“自由黒人”が(この表現も微妙だが)、奴隷商人に拉致されて南部に売り飛ばされる。彼はしかし誇りを失わず、身分を証明して故郷に帰り、人種差別撤廃にむけた運動に取り組む……重いテーマであることは確かだし、描写もかなりきつい(PG-12)。ヘアなんかを問題視していた時代はもう遠くに。
見終わってもう一本、と考えていたけれども、お腹いっぱい。フォーラム山形から酒田に速攻で帰る。
クルマを転がしながら、わたしは「マンディンゴ」という70年代の映画を思い出していた。人種差別の背景に、セックスがあると主張しているかのような黒い映画。
白人の男が黒人を差別する裏には、自分の妻を寝取られるのではないかという怖れがあると喝破していたのである。つまり、黒人の方がセックスが強いという偏見が白人を怯えさせ、加虐に走らせるのだと。
もちろん今年度アカデミー作品賞をゲットしたこの作品はそんなに黒いタイプの映画ではない。黒人奴隷たちの日常とはどんなものだったのかを静かに静かに描いていく。
延々と綿花を摘んでいるんでしょう?とお思いのあなた、それだけではないんですよ。安価な労働力として、彼らはあらゆる労働(サトウキビの収穫、大工仕事、木こり……)にかり出される。そして夜は……
近ごろどんな映画にも出てくると思えそうなベネディクト・カンバーバッチとマイケル・ファスベンダー。この若手色男ふたり(どちらもすばらしい演技だ)が、かたや英明で黒人に理解を示し、もう一方は所有物としてさいなむ。
でも、借金がかさんでいるから、と主人公を手放すカンバーバッチと、奴隷を愛してしまい、だからこそ肉体的に痛めつけ、自らも傷ついてしまうファスベンダーは、根っこのところでいっしょだ。
白人男と黒人女、黒人男と黒人女、さまざまなセックスが描かれるが、ほとんどがほぼ無音のなかで行われるあたりがせつない。そしてラスト近く、誰が真の意味で誰を愛していたのかがあらわになり、グッとくる。
スティーブ・マックィーン(この名前は誰しもが忘れられないですわね)監督の描写はまことにクール。しかもカットとカットのつなぎがすばらしい。
蒸気船の航跡を静かに映し、次のシーンで殺された黒人がその航跡を漂うカットを入れるなど、うなる。だから重い作品でもあっという間に見終わった印象。すばらしい作品。製作はブラッド・ピット。