行きつけの本屋の女将(って言い方も変だが)が、バガボンドの新刊でも出ていないかと立ち寄ったわたしにツツツと寄ってきて
「ホリさん!今週号の週刊文春読んだ?」ときいてくる。
「……いいえ。」オヤジ系週刊誌を読む習慣はない。
「椎名誠のコラム読んでみれ。ほれ、ほれ」と開いて見せてくれる。
「あれまー」
読んでびっくり。ちょいと引用すると……
旅人(オレのことだけど)はフト山形県酒田市にさしかかり、とあるラーメン屋に入った。思いがけなく活気のある店であった。そしてその店の壁にはざっと30品目ぐらいの麺料理が書かれており、しかもなんとワンタンメンと書かれている札は店の壁の一番右端の、つまり“一般的大衆料理店の壁の品書き順列右端最優先位置”に煌々かつ粛々と掲げられており、ワンタン関係だけで他に四品目程の家来どもを従えているのであった。
ん?
旅人の目が妖しく光ったのはいうまでもない。さっそく「ワンタンメン」を注文したのだが、いやはやこれが絶品なのであった。(略)それまでまったく知識の片鱗もなかったのだが、この酒田というのは隠れたる旨ラーメン地帯で、老舗はたいてい自家製麺。関東のラーメン屋の5~10パーセントにたいして酒田はなんと八割の店が自分のところで麺を打っているのである。(略)酒田が間違いなく日本の、いや世界のワンタンメンの未来を担っている、ということがよくわかったのである。
風まかせ赤マント「ワンタンメン突撃隊」
……ね?ほぼ2ページ酒田のワンタンメンを激賞しまくっているのである。女将の戦略にのって文春を買わされたけれど、どうせ明日になれば職場でオヤジどもが「読んだか文春?」と始めるだろうし、緊急に特集。もう知ってます、と返してやってください。文春のメイン購読者である30~40歳代のサラリーマンにとって、椎名誠は一種のカリスマだし、ひょっとしたら酒田のワンタンメンブームが静かにやってくるかもしれない。それにしても地元の人間がいちばんそのありがたみが分かっていないのかも。その本屋の女将も「いやー実はあたし、その店行たごどなくてー」と脱力することを言ってたぐらいだし。
あ、肝心のその店とは、市役所近くの「川柳」というラーメン屋です。