PART1はこちら。
ストーリーは、長崎留学から江戸にもどった青年医師、保本(やすもと…加山雄三)が貧困者の救護のためにつくられた小石川養生所を訪れるシーンから始まる。彼はただ単に訪問するだけのつもりだったが、ある事情から養生所に勤務することを強いられてしまう。案内する先輩医師(江原達怡)は
「ここにはね、赤ひげという独裁者がいる」
と保本に忠告する……
まず、この小石川養生所のセットに驚かされる。屋根瓦の重み、それを支える柱の強靭さまでモノクロ画面から伝わるのだ。天皇と呼ばれた黒澤明の執念がここにある。
独裁者である赤ひげ(三船敏郎)に反駁する保本が、次第に心を開き、貧困とたたかうことを決意するまでの物語。原作は山本周五郎の連作「赤ひげ診療譚」。この映画の脚本は、それらにドストエフスキーを加えて骨太の物語をつむいでいる。
もっとも、もとは短篇なので、いくつかのパートに分かれている(3時間5分の長い尺だから休憩も入ります。館内は暗いままなのでおじいちゃんおばあちゃんたちはトイレに行くのに苦労してた)。順を追って見ていきましょう。
◆「狂女」
養生所の一画に離れが建っており、牢獄の造りになっている。そこには赤ひげと賄い女中のお杉(団令子!)しか入ることが許されない。その離れにいるのは、お店(たな)の男三人を刺し殺した美女。ある夜、その狂女が離れを抜け出してしまう……
このパートは歴然とヒッチコックを意識したと思います。やけ酒を飲む保本の部屋の前を、視線を動かさずに通り過ぎる美女の描き方など、恐怖映画としても一級品。
幼いころの性的トラウマから、男を怖れ、同時に求めてしまう女。保本が、それを知っていても蠱惑されてしまう設定なので、絶世の美女にしか演じられない。香川京子はみごとに体現しています。すごいですよこの映画の彼女は。以下次号。