ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

東京のヒメボタル

2019-07-15 17:08:27 | ヒメボタル

 東京のヒメボタルを観察し撮影するために、10年ぶりに生息地へ行ってきた。東京には、自身のこれまでの調査・観察で、かなり広範囲にヒメボタルが分布していることが分かっているが、今回訪れた所は、標高およそ730mの杉林で数少ない群生地である。今まで、岩手、埼玉、千葉、山梨、静岡の各県でヒメボタルを観察し 撮影してきたが、この東京のヒメボタルは、他の県にはない独特な雰囲気がある。それは、行って見たものしか味わうことができない。
 当地には、2004年から通っているが、なかなか良い写真を撮ることができなかった。2006年は、数え切れないほどのヒメボタルが乱舞していたが、撮影技術が確立しておらず、まったく写らなかった。2007年に訪れた時は、発生がゼロの状態。この場所でのヒメボタルの発生期間は、およそ10日ほど。私は週末の土曜日しか訪れることができない。つまり、ヒメボタルの発生ピークと私の都合が、まず合致しなければならない。そして次に天候状況がよくなければならない。その後も観察は出来ても写真は失敗の連続。結局、6年の月日が過ぎ、ようやく2009年7月に何とか満足できる東京のヒメボタルの飛翔風景を撮影することができた。
 今回は、観察の他、デジタルカメラで飛翔風景を奇麗に残すことが目的であるが、2010年からデジタルカメラを使い始めても、今回まで一度も行かなかったのには理由がある。当時(2009年)一人で撮影中にツキノワグマに遭遇し、恐怖と戦いながら撮影を続けたことがトラウマになっていたからである。今回、意を決して臨んだわけだが、不安材料が山積で、当日の朝から緊張状態が続いた。

  1. 土砂崩れ等なく、生息地まで行けるか?
  2. 車でどこまで行けるか?
  3. 生息環境は変わっていないか?
  4. 肝心のヒメボタルはいるか?
  5. クマに合わず、無事に帰れるか?

 東京のヒメボタル生息地へは、すれ違いのできない細い林道を7kmほど登る。途中からは、かなりダートなスーパー林道だ。 かつて乗用車で行った時は、床を擦り、尖った石でパンクもした。親友と二人で徒歩にて登ったこともあるが、さすがに一人での往復は怖い。軽トラなら、何とか上まで行けるだろうとレンタカーを事前に予約。しかし、軽トラのはずが5ナンバーのボンゴ。「軽トラが用意できなかったので、すみません。料金は軽トラと同じで良いです。」荷物を運ぶなら嬉しいだろうが、使う目的が違うのだ。
 天気は小雨。16時から林道に入る。不安が的中。林道途中でスリップして立往生。ハンドル操作を誤れば谷へ落ちる林道をバックし、何とかUターンして若干広い所へ寄せた。「このまま帰るか・・・いや、ここまで来て帰るわけにはいかない。」トンボやチョウの撮影なら諦めて帰るところだろうが、ホタルを研究する者としての意地がある。葛藤の末、残り1Kmを徒歩で向かうことにした。(仮に車で登ったとしても、最終的な群生場所までは、徒歩になる。)

 17時半。群生地に到着。生息環境はまったく変わっておらず一安心。ヒメボタルが光ることを期待しながら、10年前とは違った構図で撮るためにカメラをセット。ここのヒメボタルは薄暮型で、ゲンジやヘイケと同じ19時半頃から光り始める。23時頃から光り始める深夜型であれば、絶対来ないだろう。それにしても、ちょっと早く来すぎた。暗くなるまで2時間以上ある。カメラの傍で傘を差しながら待つ。辛い。山奥の山林に一人。漆黒の闇。梢から滴る雨音にも敏感に反応する。怒涛のように押し寄せる恐怖と緊張の連続。
 19時半。かなり暗くなってきた。前回は、この時間に光り始めたが、今回は光らない。絶滅してしまったのか?あるいは発生時期がずれたのか?20時まで待って光らなかったら帰ろうと決め、暗闇を見渡す。すると、19時40分。1頭のヒメボタルが発光を始めた。「いてくれた!」
 次第に発光数が増え、見渡す中では10頭ほどで、カメラのフレーム内には数頭が飛翔してくれたが、飛翔開始から30分もすると霧が濃くなり、ヒメボタルは発光も飛翔も止めてしまったので、こちらも撤収。インスタ映えする写真ではないが、とりあえず目的は達成できた。滑落しないように山側の林道を慎重に降り、クマに遭遇することもなく、無事に車まで到達。帰路に就いた。実は、麓近くの渓流にはゲンジボタルが生息しており、2013年を最後に訪れていなかったが、帰る途中に橋の上から渓流を見ると、3頭のゲンジボタルがゆっくりと光りながら飛んでいた。しかしながら、一番美しく見えた場所は開発が進み、かつての素晴らしい景観はなかった。

 東京のヒメボタル。かつて乱舞を目撃した年に比べれば、物足りなさはあるが、まずは、10年前と何ら変わることなく生き続けていてくれた事が何より嬉しい。昨今、他の地域では発生が年々早まっており、また今年は4月に寒の戻り、そしてこの梅雨寒といった気象であるから、当地でも発生時期が以前とは異なってきている可能性がある。また2004年、2006年・・・と2年毎に発生数が多いサイクル(ヒメボタルは成虫になるのに2年かかる)なので、今年は少ない年だったかも知れない。不安材料はクマだけになったので来年以降、毎年通いながら、観察と調査をしていきたいと思う。
 昔は、ヒメボタルを撮ることは難しかったが、今のデジタルカメラでは、誰でも簡単に写すことが出来る。しかもヒメボタルはインスタ映えするという理由から撮影者が急増。5~6年前は 誰一人いなかった埼玉と静岡の生息地は、今ではカメラマンで溢れている。中には、ヒメボタルの生態を知らない撮影者もいるからマナーの悪さも目立つ。単にヒメボタル観賞に来る人々は、もっとマナーが悪い。幸いこの東京のヒメボタルには、カメラマンも鑑賞者も来ない。ただし、杉の大規模な伐採があれば、林床が乾燥して絶滅してしまう恐れはある。今後、しっかりと見守っていきたい。

 今回は、飛翔時間が短かったため映像はなく写真のみの撮影。参考までに、2009年にフィルムで撮影した東京のヒメボタルの写真2点と2006年に麓の渓流で撮影したゲンジボタルの写真1点も掲載した。先にも述べたが、この光景は、もう見ることが出来ない。写真の左側の山林が削られて建物が立ち並び、渓流は灯りで照らされていた。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ヒメボタルの生息環境の写真

ヒメボタルの生息環境
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F13 35秒 ISO 50 -1 1/3EV(撮影地:東京都 2019.7.13)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 1600 8分相当の多重露光(撮影地:東京都 2019.7.13)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.8 60分の長時間露光(撮影地:東京都 2009.7.11)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
CANON EOS-3 / EF 50mm F1.4 USM / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.4 60分の長時間露光(撮影地:東京都 2009.7.11)

ゲンジボタルの写真

ゲンジボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / Ektachrome 320T Professional / バルブ撮影 F1.8 3分の長時間露光(撮影地:東京都 2006.7.02)

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