原題はOur Kind of Traitor。われわれのような種類の売国奴、あるいは裏切り者。スパイの側から、ある人物が同種の人間であることを象徴しているように見せて、しかし実は……な展開。
のっけに登場するのはいかにも幸福そうなイギリス人のカップル。バカンスに出かけたカリフ海で、不思議なロシア人ファミリーに出会う。彼らは執拗にカップルにコンタクトをとってくる。その真意とはなにか。
オックスフォードの講師という職業に不満を持ち、人生を変えたいと思っている男、キャリアを積み上げたいと願う女性弁護士というカップルに、微妙な気持ちの差異があるのは当然だ。ル・カレはそのあたりを絶妙に描く。
彼らがロシアン・マフィアであるマネー・ロンダリングの第一人者を(組織を裏切ることを条件に)イギリスに送ることができるのかがメインのストーリー。
しかし魅力的なのはカップルをサポートするイギリス諜報部で、人事や年金受給権や決裁といったさまつなことにこだわり、そして武器にする。さーすがMI6出身でスマイリー三部作を書いた人は内情をよく御存じだ。あの「裏切りのサーカス」の原作者ですもの。
女好きであることで家庭が破綻している諜報員、不出来な息子をかかえながら縦横に諜報部をゆさぶる有能なリーダー(わたしはマックス・フォン・シドーをイメージしていました)など、激しく魅力的。
映画化の予定ありとのことだけど(主演ユアン・マクレガー、リーダーにレイフ・ファインズ……って007のMとかぶんないか)。むせかえるイギリス臭がひたすら心地いい。悪党どもがいつもテニスをしていて神戸牛を食べているという設定には笑わせてもらいました。
しかしラストはもうひとひねりなかったろうか。こう不満に思うのは、わたしが近ごろの、異様にどんでん返しが多いミステリばかり読んでいるせいかな。なにがわかんないって、ル・カレが岩波書店から出てるってのがいちばんのミステリ。