挫折した音楽家の青年と脳に障害を負ったピアニストの少女との宿命的な出会い。そして山奥の診療所で遭遇する奇蹟。選考委員も泣いた!これぞ癒しと再生のファンタジー。第1回『このミステリーがすごい!』大賞金賞受賞作品。
解説にもあるように、第1回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作品。単行本でもそこそこ売れたが、文庫に入ってから爆発的なベストセラーになった。若い層にうけた、ということなんだろう。わたしは単行本で読んだけれど、巻末に大賞の審査経過が載っていて、これが笑わせてくれる。選考委員たちがなにより気にしているのが(あるいは気にしたふりをして見せているのが)、この作品と同じ発想の先行作品があるということ。ミステリーおたくには偏狭なヤツが多く、「これは東野○吾の××のパクリじゃないか!」とか、「北○薫の△△とかぶってるぞ!」と騒ぎ立てることが予想されたからだろう。何より審査員に向かって「そんなことも読みとれなかったのか」と因縁をつけられるのがうざったいため、布石を打っておいた、というところか。
しかしわたしは、よほど悪質なパクリでもないかぎり、多少ネタがかぶろうがトリックにオリジナリティが無かろうが一向にかまわないと思う。ミステリーが生まれてすでに百年以上がたち、まずたいがいのトリックは(密室やアリバイ崩しをはじめとして)出尽くしている。だいたいジャンル自体がポーのパクリだしね。
「四日間の奇蹟」がはらむ問題は、そんなことより、ネタの制約から仕方のないこととは言え「ヒロインにそこまで語らせなければならないのか」という点。でも、デビュー作だし、そのくらいは目をつぶろう。むしろ「岡持ち」や「オムライス」(なぜヒロインは最後の最後にオムライスを食べることができるようになったのか)といった小道具でミステリー的興味をつないだ趣向の方を評価しよう。「癒し系」であることだけが売りの作品じゃなくて、よかったよかった。