事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「半落ち」横山秀夫著 講談社文庫

2008-01-05 | ミステリ

Hannochi  まずは原作の方からふれよう。例の横山秀夫直木賞落選事件について。

第198回直木賞選考会においてこの小説の肝の部分が「ミステリーとして成立しない」と判断されて落選。おまけに「このような重要な設定の事実誤認を指摘しないミステリーの業界が悪い」とまで選考委員に皮肉をかまされてしまった事件。発言したのが「バトル・ロワイヤル」にも難癖をつけた林真理子。このバカはさらに『オール読物』3月号の選評で、「落ちに欠陥がある。しかしそれほど問題にもならず、未だに本は売れつづけている。一般読者と実作者とは、こだわるポイントが違うのだろうか」とまで書いている。さらに読売新聞がこの騒動の尻馬に乗り、落ちまで完全に明かしておいて「ミステリー界には耳の痛い話ではないだろうか」と報じ……横山は怒り、林真理子の発言はミステリー・ファンへの侮辱だとしてついに直木賞決別宣言を出すに至った。

これはもう完全に林真理子が悪い。この人の性根のほとんどは“嫉妬”が占めている。注目されるのが好きだから問題発言を連発し、おまけに自分の小説よりも売れ、子分になりそうもないタイプには徹底して冷たく……早くこんなヤツ選考委員から外せよ文春!おわびに横山の新作「クライマーズ・ハイ」を文春のベストミステリに選んでも今さら遅いと思うけどなあ。

Hanochi01 さて映画のほう。嫌な予感はしていたけれど、完璧に的中。大芝居の連続に辟易。前半の、主人公志木と警察内部の隠蔽体質との軋轢が効いていないため、後半の「空白の二日間」の部分が単なるお涙頂戴劇になってしまった。柴田恭兵や伊原剛志はもっといい役者のはずなんだが。それらすべてを補ったのが寺尾聰。もうこれ以上はないくらいの力の抜けっぷり。実は倫理的に問題のある落ちも含めて、この演じ方しか無かったろう。妻を絞殺するシーンも慎重に排除されてるし。おかげで観客はわたしや妻をふくめて滂沱の涙。こんなに泣いたの「砂の器」(松竹の映画の方)以来じゃないか。いやーそれにしてもさすが東映、ラストシーンは完璧に時代劇だったなあ。

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「このミステリーがすごい!」宝島社刊

2008-01-05 | ミステリ

Konomys08 「このミステリーがすごい!」(以下、このミス)は、1987年から宝島社がわずか64ページのブックレットとして刊行を開始したブックガイド。別冊宝島シリーズの熱心な読者であり、ついでにミステリー好きだったわたしは、スタートの88年版から購入している。

今から思えば幸運だったのだが、その管理のいい加減さで有名な(高橋源一郎からは原稿料未払いで、別冊系はその過激さから訴訟が絶えず……さすが社長が元革マル)宝島社は、ほとんど在庫がないらしいので、今ではすっかりメジャーになったこのシリーズ、わたしの蔵書もひょっとしたら高く売れるかもしれない。

 当初のコンセプトは、当時ミステリーではただひとつの指標だった週刊文春のランキングが、あまりにもファンの嗜好とかけ離れていることへのアンチである。文春の方は推理作家協会員による投票で決定するが、要するに内輪ボメの世界にすぎず、その票数だってちゃんと集計しているか怪しいし、ロクに読んでもいない連中が投票しているため、江戸川乱歩賞受賞作がどんなに駄作でも強い傾向があった。

それが今では年末の情景として「このミス第○位!」なんて腰巻きが堂々とランク入りした本には飾られ、一種の権威になりおおせている。

Konomisu_02 しかし、このミスは近ごろ、ミステリー界の停滞と連動して絶不調に見える。投票者がミステリーオタクが多いため、作品傾向がそれぞれマニアックに走りすぎているのだ。今年(03年)のランキングを見てもらおう。今年はどう考えても「終戦のローレライ」か昨年に続いて横山秀夫の連覇だろうとふんでいたのに、トップはなんと本格オタク御用達の歌野晶午。評者たち自身があまりの意外な結果にうろたえているのだ(笑)。ま、「葉桜の~」は読んでないから何とも言えないんだけどさ。さあ果たしてあなたはこのなかの何冊読んでいるだろう。ちなみにわたしは②③④⑥の4冊。海外編にいたっては0冊でした。ああ、高村薫や逢坂剛、そして原尞が君臨していた時代が懐かしいっす。

03年このミストップテン
1位 「葉桜の季節に君を想うということ」歌野晶午
2位 「終戦のローレライ」福井晴敏
3位 「重力ピエロ」伊坂幸太郎
4位 「第三の時効」横山秀夫
5位 「グロテスク」桐野夏生
6位 「陽気なギャングが地球を回す」伊坂幸太郎
7位 「クライマーズ・ハイ」横山秀夫
8位 「月の扉」石持浅海
9位 「流れ星と遊んだころ」連城三紀彦
10位 「ワイルド・ソウル」垣根涼介

……「葉桜~」は後に読みました。これがベストワン?(T_T)文春のランキングが次第に「このミス」とダブってきて、自社本の強さをのぞけばまっとうなランキングになっているのと真逆に、「このミス」の独善性は次第に強くなっていく。そして07年末からは、ミステリ・マガジンの「わたしのベスト3」が、このミスと体裁までほとんど変わらない形で刊行開始。やれやれ。

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