20190804
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>再録感じる漢字(14)音読み訓読みう君月一
「部首・鳥と馬」から、「漢字について」を掲載しています。
春庭コラムのなか「漢字」のコラム再録を続けていますが、ああ、この記事覚えている、という方、すっとばしてください。
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2006/06/14 水
ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語ってどんな言語?まずは発音から(35)音読みの原則
漢字の発音を留学生に指導するとき、注意すべきこと。
漢字が単独でひとつあるときは、原則として訓読みで読む。漢字が二つ以上の熟語のときは、音読みで読む。
(漢字2字で訓読みする語や、重箱読み湯桶読みの語を導入することもあるが、初級では「スペシャルリーリング」と説明するにとどめている)
音読み訓読みのルールは指導するが、留学生には、どれが音読みでどれが訓読みなのか、区別がつかないことが多い。
新しい漢字を導入するときに、最初の指導で「音読み」「訓読み」を分けて教えますが、すぐに混同してしまうのです。
たとえば、音という漢字、「オト」「オン」「イン」の読みのなかで、どれが、音読みでどれが訓読みなのか、わからなくなります。
日本で小学校から漢字教育を受けてきた人は、音読みの原則など教わりませんでした。でも、なんとなく、春という漢字をみたら、「はる」が和語の訓読み、「シュン」が漢字熟語のときの発音、音読みという知識を持っています。
「春はあけぼの」という一文をみたら、漢字一字だけなので「はるはあけぼの」と、読みます。
でも、音読みと訓読みの区別がわからない留学生は「しゅんはあけぼの」と読むかもしれません。
「音読みと訓読みの区別くらいわけないだろう」とお思いでしょうか。
では、なじみない漢字を目のまえにしたとき、どの発音が音読みでどの発音が訓読みか、区別できるか、やってみましょう?
10題、出題します。常用漢字外の漢字なので、あまり見たことはないけれど、なんとなく読めるのもあるでしょう。でも、ふたつ読み方があったとき、どっちが音読み、どっちが訓読み、はっきり区別できるでしょうか。たぶん、Aのほうが区別しやすい。
A)「籬 まがき/り」「鰭 ひれ/き」「髀 もも/へい/ひ」「輿 こし/よ」「蜷 にな/けん」
B)「簀 す/さん」「駁 ぶち/ばく」「賽 さい/とう」「盂 はち/う」「笈 おい/きゅう」
正解)AもBも、はじめのほうがが、訓読み、後のほうが音読み。
音読み漢字の区別の仕方、法則があります。
あくまでも原則にすぎず、例外がたくさんあります。上記の問題、Aは原則通り、Bは原則からはずれているので、区別しがたいもの。
AとBの音読みをじっくりながめて、法則を見つけだしてください。
音読みの漢字、一音節(ひらがなひとつの読み)は、原則として「音読み」です。
一音節で訓読みの漢字もありますが数は二音節以上の語にくらべて少ない。「胃(い)井(い)卯(う)鵜(う)絵(え)尾(お)蚊(か)木(き)久(く)毛(け)子(こ)他(た)田(た)地(ち)津(つ)手(て)戸(と)~」など、一音節一漢字または二漢字程度。
一方、漢字音読みは、ひらがなでふたつ、二音節で読むことがほとんどです。コウと読む二音節の音読みの漢字は。
工公侯校高鋼江耕甲功好鉱抗項考黄講興交香港洪行攻稿効硬紅光厚昂幸航降鴻康孔弘腔衡購宏皇晃膏向酵郊購更慌鈎口勾肯佼絞慷梗荒後倖広溝控后恰格貢喉恒絞袷篁、、、、まだまだあります。
中国語では声調があり、母音の発音も何種類かあり熟語にすると同音語は少数になるのですが、日本語では上記の漢字の読みがすべて「コウ」になるので、熟語でも同音語が多数になります。コウエンに行ってきた。が公演なのか講演なのか口演なのか。公園なのか後援なのか、文脈がないとわかりません。「光塩に行ってきた」という女子高同窓会の話題だったかもしれません。光塩女子学院という学校の同窓会。
