三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

卵料理あれこれ

2006年08月24日 | 食・レシピ
 京都に行っていた知人から、何種類も漬物のお土産を貰いました。添加物が入っていない代わりに賞味期限が短くて、長持ちする奈良漬以外は早く食べなきゃいけないんですが、漬物ってそんなに一度にはたくさん食べないものなので、毎日食べても食べきれず、未開封のまま賞味期限が過ぎてしまったものもありました。
 しかしそういうものも、開封して切ってみるとまだ十分大丈夫でして、特に瓜の漬物はそのまま食べたり、細かく刻んでタルタルソースにしてエビフライにつけたり、チャーハンのアクセントに使ったりして、どれもとてもおいしかった。タルタルソースはこれまでピクルスと玉ねぎとピーマンのみじん切りと、ゆで卵を卵カッターで3回切って角切り状にしたものを入れていましたが、ピクルスの代わりに京都の漬物を入れると、とても和風な感じになって、もしかするとこっちのほうがおいしいかもしれません。タルタルソースにはときどきパセリやマスタードを入れていましたが、京都の瓜漬けのタルタルソースに和芥子を入れると夏向けの味になって、これもおいしかった。
 マヨネーズは市販のものは塩分が強いので、できれば自分で作るといいと思います。作り方は実は簡単で、材料はサラダ油とお酢と卵黄だけです。あとは味付けに塩と白胡椒を少々。卵は冷蔵庫から出してすぐだとうまくいかないので、あらかじめ出しておきます。黄身だけを酢と塩、胡椒と混ぜてとにかくとことん混ぜます。電動のホイッパーがあると、かなり楽です。あとは少しずつサラダ油を足してさらに懸命に混ぜていけば出来上がりです。オランデーズソースを作るときみたいに急がないといけないわけではないので、とにかくよく混ぜることに重点を置けば、失敗なくできるでしょう。
 卵は物価の優等生なんて言われて、とにかく価格が安定しているので助かりますし、卵料理はバリエーションが豊かで、飽きることがありません。私の場合はたぶん年間500個くらい食べていると思います。お店でも卵料理をよく注文しますし、持ち帰りの卵焼きもときどき買います。
 卵焼き、ゆで卵、目玉焼きやベーコンエッグ、スクランブルエッグなどについては、それはもうたくさんのやり方があって、10人いたら10通りの作り方があると思いますが、どんなやり方がいいのかは好みの問題でしょう。ただ、オムレツについては、好みというよりも上手下手があると思います。洋食のお店で出てくるオムレツと同じものを家庭で作れる人がいたら、本当に尊敬します。
 ときどきお邪魔するスペイン料理の店では、なぜかスペイン風のトルティージャではなくて、フランス風に巻いたオムレツが出てくるんですが、火の通り加減がちょうどよくて、卵が流れ出すこともなくしかし硬くなりすぎてもいなくて、全体に均質にほわっと焼けています。文句なくおいしい。10人いたら10人とも、おいしいと言うと思います。あんなふうに焼いてみたいなと、焼く前の卵の温度から、入れる量、混ぜ方、塩の量、フライパンの大きさや厚さ、バターの溶かし具合と量、火加減とその調整、焼く時間と混ぜかた、返しかたなどを工夫してみました。たぶんこれまでに何百個も作ったと思いますが、いまだにうまく焼けません。卵そのものはたぶん、お店ですから普通の鶏の卵を使っていると思います。特別な卵は特別に高いので、高級店以外では使わないでしょう。だから普通の卵を特別の技術で特別においしいオムレツに仕立て上げているわけで、たいしたものだなと、いつも感心します。
 卵焼き用の四角い鍋で焼くだし巻き卵も、むずかしい料理の一つですよね。よく冗談で、新婚のお嫁さんの得意料理が「卵焼き」なんて言いますが、本当は卵焼きを上手に焼ける新婚のお嫁さんはあまりいないと思います。そうじゃないと、持ち帰りの卵焼きを売っている理由がありませんよね。
 卵料理というと少し違うかもしれませんが、イタリアンでカルボナーラというのがあります。あれもお店によってスパゲッティの太さや質や茹で加減が違っていたり、チーズも千差万別で、十人十色の好みがあるようです。バリエーションが豊かな料理なんですね。
 カルボナーラはときどき作りますが、簡単であまり失敗もないので、オムレツや卵焼きに比べるとずいぶん楽ですね。というのも、私の場合は卵をまったく加熱しないので、失敗しにくいんです。準備はボウルに卵と生クリームと粉チーズ、それに一応カルボナーラの由来を重視して粗挽きのブラックペッパーをたっぷり入れて混ぜておきます。パンチェッタの角切りをオリーブオイルでカリカリに炒めておいたところに茹でたスパゲッティを入れ、ひと混ぜしたら準備した卵のボウルにざっと入れて、今度はボウルをひと混ぜして出来上がりです。卵が少しずつ固まっていく変化を楽しみながら食べます。
 中華料理の卵焼きを作るときは中華なべをよく熱して、たっぷりの油に卵を入れて作りますが、卵が油を吸ってほわっとするところがオムレツと同じです。それからなぜかよく作るのが卵とトマトの炒め物で、あまりお店のメニューとしては出てきませんが、これが実は中国の一般的な家庭料理の一つなんですね。トマトの酸味が卵とよくあって、白いご飯がすすみます。
 ご飯といえばチャーハンにも卵が欠かせませんよね。中華なべに卵を入れてからすぐご飯を入れるひと、ご飯を入れてからその上に卵をのせるようにする人、またはあらかじめ卵とご飯をよく混ぜておく人など、作り方はいろいろですが、卵がよくご飯にからんだチャーハンは本当においしい。
 そういえば広島風のお好み焼きも卵焼きにのせますよね。キャベツとネギと焼きそばの入ったお好み焼きが卵焼きと合体して広島焼きになります。これとビールがあればもう言うことはありません。
 料理ではないかもしれませんが、生の卵もまたおいしい。ご飯にかける、そのまま飲む、ミルクセーキにするなど、卵はコクと旨みのかたまりです。カスタードクリームやスポンジケーキ、メレンゲをはじめ、デザートにも卵はよく使われますね。プリンとか茶碗蒸しもそうだし。
 書いているうちに卵料理が食べたくなってきました。今日はまた卵焼きに挑戦しようと思います。それにしても、食べたいときに食べられるというのは、実にありがたいことですね。


