「お父さんと、この夏の思い出とかありますか?」
「いっしょにキャンプに行きました」
「楽しかった?」
「楽しかった」
面接後、父は息子にたずねる。
「キャンプなんか行かなかったじゃないか」
「塾の先生がそう言えって」
仕事にかまけて子育てを妻(尾野真千子)に丸投げしている男(福山雅治)を一発で描写。
チェンジリング(取り替え子)の話はつらい。どうしたってみんなが満足するエンディングになるはずがない。だから敬遠していたの。シネコンでの上映も終わり、もう劇場で見ることもないのかな、是枝作品はみんな見ているのにちょっと残念かな………まさか鶴岡まちキネでこの時点で上映とは。これも運命だ、気合いで見よう。
途中までは「だから見たくなかったんだよなあ」という描写がつづく。仕事が忙しいと言いながら、子どもとちゃんと向き合うことをさけ、自分の殻に閉じこもる父親。これって要するに理解のあるふりをしながら子どもに本気でコミットできずに自室でひたすら飲みまくっていたオレじゃないか!
という具合に激しく観客の感情をゆさぶっておいて、しかしそこから先に是枝は客をどこかへ誘導しようとはしない。ドキュメンタリー出身作家だけに、淡々と“本来こうあるべきだったはずの親子”を描写する。
親子にとって血とはなんだ。過ごした時間とはなんなのだ。静かに考えさせ、『そして父にな』った福山を温かい気持ちで見つめながら映画館を出る。ふう。いいもん見せてもらった。
是枝のガキの扱い方はもう名人級。「パッチギ!」以来のヤンキーぶりをみせてくれた真木よう子がうれしい。生活力がないくせに、子どものおもちゃの修理がやけにうまい、つまり嫌な野郎(笑)であるリリー・フランキーのみごとさは、もう指摘するまでもありません。
ただ、冷静なエリートを演ずる福山をみごとだと思いながら、彼の役を阿部寛がやったらどうだったろう、夏八木勲の役は原田芳雄でも、と考えていたのは確か。
樹木希林や井浦新(わたしにとってはいまだにARATAですが)など、いつもの是枝ファミリーがうれしい。
「養子とか里子とかは普通のことだったのにねえ」
これ、樹木希林以外の誰が言ってもアウトだったでしょう。あ、ちょっとネタバレ。