日々好日・いちよう

ちょっとした日々の一コマです

吉村昭著「破船」

2021-05-12 | 読書

先週読んだ本
吉村昭著「破船」新潮文庫刊

OGPイメージ

吉村昭 『破船』 | 新潮社

二冬続きの船の訪れに、村じゅうが沸いた。しかし、積荷はほとんどなく、中の者たちはすべて死に絶えていた。骸が着けていた揃いの赤い服を分配後まも...

 

 

本屋さんで何気なく買った一冊だが
気楽に読める本ではなかった。

海と山に囲まれた17戸の寒村
村おさの元、季節ごとに畑や海で働き
飢え死にするか、しないかの瀬戸際の村

怪我や病気で助かる見込みのないものには
大切な食べ物を与えることなく見送る

子供を遊ばせるゆとりもなくできる範囲で働かせ
それでも食べられなくなると
家族の一人がわずかな金額で年季奉公に身売りし、お金を得る。
家は掘立て小屋(多分)入り口の戸はむしろ一枚
寝る時は寝藁にもぐり込み休む。

それでも子供は死者の生まれ変わりとして大事にされるが
十分な栄養と清潔な住まい無くして
誰でも成長できるわけではない。

冬の荒れ海を渡ることに失敗した船が「おふね様」
夜っぴいての塩焼きで沖を見張り
難破船を見つけると、村総出で乗組員を排除し
積荷を村全体で分ける。

すべてが村おさの指示の元
不満不平はなく、不公平感ももたない。

父が身売りをした9歳伊作
仕事を教える者もないが
小さな体で懸命に蛸、イワシ、秋刀魚を取り
季節になると山に入り、母と共に一緒に残された家族を養う。

「おふね様」でお米が食べられ一息ついき
3年で体も知恵も付いたものの
次なる「おふね様」で予想外の事が起きて
大多数が病んでしまう。

むらおさや母、弟など病が癒えた人たちも
病を次世代に残さないため、村を存続させるために、
村おさを先頭に山に入り、残りのものを守る。
山には食料も小屋もなく先行きは知れていたが
誰一人逃げるものなくむらおさに従う。

出口なし、先行きなし、病の知識なく
希望とてもない寒村

豊かになる前の日本のどこにでもあった村かも知れない。

魚が取れると喜び
温かい実のない雑炊に一息つき
心ある女性にときめき
小ちゃな喜びで一生過ごす。

昔のどこにでもあった風景かも知れない。

この悲惨な村の状況を事実のごとく物語り
映像を見るかのように心に突きつける。

かたや、豊かになった今この地で、
大して働かなくても飢えることもなく
凍えることもなく、夏だって涼しく過ごせるこの頃
なんの不満があるのだろうか?

それでも、流行り病に政府の後手を罵り
「このくらい楽しまなくちゃ〜〜」と人混みに出かけ
何やってるのだろう、、、


柿の花(育ちの悪いのは落下する)

お勧めしたい一冊です。

コメント
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