その4「あぽやん」はこちら。
主人公のあぽやん遠藤は、上司に反抗して成田に飛ばされた熱血漢。つまりは日本人がこよなく愛する「坊っちゃん」気質の持ち主だ。くさっていた彼は、職場の先輩や客たちとの交流のなかで、成田勤務のやりがいを見出していく。
続篇の「恋する空港 あぽやん2」「あぽわずらい あぽやん3」と一気に読み通して、わたしもこの主人公、遠藤のことが好きになった。どうしたってそうなる。
ただし、作者の新野剛志は、客への徹底したサービスにまい進する遠藤を相対化するために、コストダウンが必要だと主張するキャラも登場させている。そんなことだから日本航空は破綻してしまったのではないかと。お仕事小説として、読み応えのある部分です。
この業界の裏もオモテも描き切ったこの作品は、あぽやんだった過去を持つ新野しか書けなかっただろう。第三作にいたって遠藤は、同僚を守りたいという気持ちと、コスト削減のために、仕事と契約社員をカットする役目とのはざまで思い悩み、空港に行くことができなくなる。
鬱病と、そこからの回復過程のリアルさ(ここは泣かせる)もまた、新野自身の経験のようだ。彼はあぽやんをつづけながらも、突然退社し、あろうことかそのまま失踪した過去をもっている。そしてホームレスの生活をつづけながら書き上げたのが江戸川乱歩賞受賞作「八月のマルクス」だったとか。うわあ気合い入ってるなあ。
さて、空港が舞台とくればテレビドラマにうってつけではないかと思ったら、もうオンエアされていた(TBS木曜9時。日本航空全面協賛)。ドラマにうといにもほどがありますね。
主役の遠藤に伊藤淳史、前の恋人に貫地谷しほり、新しい恋人に桐谷美玲、か。悪くないけれど、ちょっと違うかなあ。
というのも、この小説には一貫して苦みのようなテイストがあって、その部分こそが読みどころだからだ。まあ、見ていないのでどんなドラマだったかはわからないのだけれど。
読み終えて、はたして遠藤はいまどうしているだろうと気にかかる。日本人の誰もが、漱石「坊っちゃん」のその後が気になるように。
その6「東京ブラックアウト」につづく。