三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

サービス料は廃止

2007年09月16日 | 政治・社会・会社

サービス料を取るホテルや飲食店がいまだにたくさんあります。聞くところによると、戦後アメリカ人相手に始めたホテルや飲食店ではボーイや給仕には給料がほとんどなく、客からもらうチップが収入の大部分でした。その後チップを払う習慣のない日本人が利用するようになって、収入が途絶えたボーイや給仕に給料を支払うためにホテルや飲食店が編み出したのが、料金から歩合を取るサービス料でした。その後雇用形態がしっかりしてきて、ボーイや給仕にちゃんと給料が払えるようになったにもかかわらず、サービス料をなくしてしまうと一気に売上が下がってしまうので、やめるにやめられなくなった、というところだそうです。なにしろ、もしサービス料を10%取っている場合、やめたら単純に売上が10%下がる訳で、10%減というのはかなり大変な事態でして、場合によっては経営陣の誰かが責任を取らなければならなくなる可能性があるくらいです。

しかし支払う側に立ってみればサービス料という言葉の響きから、直感的に、受けたサービスの対価として支払うものであるという理解になります。支払うサービス料に見合うサービスをされるのが当然ということです。サービス料がチップに由来するものであるなら、かつてチップを獲得するために一生懸命に世話をしたように、サービス料を獲得するために一生懸命にサービスをしなければならないという理屈です。従ってサービス料を支払うのにサービスが不十分であれば、二度と利用しないか、苦情を言い立てることになり、その苦情が本社に入ってきた場合は私が受けることになります。

仕事はもともと人間性や人格をスポイルした上で成り立つもので、客商売ではどんなバカでも客は客ですから、自分を殺して一生懸命に客の世話をすることが接客の仕事です。どれだけ自分の気持ちを抑制してバカな客のために尽くせるかが客の満足度に繋がり、チップをもらえるかどうかの瀬戸際となるのが接客という仕事の本質です。それをサービス料というシステムにしてしまっては、レベルの低い従業員の中には自分のくだらないプライドや好き嫌いの感情を殺すことをしないで、客の怒りを買ってしまうバカが必ず出てきます。出てきますというよりも、現実にたくさんいます。仕事の本質が嘘をつくことであるという事実を認識せず、演技をすることができない連中です。

もし苦情窓口の私が本音で仕事をしたらどういうことになるでしょうか? 従業員の笑顔が気に入らないという独りよがりの被害妄想みたいなクレームに対して、「顔のことでしたらその人間の親に言ってください、ちなみに不細工な人間は子供を作ってはいけないという法律はありません」なんて返事をしたら、火に油を注いだように怒りが燃え上がるでしょう。私は自分を押し殺して、「おっしゃる通りでございます。お客様に気に入られるような笑顔の訓練が不十分でございました。大変申し訳ございません」と謝罪します。「おっしゃる通り」というのがポイントで、自分の意見が認められた(承認欲求が満たされた)ことで、ある程度は怒りが和らぎ、丁寧に謝罪することで自分が大切に扱われた(自尊心の充足が得られた)ことで納得してもらうことができます。苦情対応をするたびに、人間というのは本当につまらないプライドを後生大事に抱えて生きている、程度の低い生き物だなと感じますが、無論私自身も例外ではありません。例外ではないけれども、仕事に望んでは、自分のつまらないプライドは捨て去らねば仕事にならないことくらいはわかっています。自分の人格がスポイルされることと引き替えに金を稼いでいるのだという自覚です。

ところが店舗の従業員の多くは、自分を殺して客を優先することができません。もちろん仕事とは耐えることだとわかっている人間もいます。しかしそういう人間たちも、元気なうちはいいのですが、疲れてきたり客があまりにも馬鹿だったりすると、忍耐力の限界を超えてしまうことがあります。仕方のないことではありません。覚悟が足りないのです。そんな覚悟の浅い人間たちを使っていて、サービス料を取ろうというのは実に無謀なことで、サービス料に関する苦情を電話で聞いたりメールで読んだりする度に、客の言うことは至極もっともな意見であり、サービス料など早く廃止してしまえばいいのに、と思います。10%のサービス料をメニューに上乗せすればそれでよろしい。メニューのいちいちの値段を覚えている客などそうはいませんし、これまで総額表示をしていた消費税について、内訳の表示をすれば値段が上がったと気づくより値段の表記方法が変わったことに疑問を持つでしょう。そこでメニューを一工夫して、「現在の消費税は5%です」という表記を入れるのです。消費税を意識させるのにいい機会だと思います。すべての商売人が消費税をしっかり表記すればいいと思っています。もともと消費税込みの総額表示を義務づけたのは大蔵省というか財務省の役人たちで、総額で表示しておけば将来消費税を上げたときに、気づかれにくいだろうという実に姑息な考え方からでした。国民をバカにしているとしか思えません。そんな悪質な役人たちの思惑に乗らないように頑固に消費税を表示し続けることが大事です。

ともあれ、仕事で疲れてくると、どんなに心をしっかり持っていても、あまりにバカすぎる客には怒りを抑えきれない面は確かにあります。消費者としての私たちは、店舗従業員の感じが悪かったとかサービス料に見合うサービスがなかったということに怒りを覚える前に、彼らの労働条件が適正なのだろうか、自分たちがクレーマーになっていないだろうかということを省みる必要があります。