男の料理?

2006年07月27日 | 食・レシピ
 男が料理するときに必ず作るのはどういったメニューなんでしょうか。思いつくままにあげてみると、カレーとスパゲッティ、ステーキ、トンカツ、オムライス、から揚げ、ビーフシチュー、チャーハン、ピラフ、炊き込みご飯、てんぷら、各種丼もの、サラダ、焼き魚、煮魚、中華風の炒め物、そういったものでしょうかね。
 テレビでタモリさんも言っていましたが、私も男の料理のご他聞に漏れず、材料や調味料を量ったことがありません。私の推測なんですが、お菓子を作るとき以外は、たいていの人は図らないんじゃないでしょうか。お菓子を作るとき以外というのは、お菓子だけはちゃんと材料を量らないととんでもないものができるので、不本意ではあるけれども、ちゃんと量って作るわけです。
 たとえばお店で大量にソースを仕込む場合は、もちろん材料をすべて量ります。そうしないとソースの味がぼやけたりまちまちだったりして、定番のソースではなくなってしまうからですね。しかしメニューにないけれど作れそうな料理をお客さんが頼んだ場合、よく中華なんかでは、材料を言って、あれとあれをオイスターソースで炒めてよ、あと適当に野菜も入れてね、なんて言いますが、そういうとき中国人のコックさんは笑顔で頷いてぱぱっと作ってくれます。材料を量ったりしません。調味料も適当にぶち込んでさっと鍋を一振りして、ハイ出来上がりといって出してくれます。これがまた例外なくおいしくできるんだから、やっぱり中国人は料理がうまいなあ、と感心するわけですが、それはさておき、料理本のレシピにはちゃんと分量が載っています。しかしその通りに作る人がどれだけいるかというと、どうなんでしょうか。
 私の場合は一応レシピを見るけれども、おおよその流れだとかイメージだとかがつかめた段階で、あとは自分の勘というかセンスというか、そういうものを信じて作っちゃいますね。分量は適当です。そして2回目からはレシピをまったく参照せずに1回目の出来上がりから改善点を見つけて作ります。すると何回も作るうちにだんだんおいしくなってくるし、材料や調理法にいろいろな応用が利くようになる。それに小技も身についてきます。この小技というのが料理においてはかなり重要な要素でして、小技の集積が皿の上に載ると言っても過言ではないくらいです。
 たとえば大根を煮るのにも、皮を厚く剥く、面取りをする、隠し包丁を入れる等の小技があります。プロの料理人はそういった小技を手早く正確にまんべんなく行なうので、お金の取れる商品になります。素人が大雑把に作った料理との違いがそこにあります。
 とはいうものの、違いを食べて見分けるのは意外に難しいものです。人間の舌は細かい味の違いを感じることができる一方で、大まかな面もあり、たとえば二つのハンバーグが出されて一つはこの道30年のプロが作ったもの、もう一つは家庭の主婦が作ったものというとき、意外にどちらがプロのハンバーグなのか、見極められないものなのです。料理でなく食材からして、キャビアの高級なのと普通なのと二つ出されても、どっちがどっちなのかわかりません。人造のキャビアさえもわからないことがあります。味覚って、案外いい加減なんですね。
 だから小技にしても重要な小技とそうでないものがある。魚をさばくときに水でよく洗わないと血が回って生臭くなるし、かといってイカなんかは洗ったら身がボロボロになってしまうし、そういったことは必ず知っておかないと料理ができないほど重要な小技ですよね。しかし豆腐を手でちぎって入れるとか、胡麻を振るときに指先でひねって香りを出すとか、そういったことはやってもやらなくてもそんなに違いはありません。プロの料理人は「いや違う」と言うかもしれませんけど、食べるほうからしてみるとそんなに変わらない。