音読みの熟語区別は文脈でなんとかなるとして、留学生にとっては、それ以前にひとつの漢字の音読み訓読みの区別が問題になります。
「梅」は、メイ、バイ、ウメのどちらが音読みでどちらが訓読みなのか。
「梅の宴」を「メイのエンと読むのか「ウメのウタゲ」と読むのか。「梅花宴」だと、バイカのウタゲ、バイカのエン、どちらもありみたいですが。
大宰府展示館「梅花宴を博多人形で再現」」(山村 延燁作)
さて、ウメとバイ。どちらが音読みか、区別する方法があります。「うたげ」と「エン」の区別もかんたん。毎年留学生に教えますが、日本語教師養成コースの日本人学生は、ほとんどこの区別の方法を知らない。小学校でも中学校でも教えていないから。ただ、教科書に出ていた読み方をふたつとも覚えて、ひとつを訓読み、ひとつを音読みで分けて暗記しているから、特にシステマチックな分け方を知らなくても済んできた。
留学生にとっては、「オン」と「オト」のどちらが訓読みなのか、区別がつかない。そこで。
二音節目の読みが「ウクンツキイチ」のとき、音読みです。
覚えかたは次のように。一ヶ月に一回の満月の中でうさぎが餅をついている絵柄を想像して。
「兎君月一(うさぎのウー君が月に一回)」
「オト」後半二音節目の仮名が「ト」ですから、ウクンツキイチに当てはまりません。だから、訓読み。ふたつめの仮名が「ン」である「オン」と「イン」が音読みです。オンは呉音、インは漢音です。
または、月一ウ君
A)に出題した漢字。蜷川幸雄の「にな」の二音節目は「な」ですから訓読み、「けん」は二音節目「ん」ですから音読み。A)は、原則通り区別できます。
B)は、訓読みのほうも一音節だったり、二音節目が「うくんつきいち」になっているので、区別がつかなくて困るのです。
そもそも盂蘭盆会(うらぼんえ)の「盂」に「はち」という訓読みがあることなど、私は知りませんでした。
と言う具合に、「見知らぬ漢字の音読み訓読みは、区別しがたい」ことがわかってもらえましたか。
非漢字圏地域出身の留学生にとっては、この「区別しがたい」が、すべての漢字について起るわけです。すべて初めて見る漢字ですから。
漢字文化圏出身の学生もそう簡単には、日本語の漢字教育すらすらといきません。
韓国、現在は「ハングル表記」が定着していますから、中学高校で漢字を勉強してきた学生とそうでない学生の差が大きい。自分の名前のほか、漢字がわからない、という学生もいます。
ただし、音読みと訓読みの区別はつけられます。韓国人留学生にとって、韓国語の発音に近いほうが音読み、と考えればよい。
「本」は、韓国語読みは「ポン/ボン」です。だから、「モト」と読むほうが訓読み、「ホン」が音読み。「金」は韓国語発音「キム」だから、「キン」が音読み、「かね」は訓読み。
朝鮮韓国語、ハングルでかいてあると、ひとつひとつのことばの意味を暗記していかなければなりませんが、漢字表記をしてあれば、意味が推察できます。
たとえば、「カムサハムニダ」のハムニダは日本語の「ございます」にあたることばですが、「カムサ」は漢字で書けば「感謝」ですから、まったく韓国語をしらない人でも、「感謝ハムニダ」と表記してあれば、ハムニダの部分がハングル表記であっても、「ありがとう」の意味だということがわかります。
ふりがな印刷が簡単にできるようになったので、韓国語の新聞など漢字表記にハングルでフリガナするスタイルだったら、いいのに、と思います。「あったらいいな」アイディアのひとつ。
韓国の人にとって、ハングルは「国の誇り」の表記なので、ハングル表記を大切にすることは、尊重しつつ、これから漢字教育が増えればいいなあと、私は思っています。
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20190804
