ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ゲンジとヒメのコラボ

2022-07-18 17:55:39 | ヒメボタル

 ゲンジとヒメのコラボ(ゲンジボタルとヒメボタルが同時に舞う光景)を撮ることができた。

 先週に引き続きヒメボタルの観察と撮影に出掛けたが、今回は、これまで足を踏み入れたことがない場所にてヒメボタルの生息確認を行った。事前に知人のT氏が探索しており、生息は確認して頂いていたが、どのような環境なのか、またどのくらいの生息範囲にどのくらい生息しているのかを調査するともに、証拠の写真を残すことが目的である。
 場所は、自宅から車で90分ほど走り、徒歩で山道を30分ほど登った標高およそ1,200m付近である。標高差約250mを一気に登る軽登山である。以前、とあるヒメボタル生息地まで林道を30分歩いて登ったことが何度もあるが、歳と共に衰える体力と日頃の運動不足の体には、久しぶりにきつい。カメラ2台と三脚2本、それに飲料水600ml×2本。重い!
 最初は深い谷であるが、標高を上げるにつれ道は渓流沿いとなり、更に進むと渓流は源流の様子を呈してくる。周囲の斜面はブナを主体とする天然林である。サワクルミの大木も多い。T氏によれば、ヒメボタルはかなり広範囲の場所でそれぞれに飛翔していたという。気温24度、曇り時々晴れ。歩きながらある場所をポイントに定めることに決定した。
 初めての場所では、ヒメボタルがどこをどのように飛翔するのかは全く分からない。そこはこれまでの経験と勘に頼り、車横付けの場所や歩いて数分の生息地では見られない光景を残せるようロケーションを優先してカメラをセットした。1台は源流と奥に広がるブナ林が収まる位置にセットし、もう1台はブナの大木を配した斜面に向けた。飛翔するであろう時刻まで2時間の待機である。
 19時を過ぎるとようやく薄暗さに包まれる。19時16分。すぐ近くで1頭のヒメボタルが発光しながら飛び始め、斜面を降りて行った。生息の確認はできたが、その後はなかなか発光しない。19時35分。ブナの大木を配した斜面にセットしたカメラの方向で何頭かが発光飛翔しているのが目に入った。行って見ると、カメラの後ろ側の林で多く飛び交っている。しばらくすると、カメラの前を横切るように飛ぶようになった。狙い通りである。源流にセットしたカメラは10mほど離れている。両方を同時に操作することはできないため、源流のカメラはレリーズでシャッターを固定し、ヒメボタルが飛ぼうと飛ぶまいと関係なくひたすら連続撮影である。
 ブナの斜面で観察していると、源流の方向に明滅しない光の筋が見えた。クロマドボタルのようである。昨年、山梨県内のヒメボタル生息地でも観察したことがある。ただし、すでに真っ暗で自分の足も見えない状況。ライトを付けない限り移動は全くできないので、発光を見ただけの記録である。
 当生息場所全体の生息数は不明だが、かなりの広範囲をばらけて飛翔する。急な斜面や起伏もあるため、見える範囲だけでは決して多いとは言えない。どこかへ飛んで行ってしまうと全くいなくなり、しばらく暗闇に包まれる。そしてしばらくすると、また光が現れるといった繰り返しである。どこかにまとまった飛翔区域があるのかもしれないが、今回は分からなかった。
 21時近くになり、発光飛翔の数が全く見られなくなったので、足元だけをライトで照らし、源流のカメラの場所に向かった。すると、1頭のゲンジボタルが目の前をゆったりと飛翔しているではないか。標高1,200mの源流にゲンジボタル。ここに生息しているのかもしれないが、おそらくは、麓の生息地から上昇気流に乗って上がってきた個体であると思われる。かつて富士山の標高1,200m付近の林でも見たことがあるが、まさかここでゲンジボタルに遭遇するとは思いもしなかった。偶然とは言え、ゲンジとヒメのコラボ(ゲンジボタルとヒメボタルが同時に舞う光景)は、両種の発生時期が異なっていたり、そもそも生息環境の違いや生息分布が重ならないことから、全国的にもそう多くはない。特に撮影した地域では初であり、たいへん貴重な記録である。

 今年も知人のT氏にはお世話になり、心より御礼申し上げたい。多くの事を学び、また新たな疑問も生じ、未だ生態に不明な点が多いヒメボタルの魅力をより一層感じた日であった。以下に掲載した写真は、2台のカメラでそれぞれ撮影した2点。ゲンジとヒメのコラボも貴重だが、個人的には源流付近を舞うヒメボタルを収めるのも初めてであった。林床がヒメボタルの光で埋め尽くされる創作写真が多い昨今、できればヒメボタルの生のリズムと躍動を感じるものでありたいと思う。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。

ゲンジボタルとヒメボタルの写真
ゲンジボタルとヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 ISO 2000 約3分相当の多重(撮影日:2022.7.17)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 ISO 1600 約5分相当の多重(撮影日:2022.7.17)

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