 要するにおいしさの基本の材料、脂肪とアミノ酸、糖が入って、あとは塩味や辛味酸味苦味のバランスがよければ、おいしいと感じてしまいます。これは味の部分ですね。食感という面から見ると、気をつけなければならないのが、やりすぎということです。焼きすぎ、茹ですぎ、煮すぎ、蒸しすぎ、揚げすぎ、多すぎ、そういったことは徳川家康じゃありませんが、足りないのと同じでおいしくありません。プロの料理人はやりすぎもなく足りないこともなく、ちょうどいい感じで料理を仕上げます。
 おいしいトンカツ屋さんに行ってヒレカツを頼むと、テーブルに届いたときは真ん中あたりがまだ少し赤い色をしています。で、端っこから食べていくと、そのうちに余熱で火が通って、真ん中を食べる頃には赤味も消えてちょうどいい具合になっていて、しかもちゃんと火が通っているという絶妙な揚げ加減で出してきます。見事です。
 から揚げを何度も揚げてみて気がついたのは、から揚げもトンカツと同様、油から出しても余熱で火が通り続けるということです。最初はそれを知らなかったので、しっかり火が通るまで油で揚げていましたが、どうしても色が黒くなるし、食べると硬い。で、気がついて火が通る寸前に油から出すようにしたんですが、これが難しい。早めに出したようでもまだ揚げすぎで硬かったり、逆に早すぎて真ん中が生だったりしました。でも何度もから揚げを作っているうちに、肉の温度、油の温度と量によって、ちょうどいい加減がわかってきました。これがタイミングということです。
 プロの料理人が作るのを見ていると、微妙にタイミングが早い。たとえば中国人のコックさんが青菜の炒め物を作ると、えっ、もういいの?というタイミングで出してきます。下茹でも、さっと熱湯をくぐらすだけみたいな感じですし、炒めるのも、にんにくとしょうがを先に炒めて香りを出したらすぐに青菜を投入、スープをふりかけて塩こしょうしたらちょっぴり片栗粉でとめて、ネギ油を回しかけて鍋をさっと一振りでもう出来上がりです。食べると、火はちゃんと通っているのに青菜がくたっとし過ぎていなくて、とてもおいしい。家で作ろうとするとやっぱりあの強烈な強火がないので、同じようにはできません。下茹でするのに大量のお湯に少量の油と塩を入れること、厚手のフライパンを十分に熱してから炒めること、の2点を実行したら、ある程度はお店の青菜炒めに近いものができました。ずっと時間がかかりますけどね。
 よく知られている料理の小技のひとつに、ステーキを焼くときは肉を常温に近づけておくこと、決して冷蔵庫から出してすぐに焼かないこと、というのがあります。ステーキについては道具が大事で、テフロンのフライパンに比べると、ステーキパンを使ったほうがずっとおいしくなりますし、ステーキハウスのように鉄板で焼くとそれはもう肉のランクが上がったんじゃないかと錯覚するほどおいしく焼けますよね。逆に言うと、グラム1,380円の、町の肉屋では最高ランクの黒毛和牛でも、テフロンのフライパンで焼いたら、安い肉並みの味になってしまうということです。これはかなり悲しい。
 ということで、道具をそろえて、脂肪、アミノ酸、糖がすべて揃うように準備した材料をたくさんの小技を使って下ごしらえし、塩味辛味酸味苦味甘味をバランスよく味付けして、タイミングよく仕上げれば、料理は常にうまくいきます。当たり前ですね。
 食材にしても、料理の小技にしても、とにかくたくさんあるので、おいしいものを作ろうとするとかなり頭を悩ますことになりますし、誰もが何度も失敗をして自ら教訓を得ることになるでしょう。料理は奥が深い。定年後に料理教室に通う男性がたくさんいるそうですが、いいことだと思います。しょっちゅう料理を作っているとボケないでしょうね。


