へとへとに疲れて帰宅し、車庫の扉を閉めると、遠くからニャーと鳴きながらうちの猫は全力で走ってくる。そうかそうかそんなに俺の帰りを待っていてくれたのか。
ジーンとなってなでてやろうと身構えると、いきなり方向変換してそっぽを向いたりする。敵はなかなかのタマである。いや名前はタマじゃなくて伊織ですけど。
もう8才なので老境に近いのだろうが、旅先で「会いたいなー」と思うのは息子や娘ではなく、妻でもなく(ないしょにしてね)もちろん父でもなく、この伊織だ。
布団のなかに侵入してきて、やすらかに眠っている姿を見ると
「愛いやつ」
と時代劇のようなセリフが出てきてしまう。
「猫侍」の成功は、誰よりも脂っこい顔である北村一輝に猫を抱かせようと企画した瞬間から約束されていた。それはもう見事なくらいにはまっている。
剣の腕は一流。かつて人斬りと怖れられ、指南役までつとめた侍が、ある理由で浪人となる。それは、彼が突然人を斬れなくなったから。ということでこの作品は山本周五郎の「ひとごろし」(主演松田優作)、中野裕之の諸作(「RED SHADOW 赤影」「SFサムライ・フィクション」)、松本人志の「さや侍」のような、殺さずの系譜につらなっている。
対立するやくざの真ん中に腕利きの素浪人、とくれば誰だって黒澤明の「用心棒」を連想する。三船敏郎はそれこそバッサバッサとやくざを斬り捨てたが、北村一輝が演じる斑目(まだらめ)久太郎はそうはいかない。しかも左手には猫までかかえている。絶体絶命。
しかし、そんな斑目を救ったのは……
TVKとかBSフジとかマイナーな局が金を出し、撮影は日光江戸村オンリー。キャストも地味だし(齋藤洋介は年を取りましたねえ……あ、むかしからあんな感じだったか)、安手の印象はもちろんぬぐえない。でも、テーマソングは真心ブラザーズだし、高らかにひとつのテーマをうたいあげている点で必見です。
曰く「人間は猫のもとに平等!」