春庭コラム「漢字について」は、8月後半まで続きます。
<つづく>
ぽかぽか春庭ことばの知恵の輪>再録感じる漢字(14)音読み訓読みう君月一
「部首・鳥と馬」から、「漢字について」を掲載しています。
春庭コラムのなか「漢字」のコラム再録を続けていますが、ああ、この記事覚えている、という方、すっとばしてください。
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2006/06/14 水
ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語ってどんな言語?まずは発音から(35)音読みの原則
漢字の発音を留学生に指導するとき、注意すべきこと。
漢字が単独でひとつあるときは、原則として訓読みで読む。漢字が二つ以上の熟語のときは、音読みで読む。
(漢字2字で訓読みする語や、重箱読み湯桶読みの語を導入することもあるが、初級では「スペシャルリーリング」と説明するにとどめている)
音読み訓読みのルールは指導するが、留学生には、どれが音読みでどれが訓読みなのか、区別がつかないことが多い。
新しい漢字を導入するときに、最初の指導で「音読み」「訓読み」を分けて教えますが、すぐに混同してしまうのです。
たとえば、音という漢字、「オト」「オン」「イン」の読みのなかで、どれが、音読みでどれが訓読みなのか、わからなくなります。
日本で小学校から漢字教育を受けてきた人は、音読みの原則など教わりませんでした。でも、なんとなく、春という漢字をみたら、「はる」が和語の訓読み、「シュン」が漢字熟語のときの発音、音読みという知識を持っています。
「春はあけぼの」という一文をみたら、漢字一字だけなので「はるはあけぼの」と、読みます。
でも、音読みと訓読みの区別がわからない留学生は「しゅんはあけぼの」と読むかもしれません。
「音読みと訓読みの区別くらいわけないだろう」とお思いでしょうか。
では、なじみない漢字を目のまえにしたとき、どの発音が音読みでどの発音が訓読みか、区別できるか、やってみましょう?
10題、出題します。常用漢字外の漢字なので、あまり見たことはないけれど、なんとなく読めるのもあるでしょう。でも、ふたつ読み方があったとき、どっちが音読み、どっちが訓読み、はっきり区別できるでしょうか。たぶん、Aのほうが区別しやすい。
A)「籬 まがき/り」「鰭 ひれ/き」「髀 もも/へい/ひ」「輿 こし/よ」「蜷 にな/けん」
B)「簀 す/さん」「駁 ぶち/ばく」「賽 さい/とう」「盂 はち/う」「笈 おい/きゅう」
正解)AもBも、はじめのほうがが、訓読み、後のほうが音読み。
音読み漢字の区別の仕方、法則があります。
あくまでも原則にすぎず、例外がたくさんあります。上記の問題、Aは原則通り、Bは原則からはずれているので、区別しがたいもの。
AとBの音読みをじっくりながめて、法則を見つけだしてください。
音読みの漢字、一音節(ひらがなひとつの読み)は、原則として「音読み」です。
一音節で訓読みの漢字もありますが数は二音節以上の語にくらべて少ない。「胃(い)井(い)卯(う)鵜(う)絵(え)尾(お)蚊(か)木(き)久(く)毛(け)子(こ)他(た)田(た)地(ち)津(つ)手(て)戸(と)~」など、一音節一漢字または二漢字程度。
一方、漢字音読みは、ひらがなでふたつ、二音節で読むことがほとんどです。コウと読む二音節の音読みの漢字は。
工公侯校高鋼江耕甲功好鉱抗項考黄講興交香港洪行攻稿効硬紅光厚昂幸航降鴻康孔弘腔衡購宏皇晃膏向酵郊購更慌鈎口勾肯佼絞慷梗荒後倖広溝控后恰格貢喉恒絞袷篁、、、、まだまだあります。
中国語では声調があり、母音の発音も何種類かあり熟語にすると同音語は少数になるのですが、日本語では上記の漢字の読みがすべて「コウ」になるので、熟語でも同音語が多数になります。コウエンに行ってきた。が公演なのか講演なのか口演なのか。公園なのか後援なのか、文脈がないとわかりません。「光塩に行ってきた」という女子高同窓会の話題だったかもしれません。光塩女子学院という学校の同窓会。
