今年度江戸川乱歩賞受賞作。選考委員会は大荒れだったらしい。有栖川有栖と石田衣良、辻村深月がこの作品を推し、逆に池井戸潤と今野敏はボロクソ。
かえって読んでみたくなる。わたしがY町の図書館で借り、そのままS市の図書館に行ったら、同僚がちょうどこの本を借りているところだった。
「予約してたんだ。いつもはあまりミステリは読まないんだけど」
確かに、タイトルはわたしたちの業界にはおなじみで興味がそそられるもんね。
ある事件のために休業状態にあるビデオジャーナリスト。彼が住む町で連続いたずら事件が起こる。現場には
『生物の時間を始めます』
『体育の時間を始めます』
といったメッセージが残されていた。そして地元で影響力を持つ名家出身の陶芸家が死んでいるのが発見される。状況はどうみても自殺。しかしそこには
『道徳の時間を始めます』
というメッセージがあった。殺人なのか?ほかの事件との関係は?
……設定はすばらしいですよね。特に、かつて小学校の講堂で、約300名の衆人環視のなか、ある青年が講師である教育者を刺殺した事件が影響してくるあたり、うまい。
ただし、やっぱりわたしもこのミステリには文句がある。
・主人公のビデオジャーナリストが情緒不安定すぎてついていけない
・背景には、ある動機がひそんでいるが、これはいくらなんでも……
そして
・道徳の時間、という魅力的なタイトルと事件が、あまり関連していない
というのがちょっとなあ……。大好きな有栖川さん、そのあたり、どうなんでしょう?