ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ホタルは灯りが大嫌い

2018-06-10 20:06:17 | ホタルに関する話題

 ホタルは、なぜ光るのか?それは、オスとメスが、交尾のために自らの発光によってコミュニケーションを図るため。しかしながら、ホタルが目的を持って光っていることを多くの方々がご存知ない。

 現在、全国各地で「ホタルまつり」や「ホタル観賞会」が行われており、多くの方々がホタルを見に訪れている。「ホタル」という昆虫ではなく、ホタルが発する光と光景を見に訪れている。ホテルの庭園や公園施設などの安全対策が取られ、安心してホタルを見ることができる所も多い。そのような場所での「ホタル観賞」は、施設内のルールに従えば気軽に楽しめるだろう。
 一方、野山の川で自然発生しているホタルを観賞する場合には、絶対に行ってはならない事がある。それは、「ホタルに灯りを向けてはいけない」ということである。オスは光りながら飛び回ることで存在をアピールし、葉の上ではメスが光って応える。メスを見つけたオスは葉の上に降りて行き、光で会話をするのである。そのためには、お互いの「光」が見える暗がりがなければならない。月明りでさえ、そのコミュニケーションを阻害してしまうにも関わらず、観賞者がホタルやホタルが飛び交う方向にライトを向けたらどうなるだろう。

 その場のホタルの発生期間は、2週間くらいはあるだろう。ただし、メスが発生してくるのは少し後になるから、混在するのは10日ほどになる。ただし、月の光が明るい夜や、風の強い夜、気温が低くて寒い夜は、活動が鈍くなるから、交尾の機会は5日くらいかも知れない。しかも、オスとメスが出会える時間は、1日90分だけである。そのわずかなチャンスを人工的な「灯り」で邪魔をしてしまえば、交尾の機会は極端に少なくなり、将来的には発生数は少なくなるだろう。近くに民家や街灯があったり、側を車が通るところに生息している場所もあるが、ホタルは、そんな環境の中でも一番暗い場所を選んでコミュニケーションを図っている。ちなみに幼虫が蛹になるための上陸や成虫の産卵においても、0.1luxの明りで阻害されることが研究で分かっている。
 成虫を放っているだけのところは、その場で繁殖していないから「灯り」に対して気を配らなくても、毎年ホタルが見られるだろうが、本当に自然発生している生息地では、絶対に「ホタルに灯りは禁物」である。懐中電灯を向けたり、カメラのストロボを焚くのもダメである。
 これから、野山の川で自然発生しているホタルを観賞される方々は、是非ともホタルに灯りを向けないでいただきたい。生息地へは、車のヘッドライトも懐中電灯も必要のない明るい時間帯に到着し、岸辺で暗くなるのを待つようにしたい。帰るのは、ホタルが発光する時間帯が終わってからにしたい。もし、灯りを向けている方がいたら、「灯りを向けるとオスとメスが出会えなくなりますよ。」と伝えていただきたい。

 ただし、人々の考え方は様々で、気を悪くしたりするかも知れない。様々なメディアで訴え、SNS等で情報を発信しても「ホタルは灯りが大嫌い」ということは、なかなか浸透しないのが現実である。以下は、あるプロの写真家の意見。(原文そのまま。一部抜粋。個人名は非公開とする)

「ストロボを使用するホタル撮影は、ホタルの繁殖行動に悪影響を及ぼしてしまいます。」 などという記述も含めて、私には極論に感じられました。
 弱い懐中電灯の明かりやほんの数回のストロボの発光が、ホタルの繁殖行動に目くじらを立てるほどに悪影響を及ぼすのなら、なぜ、町の中の光がたくさん存在しホタルの活動時間帯に車が絶えず通るような場所にも、ホタルが多数生息する場所があるのでしょうか? また古河さんは、ホタルの観察に出かける際に、ヘッドライトをつけた車に乗ることはないのでしょうか?
 そもそもマナーは、人それぞれが自分なりに一生懸命に考えることであり、他人に押し付ける筋合いのものではないと考えます。
 ホタルを大切にしましょうという主張は、ホタルのためではなくて、突き詰めると、ホタルを好きな誰かのためなのです。 もしも人間が存在しないのなら、実はホタルはどうなってもいいのです。
 ホタルに関して言うと、まずは事実が大切です。本当に懐中電灯の光や数回の発光が、目くじらをたてるほどの悪影響があるのか? ホタル愛好家が自分たちが好きなホタルの見方を、自然保護の名目で押しつけようとしていないか?せいぜい自分のホームページ内で主張すべきことだと思うのです。

 このプロカメラマンは、ホタルの生態を知らない素人であるばかりでなく、自然環境に関して何も考えていないとしか言えない。きっと、こう言うにも違いない。「高山植物を撮るために自分だけほんのちょっと登山道からロープを乗り越えることが、目くじらを立てるほどに悪影響があるのか?」

 次は、ある個人の方の意見。(無記名のコメントから抜粋)

