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ああ妻も安保反対デモに行ってしまいました。お留守番はつらいー。
のちに「隠岐騒動」と呼ばれることになる島民の蹶起は、多くの革命の発端がそうであったように税が原因だった。
幕府の直轄領である隠岐は、その仕置きを松江藩に預けられている。北前船が回航するなどで経済活動が変化したため、庄屋を経由して年貢を納めるという徳川幕府の基礎が崩れていく。良港をかかえる隠岐はその典型。
しかし武士たちはその変化に気づかず、あるいは気づいていても対応しようとはしない。ひたすらに、島民から搾取する。
大塩平八郎が乱を起こしたのはまさしくそのためだったし、他にもさまざまな一揆が勃発するが、江戸の動きは鈍く、ために先覚者たちは国学の隆盛もあって天皇に期待をかける。まさしく、明治維新とはこの素地の上になりたっていたと知れる。
わたしは途中まで読んで、先日読んでいた「明治維新という過ち」(原田伊織著)との相違を思っていた。そうは言ってもやっぱり徳川の世は腐っていたのだから、維新は仕方がなかったのでは、と。
しかし、飯島和一の筆はそんな予想をはるかに超えた。
これまで、
「雷電本紀」
「神無き月十番目の夜」
「始祖鳥記」
「黄金旅風」
「出星前夜」
と、反骨の物語を書き続けてきた山形県人の誇りは、島民を救うはずだった維新政府の悪辣さも同時に描く。残る公文書では、島民を土人あつかい。かつて琉球を搾取した薩摩が主軸にいる政府らしいお話。第一、この反骨の書が、沖縄の現在を意識して書かれなかったと想像する方が不自然だ。
苦いお話だけれども、常太郎の視線が静かでスクエアであるため、読者も冷静に権力の腐敗を見つめることができる。
大塩が権力を糾弾した檄文がこの作品のテーマではあるが、しかし文学として単なる檄文には終わっていない。つくづく、この作家が直木賞を辞退しているのがもったいないと思うのでした。
文句なく今年のわたしのベストワンです。次作は来年刊行されるとか。ほんとですか。また6年も待たせるんじゃないでしょうね。