鈴木則文(のりふみだとばかり思っていましたが、のりぶみが正しい)は、わたしの世代にとっては圧倒的に「トラック野郎」の監督。75年から79年にかけて公開され、大ヒットを記録したこのシリーズを、実はわたし、一本も見ていません。
菅原文太は大好きだし、下品なのもかまわない。寅さんの二番煎じなのもかまいはしない(なにしろわたしは寅さん嫌いも広言していたし)。でもね、わたしは文太とコンビを組んだ愛川欽也がどうしてもダメだったの。
まあ、それはともかくこの「東映ゲリラ戦記」には、そのトラック野郎でヒット監督となる前、東映がなにをやっても客が入らずに悪戦苦闘していたころ、彼が会社に命ぜられて放ったB級、C級作品のことがつづられている。いやあさすが東映、めちゃめちゃです。エピソードがそれぞれ笑える。
・天尾完次プロデューサーに週刊誌のグラビアを見せて
「おい、エリザベス・テーラーがおるぞ」
と見せたのが池玲子。もうひとりの妹役もついでに連れてきた。なんと杉本美樹。しかし撮影時に池玲子は16才だったので、2才“さばをよんで”18才ということにした。
・その作品名「温泉たこつぼ芸者」は、岡田茂社長の鶴の一声で「温泉みみず芸者」に変更。
・「現代ポルノ伝 先天性淫婦」の撮影のため来日したサンドラ・ジュリアンは、日本の風習である前貼りに「なぜそんな不自然なことをするのか。アンダーヘアだって人間の体の一部ではないか」と拒否。池玲子たちもそれにならった。
・東映京都撮影所所属のベテラン女優牧淳子が杉本美樹の時代劇における所作を猛特訓。しかしそれ以上にベッドシーンの指導がおみごとなので殺陣師(たてし)ならぬヨコ師と呼ばれた。
・実写版「ドカベン」においてデビューしたのが永島敏行。
・他にも志穂美悦子、真田広之、多岐川裕美の売り出しに成功。もっとも失敗例も多数(笑)。
……とにかく東映という会社がアナーキーなのは、これまで「嗚呼!活動屋群像」、「シネマの極道」、「昭和の劇」で特集してきたように、作り手の回想がやたらに面白いという一点でも理解できますね。
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