「ホタルが光らなくなる=繁殖できない」と伝わると思い込んでいるのは知識がある人間のエゴ。光らなくて困るのは貴方自身に他ならない。 ホタルのためにと言いますが、それはその場のホタルを減らしたくないと言う貴方個人の利を守ろうとしているに過ぎない。
 声を代弁するなどと大それたことは、どんなにその動植物のために尽力したとしても人間風情が口にすべきことでは無い。独り言で済んでいるうちは何を言っても構わないと思いますが・・・

 こういった方とは議論にもない。

 掲載写真は、ホタルの生息地における典型的な「光害」の一枚と、灯りが一切ない生息地での飛翔風景の3枚である。いずれも、デジタルカメラがない時代にタングステンタイプのポジフィルムで撮影したものである。

参考文献

  1. 宮下 衛(2009)「ゲンジボタル・ヘイケボタル幼虫に対するLED照明の影響」,土木学会論文集G Vol.65 No.1,1-7
  2. 宮下 衛(2011)「ゲンジボタル・ヘイケボタルの産卵に対するLED照明の影響」,土木学会論文集G(環境) 67(1), 21-29
  3. 遊磨 正秀(2017)「動植物に対する「光害」、特にホタル類への影響」,全国ホタル研究会誌,5

以下の掲載写真は、1024×683ピクセルおよび406×640でピクセル投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画も 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ゲンジボタルと光害の写真
ゲンジボタルが飛ぶ小川を照らす車のライトと懐中電灯
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / Ektachrome 320T Professional(撮影地:山梨県)
ゲンジボタルの飛翔風景の写真
ゲンジボタルの飛翔風景
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / Ektachrome 320T Professional(撮影地:東京都)
ゲンジボタルの飛翔風景の写真
ゲンジボタルの飛翔風景
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / Ektachrome 320T Professional(撮影地:静岡県)
ゲンジボタルの飛翔風景の写真
ゲンジボタルの飛翔風景
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / Ektachrome 320T Professional(撮影地:東京都)
ホタルを滅ぼすホタル観賞 これが光害だ!!
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます)

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東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) 2018 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.



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7 コメント

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「棲息環境の破壊は恥ずかしいこと」って感覚が根付くといいですね (DaiSaito)
2018-06-12 00:55:44
「そもそもマナーは、人それぞれが自分なりに一生懸命に考えることであり、他人に押し付ける筋合いのものではないと考えます。」
これ、彼らの必殺技なんですよね。決め台詞なのかいなと思っちゃいますが。

マナーを考えるときに多いのが、「自分のされたくないことはしない」だと思いますが、その「されたくない」の基準が他の人と違っていたらその時点でマナーの基準も変わっちゃうんですよね。
自分なりに考えた結果はマナーなんかではない。多くの他者に聞き込んで初めてマナーを理解できるはずです。

恐らく、、、これは社会統計学者がサボった結果じゃないかな?と思うんですよ。
というのも、マナーってある程度数式と観測結果で表せるはずなのに、モデル化どうなの?とgoogleに聞いても全然ヒットしないぐらいなんですよね。
例えばホタル観賞ならば、

パラメータとして 個々の幸福度, 怪我などの危険性, 知的欲求の満足度, 経済的な効果 などを 懐中電灯を使用した場合, 車道を整備した場合, 観察者の密度が一定値以上の場合 みたいな総当たりのデータを測定して、更に 地域的な各効果の重要度を乗算し、効果の合計値が最も高いパラメータ値から-0.5σ~+0.5σがマナーの範囲

のような。そういう例がまったく存在しないから、なぞの決め台詞が発生しちゃったりするんだろうなって思います。


それはともかく、挙げていただいた例の後者の個人の方、この方は珍しいタイプでもないものの 何かしら妬みや恨みに近いものがありますよね。ただ、あまり共感を得るタイプでもない感じはしますね。
前者の写真家の方、この方は(どなたかは把握していませんが、)共感を得やすい点でわりと困ったタイプだと思います。

あくまでも 一般的に ですが、あ、いや、野外で会ってきた程度の母数でですが、写真家の方たちは「自己愛性パーソナリティ障害」に近い方が多くいらっしゃる印象です。早い話、「サイコパス」ですね。
障害というよりも状態なんだと思いますが、謎の仮説をポンと出して、それに対する論理展開は上手いのでカリスマ性があるんですよね。
けれども「謎の」と書いた通り、その仮説は多くが自分の経験で出来上がった定規での仮説なので、時々堂々と間違ったことを言います。
そして、自身の不利になる人物に対して、徹底的に交戦します。
「~するのはダメ」「~は禁止です」って言われると、それまでの自説を曲げてでも対抗しちゃうんですよね。

