ヤエヤマヒメボタル Luciola filiformis yayeyamana は、ホタル科(Family Lampyridae)ホタル属(Genus Luciola)でゲンジボタル Luciola cruciata やヒメボタル Luciola parvula と同じ仲間のホタルである。
和名に関しては、石垣島ではヤエヤマボタルと呼ばれてることが多い。1918年に松村松年によってヤエヤマボタルとして記載され、大場信義氏の本では、ヤエヤマボタルとの表記が多いことからだと思われるが、一般的に使われている原色日本甲虫図鑑(III)には ヤエヤマヒメボタルが使われており、また、九州大学農学部の日本産昆虫目録にもヤエヤマヒメボタルが使われている。更には、和名を統一することも視野に入れてKawashima et al (2003)が日本産ホタルの分類に関する問題点を整理し、ヤエヤマヒメボタルとしていることからも、本ブログでは本種の和名をヤエヤマヒメボタルとした。
ヤエヤマヒメボタルは、石垣島と西表島に生息し、オスは体長約5mm、メスは上翅が腹部の1/2の長さまで退化し、後翅は完全に退化して飛ぶことが出来ない。幼虫は林内で過ごし生態はヒメボタルに類似していると思われるが、未だ不明な点が多い。
今回の石垣島遠征は、このヤエヤマヒメボタルの観察と撮影が一番の目的であった。初めての石垣島。インターネットで検索すると大まかな生息範囲は分かるが、必ず見られる保証はない。そこでツアーガイドを行っている方を日本ホタルの会の理事より紹介いただき、一か月前にその方のホームページより参加申し込みをした。しかしながら、いつになっても返信がない。携帯電話の番号が表記されていたため電話したところ、何度掛けてもでない。数日後に、ようやく電話がつながりツアーの申し込みを伝えたが、その後も連絡がないまま一週間前。信用できないため、急遽、ガイドをされている別の方に直接電話をし、ヤエヤマヒメボタルの生息地を案内して頂く約束を交わすことができた。
18時半に待ち合わせ場所に行く。ガイドをして下さるのは、スポッター石垣島ネイチャーガイドサービスの川野俊幸 氏である。川野氏のワンボックス車に乗り換え、ヤエヤマヒメボタルの生息地へ向かった。ちなみに私一人の貸し切りガイドである。川野氏によれば、本種は石垣島ではちょっと山に入ればどこにでもいるという。西表島においては、かなり局所的だと伺った。予め、ロケーションの希望を伝えておいたので、その場所に連れて行って頂いた。
そこは標高約140mの熱帯森林。西向きの斜面である。生息場所の多くは将にジャングルで、草木が生い茂ったところがほとんどだが、そこは時折下草刈りがされる場所で絶好のロケーションである。天候は曇り。気温25度、無風でかなり蒸し暑い。マスクをしていると息苦しいが、ホタル日和の証である。まだ誰もいない19時少し前からカメラをセットし待機。月齢28.9で、しかも翌朝に昇ってくるので月灯りは問題ない。そのためにこの日程を選んだ。しばらくすると、地元のカメラマンが1名と観賞者が4名ほどが来たが、それ以上は来なかった。
日没は18時59分。まだ薄明るい19時21分に草むらで1頭のヤエヤマヒメボタルは発光を始めた。1分後に飛翔をはじめ、周囲でも発光する個体が増え始めた。光は黄色のフラッシュ光だが、ヒメボタルに比べるとかなり小さく弱い。発光間隔は1秒に2~3回と不規則である。写真では分からないが、映像では不規則に発光している様子が映っている。
飛翔の高さはヒメボタルより低く、下草上30~50cmの所を飛翔するが、時折1mほどの高さを飛翔する個体もいる。それは、写真に写っている光の点の間隔や場所でも明らかである。他の下草が腰ほどの高さまで生い茂っている場所では、草上ぎりぎりの高さを飛んでいた。低い位置を飛翔するのは、発光が弱いためメスに存在を認めてもらうためと考えられるが確かではない。19時40分頃になると、発光飛翔の個体数は増えて、カメラで収まる範囲内だけでも100個体を超えていた。
撮影場所以外の周辺を探索すると、道沿いの林内のどこでも光っている。100mほどの範囲で数千個体はいるのではないだろうか。ヒメボタルの発生期間は10日から3週間ほどであるが、ヤエヤマヒメボタルの発生期間は、3月中旬頃から5月下旬頃までと長い。成虫1頭の寿命はおそらく1週間ほどと思われ、期間中に発生数の増減はあるものの2か月も同じ場所で見られるのである。一体、全体で何頭が生息しているのだろうか?これまで何度か訪問した岩手県の折爪岳のヒメボタルは、生息数が山麓全体で100万匹とも言われているが、この石垣島のヤエヤマヒメボタル生息地は、その数十倍かもしれない。幼虫の成長を支える餌も大量に必要だ。おそらく陸生の貝類以外も食べているに違いない。
19時50分。発光開始から30分しか経っていないが、下草や地面に止まりだし徐々に発光数が減って行く。そしてあっという間に光のショーは幕を閉じた。ヒメボタルでは、薄暮型では90分ほどの活動時間であり、深夜型では3時間以上も発光飛翔しているが、ヤエヤマヒメボタルの発光飛翔時間は、わずか30分ほどである。体長が小さいので、長い時間発光しながら飛べないと言う説もあるが、これも定かではない。
翌日も同じ場所に一人で行ったみたが、朝から雨で風速8mの強風。夕方には雨は止んだが風は止まず、気温は18℃。19時半になってもまったく光ることはなかった。別の生息地では雨風ともに止んでいたが、18℃という気温では発光しないようである。成虫のマクロ撮影を予定していたが、それは叶わず、メス成虫の発見もできなかった。
以下には、生息環境と発光飛翔の写真、そして映像を掲載した。2枚目の発光飛翔の写真は2分相当の多重で、1頭1頭の飛翔ルートや発光間隔が分かる。3~4枚目は20分相当の多重で、見栄え重視の創作である。実際の発光飛翔の様子は、映像をご覧いただきたいと思う。
訪れた生息地は、来年の夏以降、車両通行止めになるというので、ホタルにとっては良好な環境が保たれるだろう。私にとっても貴重な経験となった。何といっても、急な連絡にも関わらずとても親切に案内して下さった川野氏には心より御礼申し上げたい。勿論、ガイド料金はお支払いしている。Webサイトはこちらである。スポッター石垣島ネイチャーガイドサービス
参考文献・図書
- 松村松年 (1918) 日本の蛍. 教育画報 6 (3): 82-98.
- 大場信義 (1993) 親子で楽しむホタルの飼い方と観察. ハート出版.
- 大場信義 (2003) ホタルの木. どうぶつ社.
- 佐藤正孝 (1985) ホタル科. (黒沢・久松・佐々治 編) 原色日本甲虫図鑑 (III). 120-124, pl. 20. 保育社.
- I. Kawashima, H. Suzuki, M. Sato (2003) A check-list of Japanese fireflies (Coleoptera, Lampyridae and Rhagophthalmidae). Japanese Journal of Systematic Entomology 9 (2): 241-261.
以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。
ヤエヤマヒメボタルの映像
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西表島では局所的で石垣島はかなりあちこちに生息しています。行くときは連絡ください。
ちなみに6月末には、沖縄に行くことにしました。