なぜかダイアー・ストレイツの「マネー・フォー・ナッシング」がラジカセ(!)から流れ、正体不明のヘリがイスラムの城砦を爆撃する。砕け散った瓦礫が次第に形をなしてタイトルに変貌……わはははは、なんて馬鹿なオープニング。
「キック・アス」、「X-MEN ファースト・ジェネレーション」のマシュー・ヴォーンの新作は、なんとスパイ映画だった。しかも、わたしの大好きなタイプの。
設定がまず泣かせる。ロンドンのサヴィル・ロウ(背広の語源となったという説もある名門紳士服店街)に「キングスマン」という店があり、その地下には正義をめざす秘密組織のオフィスが。
所属する凄腕ぞろいのエージェントはすべて貴族の生まれで、軽口をたたきながら悪とのバトルを日夜つづけている……いやあ60年代のスパイものの匂いがプンプンします。「ナポレオン・ソロ」(新作は駄作の匂いがプンプンしますけど)、ジェームス・コバーンの「電撃フリントGO!GO!作戦」、ディーン・マーティンのサイレンサーシリーズ。そして、007(ダブルオーセブンじゃなくてゼロゼロセブンと呼ばれていた時代の)。
特にボンド映画はめちゃめちゃに意識していて、マティーニはジンじゃなくてウォッカベースでつくれとか、悪女ガゼルが義足なのはドクター・ノオの義手を意識してるじゃろとか。他にもいろんな作品のエッセンスをこれでもかと詰めこんでいる。
もっと露骨なのは、監督も出演者も製作者もイギリス人なので、徹底してイギリスにこだわっていることだ(メインの出資者は20世紀FOXだけどさ)。
主演はいかにもイギリス人なコリン・ファース。国王の役までやってますもんね。彼のスーツ姿は本当にすてき。スーツは鎧(よろい)だ、というセリフがしゃれじゃなくて、マジでエージェントが着るスーツは防弾仕様となっております。暑いだろうなあ。
キングスマンのリーダーはマイケル・ケイン。彼も、いかにもイギリス。エージェントは上流階級出身でなければならないという考えに凝り固まっている。コリン・ファース演じるハリーはそのことに反駁していて……以下次号。