系などのさまざまな遺伝子が混ざり合っているという最新の人類学研究成果からみれば、150万年前のトゥルカナボーイの顔と、夫が目に焼き付けてきたトゥルカナの人々の顔が異なるのも当然です。

 トゥルカナボーイの隣に立っていたネアンデルタール人の復元された顔は明らかに現代西欧人の顔つきに近かったのですが、これは正解。アルプス氷河に埋まっていたネアンデルタール人の遺伝子を研究したところ、現代人類と共通の遺伝子があり、ネアンデルタール人と現生クロマニヨン人の間に交配があったと推測されています。
 
 夫は、受付のガイドさんに「トゥルカナボーイ」というキーワードがまったく通じなかったことも不満で、「有名な展示物の名前くらい知っておくべきだ」と言います。でも、科博の展示は地球46億年の科学を全部扱っているのですから、「月の石は何階にありますか」とか「恐竜の骨は?」などの、小中学校社会科見学定番の質問には答えられるように訓練されているとして、おそらく夫以外にはこれまで興味を持った人が少なかったトゥルカナボーイのことは、わからなくてもしかたない。

 食事も現地の人の食べ物を食べて1か月を過ごし夫に比べ、私はトゥルカナ湖に従妹のミチコと海外協力隊仲間のサイトーさんと3人で出かけ、サイトーさんの知り合いのスエーデン人技術協力者の立派な家で、専属のコックが料理した西洋料理を食べて数日をすごした旅行。同じトゥルカナ湖の風に吹かれたといっても、その経験体験に大きな違いがあります。

 夫は、「京大の研究者がまだトゥルカナにいただろうから、発掘の手伝いとかするルートを探したらよかったのになあ」と、50年前のケニア滞在を悔やんでいます。遅い!ケニアナイロビで出会った変わりもの同士結婚したのが運のつき。

 トゥルカナの風に吹かれた結果結婚して、43年たちました。トゥルカナも遠くなり、こうしていっしょにトゥルカナボーイを眺める時間がとれるようになったことだけでも、よしとしてください。

<おわり>
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