日本国内の携帯電話の台数が加入電話の台数を上回ってから何年も経ちました。加入電話は会社などの需要で今後も使われ続けるでしょうが、家庭での利用はますます減っていくと予想されます。家庭では精々一世帯に一回線の加入電話があるくらいですが、携帯電話はひとりでふたつ以上持っている人も珍しくなくなりました。私の会社でも営業職や管理職は個人のと会社から支給されたものとふたつ持っています。個人的な利用に限っても電話とメールとWebサイトなど用途で使い分けたり、彼氏ごとに分けていたりしますし、プリペイドを何台も揃えて振込め詐欺に使ったりと、台数は増える傾向にあって、加入電話との差は開く一方です。
携帯電話がこれほど普及するはるか前、かつて私が丸井のローンを使ってアパートに電話を引いたときは、総額でたしか87000円も支払いました。その内、凡そ6万円以上は電話加入権という一種の債権だったはずです。何故そんなお金を支払うのか理解できなかったのですが、解約したときには戻ってくるという話に渋々納得した記憶があります。とにかく電話加入権を買わないことには電話の契約ができないというのですから仕方がありません。仕方がないけれども納得した訳ではなく、電話加入権なんて電電公社が勝手に創造した架空の概念に決まっていると思っていました。なにしろ電電公社は三公社五現業のひとつであって、役人たちのやっている事業です。役人たちと言えば、何だかんだと大義名分をこしらえては国民からお金を搾り取るのが仕事ですから、電話加入権という実態のない債権を考え出すくらい朝飯前だったのでしょう。NTTになったいまも、役人気質は変わっていないのかもしれませんが、少なくとも民営化された後に入社した社員には多分あまり感染しておらず、経営陣との温度差があるのではないでしょうか。そのあたりがNTTの最近の業績に現れている気がします。
NTTの心配はともかく、電話を引くために仕方なく購入した電話加入権ですが、いつか困ったときには売るか質に入れるか電電公社に返すかして、意味不明に取られた金額を取り戻すつもりでした。しかし不幸にして電話を売るほど困った事態に陥ることがないまま、自宅にパソコンを買ってインターネットをはじめました。暫くの間はダイアルアップのテレホーダイを使っていたので、まだ電話回線が必要でした。その後、東京電力のテプコひかりを契約してブロードバンドに切り替えたとき、携帯電話の料金も安くなっていたこともあって、ようやく加入電話を解約して電話加入権を返却し、取られたお金を取り戻すのだと、勇躍、NTTに連絡しました。
ところがNTTの女性社員の対応はまことに素っ気ないものでした。
「電話加入権を買戻しすることはできません。電話を解約しても電話加入権の返金はいたしません」
「では電話加入権を購入する際に支払ったお金はどうやって取り戻したらいいのですか?」
「以前は電話加入権を買い取ったり、担保にしてお金を貸してくれたりする業者があったのですが、今ではそういう業者はなくなりました」
「ということは、どうしようもないということですか?」
「はい、そういうことです」
以上の会話で終了しました。以来、必要もないのに加入電話がずっと家にあって、掛かってくる電話といえば訳のわからない営業の電話だけです。
携帯電話はインフラも整備されて日本中のたいていの場所で通じるし、燃料電池の小型化が安価で実現したら、充電の煩わしさからも解放されるそうですから、今後ますます加入電話の必要性が少なくなります。第一、家にいないと電話を受けられない訳ですから、時代から遠く取り残された、20世紀の遺物の最たるものではないかと思うくらいです。
という訳で、無理やり買わされた電話加入権のことを思うと夜も眠れないほど怒りに震える毎日ですが、NTTという会社は総務省の天下り先でもあり、官僚と元役人とがつるんで国民のお金を騙し取る図式は、旧態依然として変わりません。高速道路と同じです。高速道路は走らざるをえませんが、電話会社は選ぶことができます。
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