~2019年の台風19号による影響でホタルも壊滅的な打撃~
東京山間部の渓流に棲むゲンジボタルが激減している。
5月22日の高知県から開始したゲンジボタルの観察と撮影。6月には、千葉県と山梨県、そして東京都内2カ所で行い、最後は、東京都内でも一番発生の遅い渓流の源流部近くで行った。
この場所は、風景撮影では何度も訪れているが、ゲンジボタルの観察と撮影では初である。一度、6月26日にロケハンを兼ねて行ってみたが、発生はゼロ。今回の7月4日が二度目である。
駐車場から林道を歩くこと15分。前回のロケハン時に決めておいた位置にカメラをセットし、17時から待機。この時間でも外国人の家族ずれや大学生のグループなど数組の観光客がいる。大学生のグループは、私がカメラを向けている方向の川に素足で入り込み、果敢に沢登り。迷惑ではないが、滑って頭でも打ったら大変だと、私の子供のような年頃の学生たちに頭を抱えた。30分もすると、深い森の沢に私一人。かなり心細いが、観賞者も光害もない条件のもと、日が暮れて暗くなるのをひたすら待った。
19時20分に一番ボタルが発光を始める。1頭光れば、ホッと一安心である。しかしながら、ゲンジボタルはなかなか数が増えない。結局、わずか2頭のオスのみ。しばらくすると飛翔を始めたが、すぐにスギの梢に止まって、静かに発光するだけの状況。気温が20℃と低く、時折上流から冷たい風が吹き下ろしていた事が要因だと思う。その後、1頭が飛び出したが、強い雨が降ってきたため、またすぐに葉に止まってしまった。
発生時期の最盛期であるにも関わらず発生数が極端に少ない。これは、予想していた。原因は1つ。昨年(2019年)10月12日から13日未明に東海から関東地方を通過した台風19号の影響である。ゲンジボタルが生息する地域における、この二日間の期間総雨量は610mmにも達し、渓流は濁流となって直径1mもある岩をも流した。これにより、ゲンジボタルの幼虫やカワニナの多くも流されてしまったのである。
ブログ6月21日の記事「東京のゲンジボタル」では、冒頭「東京のゲンジボタルは、今年も美しい光を放っていた。」と書きだしたが、この小川は、丘陵部の小さな河川で、台風通過時の雨量も多くはなかったので、今年も無事に発生したが、多摩西部の山地渓流では、今回訪れた場所以外でも、ほとんどのゲンジボタル生息地で発生数が少なくなっているのである。
今年、私は行かなかったが、ここ数年毎年訪れている河川(東京のゲンジボタル その2)では、ゲンジボタルの数よりもカメラマンの方が多かったと聞いた。4月にムカシトンボの様子を観察しに同河川を訪れた時に、様子の激変に驚愕し、今年のゲンジボタルの発生は少ないと予想していたが、その通りの状況だったらしい。
ゲンジボタルは、一年ですべての幼虫が成虫になるわけではなく、最長4年かかる個体も存在する。つまり、常に川の中には成長年数に応じた様々なサイズの幼虫が生息している。おそらく、環境変化の大きい河川において、種を存続させるための戦略だと思われる。こうして甚大な台風被害の翌年でも、数頭が発生するということは、流されていない幼虫もいるわけだが、元の発生状況に戻るには、今後何の影響がない状況でも3~5年はかかると思われる。しかしながら、この夏も台風の被害がないとは言えない。場合によっては、10年以内に絶滅してしまう可能性もある。これは、私自身が個体群動態の数理モデルを用いたコンピューター・シミュレーションに基づく個体群存続可能性分析で推定を行っている。(ゲンジボタルの個体群動態解析及び存続可能性分析)
昨日7月4日は、停滞する梅雨前線の影響で九州地方で記録的な大雨となり、土砂崩れや大規模な河川の氾濫に見舞われている。被害に遭われた方々には、心よりお悔やみ申し上げたい。こうして、台風以外でも大雨は年々、激しさを増しており、河川に棲むゲンジボタルも各地で減少している。5月に高知県でお会いした写真家の小原玲氏との会話では、写真集「蛍」の中に掲載した生息地の多くは、現在、大雨で壊滅状態だと仰っていた。
ホタル観賞者による光害、八王子市川町にみる開発と放置、そして大雨による河川氾濫・・・ゲンジボタルが生き抜くためには、いくつもの試練を乗り越えなければならないが、いずれも根本原因は我々にあるということを忘れてはならない。
今回、写真的には「絵」になるものが撮影でき残すことができたが、この美しくも儚い命の灯が、「最後の光景」にならないことを祈るばかりである。
この一枚で、今年のゲンジボタル(成虫)の観察と撮影は終了である。次の週末からは、いよいよヒメボタルである。本年は、昨年に引き続き東京のヒメボタルから始め、7月末まで関東近辺の生息地数か所を巡る予定である。初訪問の場所もあるので、新たな生息環境や生態の新知見を得られるだろう。今から楽しみである。
また今回、当ブログにご訪問頂いている方と現地でお会いした。何とも嬉しい出会いである。様々な情報もご提供いただき、この場を借りて御礼申し上げたいと思う。
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ゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 60秒 ISO 200(撮影地:東京都 2020.7.04)
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