第二球はこちら。
さすがの宮藤官九郎も今回は苦労するんじゃないかと思っていた。なにしろ
①主人公はとっくの昔に死んでいる。
②前作が「日本シリーズ」だから「ワールドシリーズ」にタイトルだけは決定している。
③しかもどんな形であれ完結させなければならない。
……なめてました。手練れである宮藤は、そのすべてを逆手にとってみごとな作品に仕上げているのだ。
まず、主人公のぶっさんが死んでいる問題だが、死んだ野球選手が現世にもどってくる話といえばあれだろ、と「フィールド・オブ・ドリームス」の設定を臆面もなくパクり、しかもあの映画と同じレベルで泣かせることに成功している。
おまけにワールドシリーズだからアメリカ人を登場させなければならないのに、まず出てくるのが韓国人(キャッツアイのおなじみのフレーズ「ビール!ビール!」がいきなり「JINRO! JINRO!」になっていたのには笑った)とロシア人だったというひっかけ。
そして肝心のアメリカ人を「タイガー&ドラゴン」でさんざん笑わせてくれた橋本じゅんに演じさせる厚顔さ(「日系デース!」にもひたすら笑った)。
そして問題はラストだ。
「木更津キャッツアイ」の最大の美点は、一種の難病ものなのに、主人公が病院のベッドで死んでいく場面を排除していることにあった。
いや、あることはあるんだけど何しろことごとく生き返っちゃうから(笑)。しじみの貝殻も何度も効果的に使われていたしね。
それが今回、ちょっとびっくりするタイミングで父子の別れが描かれ、そしてそのことが、“よみがえった息子を、なぜ父親だけが見ることができなかったか”という謎に決着までつけるという離れ技を決めているのだ。
TVシリーズオンエア時には地味なキャストに思えたものが、今やすっかり豪華キャストになっていることにあらためて時の流れを思う。
エンドタイトルで数々の名場面がサービスされるが、やはりこのドラマは
「息子を『公平くん』としか呼ぶことが出来ず、死にゆく息子への哀惜を、和田アキ子のものまねでしか表現できない父親」
と
「罵倒と軽口しか感情の表し方を知らず、ゆえに父親に最後まで感謝の言葉が言えない息子」
の物語だったのだとつくづく。母親の不在はだから必然だったし、ユンソナが演じる妻が徹底して軽かったのもそのせいだ。わたしも、となりにすわった息子も泣きながらこのシリーズの終焉を見守ったが、だからといって急に「絵に描いたような仲のいい親子」を演じられるわけでもないわたしたちだからこそ、思いきり泣けたのかも。にゃー。
「マンハッタンラブストーリー」につづきます。