麻婆豆腐

2006年07月13日 | 食・レシピ
 こんばんは。休職中の耶馬英彦です。今日は料理の話を。
 会社を休み始めたのは3月の始めからですから休職も5ヶ月目に突入してしまっているわけで、どうも坐骨神経痛が治りそうもないし、この間は病院に行ったら担当医が変わっていて、その医者が言うには、少しよくなっているがと前置きされたあと、どうもこれまでは椎間板ヘルニアと腰椎分離症の併発だったといわれていたのが、さらに脊椎管狭窄症も発症している模様とのことで少なからずショックでした。会社の好意ということで休職という形(給料は出ないが健康保険は有効)にしてもらっていますが、だんだん心苦しくなってきました。しかし少し歩いたり立ち続けたりすると途端に腰からつま先にかけて痺れと痛みが襲ってきますので、この状態で復帰してもまた迷惑をかけるだけなのがわかりきっているだけに、なんともつらいところ。お金も減っていきますしね。
 ということでほとんど外食せずに自炊しています。最初の頃は調味料や調理器具などを揃えるのにやたらに金がかかって、もしかしたら外食のほうがかなり安いかも、と思っていましたが、揃ってしまえばあとはそのときどきの材料を少しだけ買えばよく、とても安上がりになることがわかりました。刺身やステーキなんかを食べたらそれは外食並みにかかってしまいますが、簡単な和食や中華、パスタや鍋なんかを作っている分にはかなり安く出来ます。
 たとえば麻婆豆腐を作るにしても、木綿豆腐と挽き肉とニラを買うだけで、豆板醤その他の調味料は大体揃っているので大体200円程度で出来ます。

 私の作り方は、
 ネギ、ニンニク、ショウガのみじん切りを炒めて
 そこに豆板醤と挽き肉を入れてさらに炒め
  お湯とガラスープの素、
  老酒
  甜麺醤
  搾菜
  豆鼓
  冬菜
  芽菜
  醤油
  砂糖
  中国醤油
  山椒
 を入れてから味を見て、
 塩味と辛味を調整したあと
 湯通しした角切りの木綿豆腐を入れてしばし煮込み
 片栗を打ってとろみをつけてから
 ニラとネギ油と胡麻ラー油を入れ
 ひとあおりしてから器に盛り
 粉山椒を振りかけて
 ハイ出来上がり。

 木綿豆腐じゃなくて絹豆腐を使う人もいらっしゃると思いますが、私は湯通しした木綿豆腐だと味が入りやすく、食べたときも「麻婆+豆腐の豆腐」ではなくて「麻婆豆腐の豆腐」を食べている感じがするので木綿のほうがいいかな、と思っています。
 ちなみに麻婆豆腐の名前の由来はたいていの人がご存知の通り「麻」(あばた顔のこと)のおばあさん(婆)が作った料理だから、となっています。この「麻」には痺れるという意味もあって、字で書くと一目瞭然ですが、麻痺の麻、麻薬の麻ですね。料理の場合は山椒の痺れる辛さの意味になります。唐辛子の辛さはラー油の「辣」で、山椒と唐辛子の両方が聞いた料理には「麻辣」(マーラー)という作曲家みたいな名前がつくことになります。
 さて、麻婆豆腐のような辛い料理はご存知カプサイシンのおかげで新陳代謝が活発になり汗をかくくらい体温を上昇させて体内の脂肪を燃焼させますが、同時に食欲増進効果もあるのでついつい、カプサイシンの働き以上に食べてしまうこともあります。それに辛さは味覚に働きかけてもともとの料理をよりおいしく感じさせる効果もありますからね。かつて道場六三郎さんが「料理の鉄人」というテレビ番組の中で「辛くすりゃ何でもうまいんだよ」と吐き捨てるように言っていました。たしかに和食の料理人は胡椒も山椒も唐辛子も使わない繊細な料理を苦心して作りますからね。それはそれで大したものですが、かといって辛い料理がズルをしているわけではありません。単に辛いだけではおいしくありませんから。
 麻婆豆腐の話に戻りますが、注目すべきは材料の中に搾菜と芽菜と冬菜という三種類の漬物を入れていること。漬物は最近スーパーで売られているものは漬物という名の味付け野菜ですが、本来は発酵食品のひとつで、胃腸が動物性脂肪に対して強くない日本人は漬物で乳酸菌を補給していました。たいていの場合体に良いものはおいしいもの、ということで漬物を三種類も入れることで単に辛いだけの麻婆豆腐ではなく、味に奥行きのある麻婆豆腐が出来ますよ。料理に興味のある方はぜひお試しください。