映画の続編の見本のような作品である。前作から経過した36年の月日を上手に描いてみせた。登場人物は歳を取り、戦闘機の開発は日進月歩だ。しかし人の魂は変わることがなく、愛は色褪せない。
科学の最先端は残念ながら軍事技術である。そしてそれは無人、自動の方向に進んでいる。無人航空機もそのひとつで、映画「ワイルドスピードスカイミッション」に出てきたドローン戦闘機も、既に実現しはじめている。ウクライナのゼレンスキー大統領が2021年の秋に行なった、自国の東部の親ロシア派武装勢力に対する空爆にも、ドローン航空機が使われていた。
いまのところは遠隔操作のドローンだが、そのうちマッハで飛行する無人の戦闘機が全自動で敵を攻撃するようになるのだろう。そうなると、戦闘機乗りはいらなくなる。
「しかし」とピート・ミッチェル=マーヴェリックは言う「それは今ではない」
ピートは今だけを生きるリアリストだ。幸福な思い出と一緒に不幸な過去を背負っているが、ひとえに今を楽しむ。そして軍人として任務に正面から向き合う。将来は無人機が任務を遂行するのかもしれないが、今は戦闘機乗りとしての自分にしかできない任務がある。
任務に障害になる人間関係の不和があれば、誠実に解決を図る。最大の任務は、全員を生きて帰還させることだ。困難なミッションが終了すると同時に、わだかまりは氷解し、愛は再び燃え始める。
トム・クルーズは歳を取っても相変わらずかっこいい。乗っているバイクがKAWASAKIなのは日本のファンへのサービスだろうか。序盤のダイナーのシーンで、ピートの Where am I?に対して、子供が Earth と答えたのには思わず吹き出してしまった。サービス精神も旺盛なエンタテインメントである。
テーマは「居場所」だと思う。本作品の台詞で言えば「逃げる場所」となるのだろうか。逃げる人がいれば、逃げられる人がいる。逃げられる人は、次は逃げない人、逃げる場所のない人をターゲットにしようとする。そうして亮くんは更紗を選び、更紗はそうと知らずに亮くんと付き合う。
逃げる人が心を許せるのは、自分と同じ逃げる人だ。更紗は文を心の拠り所とし、文は更紗を受け入れる。「居場所」は土地ではなく、一緒にいる人にあったのだ。大人になった更紗は、漸くそれに気づく。文が子供時代の自分の居場所になってくれたように、これからは自分が文の居場所になる。多分、文も再び自分の居場所になってくれるだろう。どこに行っても、ふたりで同じ月が見られれば、それでいい。
とても美しい物語だった。