おそらく古河先生の「発信」は、彼らにとっては妨害行為なので、ある程度の割合で噛みついてくるんですよね。
ただ、彼らは他者からの印象に非常に敏感なので、「そういうことをするのは恥ずかしいことだ」という世論にはすぐ対応します。
先日SNSでプチ炎上した「和傘とヒメボタル」なんかもそうですが、「きれい!」って声よりも「恥をしれ!」って声が多ければ、少しずつ改善されるのかな?って思います。
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大嫌い (ホタル)
2018-06-13 21:30:22
DaiSaitoさん、コメントありがとうございます。
ヒメボタルの生息場所に演出で和傘を置いて撮影する者も、
ゲンジボタルの生息地でゲンジボタルにストロボを焚いて撮影するプロカメラマンも、
写真が撮れれば、ホタルはどうでも良いという人間様です。
その場に、もし私がいたらつまみ出します。
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Unknown (カワニナ君)
2018-07-03 14:13:08
カワニナやタニシって食用なんですよね
それを食べるホタルって人にとって害虫なんですかね
光が綺麗だから守りたい?
虫ですよ

ゲジゲジってゴキブリを食べるから益虫
蜘蛛も稲を荒らす害虫を食べるから益虫

ヒメホタルの草原に和傘を置くと幼虫が潰される?
人が足を踏み入れる多段階ですでに踏み潰されてるよね
傘の接地面積より足跡の方がはるかに大きい気がする
ホタル保全を考える人はホタルを見に行かない方がいいですよね
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Unknown (ホタル)
2018-07-03 21:29:36
カワニナさん、コメントありがとうございます。
ホタルは「害虫と益虫」、どちらにも当てはまらないのではないでしょうか。

ヒメボタルの生息地内に踏み入れば、当然、幼虫を踏みつぶしているかも知れませんね。
観賞したり写真を撮るだけなら、気を付けて頂きたいものです。
ヒメボタルの保全を考えるならば、誰も近づかない事だと思います。ただしゲンジやヘイケは、人が里山環境の手入れをしなければ環境悪化が進みますので、一概にそうとは言えないと思います。
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Unknown (カワニナ君)
2018-07-04 06:32:04
ゲンジボタルの生態悪化は河川沿いの道路の街灯、高度成長期後の化学薬品(家庭用洗剤)の河川汚染、河川のコンクリート化、河川の森林伐採、20年前までの農協の空中散布、ゴルフ場の除草剤殺虫剤など行政や企業によるもので個人の懐中電灯やスマホの明かりやストロボでどうの言う問題レベルじゃないと私は考えています。特にLED化された街頭で河川敷きが軒並み照らされるようになってきました。
またヒメホタルに関しましては日本全国の山に沢山生息していてそれが知られていないだけです。
近所の林に居たヒメホタルが消えるのは森林伐採と街灯が原因です。
個人の明かりも全く影響がないわけではないとは思いますが問題は行政や企業であってネット炎上するように個人を責め合うのはお門違いだと思っています。
鑑賞時無灯火で怪我をする方が危険ですよ。弱い光で足元を照らす程度は許し合いましょう。ストロボやカメラモニタなども風情が無かったりカメラマン同士の撮影光害の方が問題で生態に全く影響がないわけではないとは思いますが街灯1本消してもらう方がホタルにとっては遥かに有益です。
虫よけも自生エリアで散布しなければ全く問題ないですし。生態エリアから離れた駐車場か自宅で塗ってくればいいと思います。

行政に対してはあまり強く言わないのに対して個人を責めることが多すぎだと私は考えています。
ただ、個人一人一人の守りたいという気持ちは大事だとは思いますよ。

ちなみにタニシは稲を食べるので増えすぎると害があります。それを食べるヘイケホタルは人にとって多少有益ですね、但し問題になってる外来種のジャンボタニシは食べないと思います。


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Unknown (カワニナ君)
2018-07-04 07:41:14
環境保全を軽視しているわけではなく
あたかも鑑賞者やカメラマンが環境破壊をしていると言うような書き込みをよく見かけるのでついコメントしてしまいました。
懐中電灯・スマホ・カメラのモニタ・ストロボも若干は生態系に影響があるとは思いますがそこまで深刻な環境破壊ではないと思います。
行政や企業は個人と非にならないくらい問題で個人を責める書き込みは行政企業から目を背けさせてしまう気がします。
本気で環境保全を考えるなら行政や企業に訴えるべきだと思います。
それと観光地化している場所の駐車場の環境整備も大事ですね。
車のライトが自生地に向かないようにパネルを立てるとか離れた場所に駐車場を設置するとかの配慮をした方がいいと思います。
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カワニナさんへ。 (ホタル)
2018-07-06 15:52:37
カワニナさん、コメントいただきありがとうございます。
ホタルの減少は、おっしゃるように河川とその周囲の環境の悪化や破壊が一番の原因であることは言うまでもございません。街灯一本の影響も絶大です。
当然のことながら、光害も含めて国や地方自治体への働きかけも行っておりますが、
この記事では、観賞者やカメラマンのマナーについて問題視しております。
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