音読みの熟語区別は文脈でなんとかなるとして、留学生にとっては、それ以前にひとつの漢字の音読み訓読みの区別が問題になります。
「梅」は、メイ、バイ、ウメのどちらが音読みでどちらが訓読みなのか。
「梅の宴」を「メイのエンと読むのか「ウメのウタゲ」と読むのか。「梅花宴」だと、バイカのウタゲ、バイカのエン、どちらもありみたいですが。
大宰府展示館「梅花宴を博多人形で再現」」(山村 延燁作)
さて、ウメとバイ。どちらが音読みか、区別する方法があります。「うたげ」と「エン」の区別もかんたん。毎年留学生に教えますが、日本語教師養成コースの日本人学生は、ほとんどこの区別の方法を知らない。小学校でも中学校でも教えていないから。ただ、教科書に出ていた読み方をふたつとも覚えて、ひとつを訓読み、ひとつを音読みで分けて暗記しているから、特にシステマチックな分け方を知らなくても済んできた。
留学生にとっては、「オン」と「オト」のどちらが訓読みなのか、区別がつかない。そこで。
二音節目の読みが「ウクンツキイチ」のとき、音読みです。
覚えかたは次のように。一ヶ月に一回の満月の中でうさぎが餅をついている絵柄を想像して。
「兎君月一(うさぎのウー君が月に一回)」
「オト」後半二音節目の仮名が「ト」ですから、ウクンツキイチに当てはまりません。だから、訓読み。ふたつめの仮名が「ン」である「オン」と「イン」が音読みです。オンは呉音、インは漢音です。
または、月一ウ君
A)に出題した漢字。蜷川幸雄の「にな」の二音節目は「な」ですから訓読み、「けん」は二音節目「ん」ですから音読み。A)は、原則通り区別できます。
B)は、訓読みのほうも一音節だったり、二音節目が「うくんつきいち」になっているので、区別がつかなくて困るのです。
そもそも盂蘭盆会(うらぼんえ)の「盂」に「はち」という訓読みがあることなど、私は知りませんでした。
と言う具合に、「見知らぬ漢字の音読み訓読みは、区別しがたい」ことがわかってもらえましたか。
非漢字圏地域出身の留学生にとっては、この「区別しがたい」が、すべての漢字について起るわけです。すべて初めて見る漢字ですから。
漢字文化圏出身の学生もそう簡単には、日本語の漢字教育すらすらといきません。
韓国、現在は「ハングル表記」が定着していますから、中学高校で漢字を勉強してきた学生とそうでない学生の差が大きい。自分の名前のほか、漢字がわからない、という学生もいます。
ただし、音読みと訓読みの区別はつけられます。韓国人留学生にとって、韓国語の発音に近いほうが音読み、と考えればよい。
「本」は、韓国語読みは「ポン/ボン」です。だから、「モト」と読むほうが訓読み、「ホン」が音読み。「金」は韓国語発音「キム」だから、「キン」が音読み、「かね」は訓読み。
朝鮮韓国語、ハングルでかいてあると、ひとつひとつのことばの意味を暗記していかなければなりませんが、漢字表記をしてあれば、意味が推察できます。
たとえば、「カムサハムニダ」のハムニダは日本語の「ございます」にあたることばですが、「カムサ」は漢字で書けば「感謝」ですから、まったく韓国語をしらない人でも、「感謝ハムニダ」と表記してあれば、ハムニダの部分がハングル表記であっても、「ありがとう」の意味だということがわかります。
ふりがな印刷が簡単にできるようになったので、韓国語の新聞など漢字表記にハングルでフリガナするスタイルだったら、いいのに、と思います。「あったらいいな」アイディアのひとつ。
韓国の人にとって、ハングルは「国の誇り」の表記なので、ハングル表記を大切にすることは、尊重しつつ、これから漢字教育が増えればいいなあと、私は思っています。
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20190804
春庭コラム「漢字について」は、8月後半まで続きます。
<つづく>